88.コーヒーと靴
やっとコーヒーとゴムがやってきました。
その日は珍しく放課後に王から呼び出しがあった。何かしたっけ、と疑問に思いながら登城する。
「王様ー?用って何?…ぅわ」
赤いツブツブの実?が生ってる植物が所狭しといっぱい並べてある。あと、樹木が3種類。幹に傷をつけて樹液が確認できるようにしてある。
「以前お主が欲しいと言ったものを探してみたんだが、ドレがアタリなのか解らなくてな。一通り集まるまで待っていたら遅くなった。どうだろう。望みのものはあるか?」
喜び勇んで私は鑑定を掛けて回る。あった!コーヒーの木だ!
「これです!!コーヒーの木!これだけですか?まだありますか!?」
「今回は種類を集めたのでそれだけだが、もっと必要なら大量に取り寄せ可能だ。なにせ現地ではそこらに生えてる雑草と変わらぬ扱いだったゆえな。少し実が甘酸っぱいけど、種が大きくて食べ甲斐がないと言われてるようだよ。」
「種が重要なんです……!!!」
あ、ゴムの木は…これだ。
「ゴムの木ももっと欲しいです!これです!!」
「あい解った。その2種、数を増やして公爵家に届くよう手配しよう」
「今あるヤツも持って行っていいですか!?」
「構わんよ…そこまで欲しい物がお主にもあったんだのう」
多分今私の目はキラッキラに輝いているだろう。頬ずりする勢いだ。
「ありがとう王様…!!!」
コーヒーの木とゴムの木を転移で送り、王様に手を振ってから自分も転移する。もちろん鍛冶屋へ!
「鍛冶屋~!居るか~?」
「ほいほい?ビューラーならまだ出来とらんぞ」
流石にビューラーは3万個を超えたあたりからちゃんと支払いを受け取って貰っている。
「コーヒーミルを作って欲しい。出来れば魔道器で」
「ふん…詳しく聞こうか?」
私は豆状の物が粉になるまで砕く機械が欲しいと一生懸命に説明する。
「なんじゃ。そんなもんは簡単じゃ。ちと待っておれ」
「家庭用のちっさいのと、店用の大きいの、2個欲しいー!」
「ほいほいほい。解った解った」
待つこと2時間で2つの大小のミルを持ってきてくれる。
「うわーやったー!いくら?」
「こんな単純なモンで金なんぞいらん。ビューラーの売り上げが凄まじいしな。今後も良い取引がしたいぞ」
「うーん…解った貰うよ。またなんかイイ話が出来たら真っ先に親父に相談するからなー!」
「ほいほい、ありがとよ」
後で沢山届けてくれるっていうなら、この2本の木はとりあえず好きにしていいって事だよな。
リクハルトに相談して、ゴムとコーヒーの木を植えたいと言ったら、これまた広い所を用意してくれた。
後程沢山届くので、有意義に使わせて貰うと約束し、笑顔になる。
まずコーヒーの実を全部採取する。錬金部屋に行って、不要な部分を全て除去する。そして乾燥させる。
焙煎してコーヒー豆の準備OK!ガラス容器も錬金し、その中に入れる。
もう一つガラス容器を用意し、ミルで挽いた豆を入れる。
強化ガラスでドリッパーを2種作り、家用と店用に分ける。
強化ガラス製でサーバーも作って家用と店用に分ける。
で、ドリップペーパーが問題だった。紙高いんだよ…あ、布でもいける。天井蚕の糸と金属で取っ手付きネルフィルターも家用・店用を作る。
プラスチックでコーヒー豆用計量スプーンを作って準備は万端だ!
るんるんしながら材料を全て浮かせながらキッチンに運び込む。店用セットはリシュに渡しておくけれど、まだ量産体勢が整ってないので、量産してからメニューに加えて貰う様に頼む。
リビングに居る面子に聞いてみた。
「コーヒー飲みたい人ー!」
「ハイッ!!!!飲みたいです!!!」
リシュはコーヒー苦手なんだよな。他のメンバーは何だか解らない顔をしていたので巻き込む事にする。黒曜にも飲ませる。
先程挽いたばかりのコーヒーを人数分淹れ、リビングに持って行く。砂糖とミルクも一応持ってきた。
「はいっ!これが私とアディが大好物のコーヒーです!ストレートだと飲みにくい人は砂糖とかミルク入れてな」
「ああああコーヒー!!!なんかもう半分くらい諦めかけてた…!嬉しいよお…!!」
「今後ウチに結構な量が届くから、いつでも飲めるようになるし、レストランにも置けるようになるぞー!」
「ほお…良い香りだな…。どれ…ううむ…苦味が強いが癖になる感じがするな。私は結構好きだな」
「私はミルクと砂糖入れたヤツが好きだな。美味しいよマリー!」
「香りが良い…なんとも複雑な味がするが、ストレートで飲む方が解りやすいだろうな。私も好きだ」
アディは感想を言う余裕もなく、コーヒーを大事に大事に一口づつ味わっている。
あとは…
「なあ、リクハルト、皮職人にオススメの人材って居ないか?」
「ああ。居るけれど、何かまた作るのかい?」
「ん―――出来れば量産体勢が取れればいいけど、私もそんなに暇じゃなくなってるしな…確実に儲かるけど、リクハルトかソラルナ、やってみないか?靴底はこっちで用意できる」
「靴かい。意外なところに来たな」
「私達の住んでた前の場所では、靴底はゴムで出来てたんだ。木の靴底じゃ歩き辛いし、人の足の型から取らずに四角とか丸にしてあるから足の指が痛いんだよ」
取り合えず家族分の足型を木の板に写し取る。
「上側は、皮でもいいけど布でもいいから、出来ればどっちも扱える人が良いな」
「…うむ、解った。心当たりが幾つかある。話を持っていってみよう」
「ああ、話を持っていく時に、靴底の大きさを男女それぞれS/M/Lと三つサイズが作りたいんだ。顧客の足型を幾つかサンプルに取ってくれる人が良い。サイズがぴったり合わないと嫌だって人にはオーダーメイド出来るけど、量産の安いものの方が良いって人の方が多そうだから、それぞれ良くあるサイズで種類を作っておきたいんだ」
「ほお。なかなかに考えてあるな。いいだろう。私が音頭を取ろう」
「出来れば、その足の形に慣れた人に靴下も作ってほしいな。今の靴下って靴と足がぶつかった時に痛くないよう分厚いのしかないだろ?でも足にピッタリな靴なら、靴下も足にぴったりな方がいいんだよ」
「なるほどなあ…」
「これ以上は、もう履いて見ないと解らない。一旦靴底作ってくるから、職人さんに連絡取って置いて。ブランド名はうちとその商人合同の名前にして欲しい。相手の名前だけ刻印するような人は避けてな」
コーヒーを飲み終えると、木の板を大量に持っていく。足型を取ったやつだ。アディがキラキラした目をしてる。うん、木靴に物凄く嫌な顔をしてるの知ってた。
錬金部屋につくと、ゴムの木から取れるだけの樹液を一旦搾取する。化学式から石油を作り、合成ゴムも作る。
薬品を混ぜ、この二つを練り混ぜる。柔らかくなり過ぎないよう、硬過ぎないよう配合比率を調整。板状に加工し、裏面に滑り止めの溝を刻む。さっきの足型より少し余裕を持たせてカットする。内側に確保したい部分には白い線を引いておいた。混ざって解らなくならないよう、それぞれの名前の書かれた木の板の上に乗せていく。
それを持ってリビングに戻る。一旦裸足で靴底の上に乗って貰う。2センチと少し厚めにしてみたんだが、ミスカットした部分はなさそうで安心した。
リクハルトに表面と裏面の説明をし、表にはするするした材質の布を張ってほしいとお願いする。
苦笑したリクハルトは、頼んだ事を全部メモに書き出していた。私は其処にシューズと革靴のデザインも書いておいた。
さて、私がするのはここまで。職人さんとガチるのはリクハルトだ。量産体勢が取れるのは、ゴムの木が沢山届いてからだという事は伝えてある。
実と樹液を採ったコーヒーの木と、ゴムの木は、リクハルトがくれた農園スペースに植えなおした。元気に育ちますように、と土にお願いする。こころなしか、しんなりしていたゴムの木が元気になったように思う。
翌日、学園から戻ると、リクハルトがOKサインをくれる。引き受けてくれる所が見付かったようだ。ただ、売るなら自分でも使ってみる、が信条の職人さんらしく、リクハルトが職人の足型を取ってきてくれた。…珍しい。このサイズなら女性だな。
錬金釜で昨日と同じように女性の靴底を作り出してリクハルトに渡す。リクハルトはさっとそれを持って職人の下に出かけた。もう余剰の樹液はほぼない。国王から届くのを待つしかない。
晩餐が終わって、紅茶派と珈琲派に分かれて好きな方を飲む。
あー…食後の珈琲ほんとに最高…!
因みに飲みたいときに飲めるように、珈琲好き勢には淹れ方を教えておいた。アディがかぶりつきで見ていた。
2・3日ほどすると、王から大量のコーヒーの木とゴムの木が届いた。
丁度休みの日だったので、皆に手伝って貰って木を植える。
タイミングの良い事に、ゴム底で渡した全員の分の靴が出来上がってきた。学園に通うなら皮のローファーだろう、という事で靴下も付いて来て履き心地の良いローファーを手に入れた!!足が解放された気分だ!
リクハルトやソラルナ、ラライナや黒曜も、驚きながら足踏みしてみている。
「これは…木靴で満足出来ない気持ちが解るな…足が軽いし動きやすい。滑らない。職人さんも大絶賛してたぞ」
「それにスマートでお洒落よね。これは一度履いたら木靴に戻れないわ~」
「S/M/Lの平均サイズ、聞いて来れました?」
「ああ。紙に書いておいたよ」
「量産体制は、そちらの方はなんて?」
「いつでもバッチ来いと言ってたぞ」
私は錬金部屋でオートモードを始動させ、ゴム樹液の採取、ゴム作りからメモの通りのサイズより少し大きいサイズにして内側になる部分に線を入れる所まで各サイズで指定した。
折角なので、珈琲も、実の採取から焙煎するところまでをオートで。劣化しないよう、その日出来上がった分はアイテムボックスに回収だ。店用に大きいサイズの袋に入れたものはリシュのアイテムボックスに入れる。
さて、どんな反応が返ってくるだろうか。
ローファーで学園に行くと、目ざといシュネーが、その靴はなんだと聞くので、試しに黒曜の靴を履いてみてもらう。驚愕した顔で、私には何故ないのか!?と言い出すものだから、家族でリビングに集まった人の分しかない、と説明した。
「…そなたの事だ、どうせ広く売り出すんだろう…?」
「まあそうだな。でも王族の分はデザインも込みでオーダーメイドで作るよ。明日足のサイズ計りに行きたいって言っておいてくれ」
「私の分もだよな?」
「解ってる解ってる」
次の日には王・王妃・シュネーの3人の足のサイズを測り、デザインの要望を聞く。
ゴム底を用意したら、注文書と一緒に職人さんに渡す。急ぎのしるしをつけておいたら、次の日に仕上がってきて吃驚した。王家の3人は満足そうに靴を履いている。足にぴったりとフィットして歩きやすそうだ。
「木靴ではずっと指が痛かったのよ…これはそんな事全然なくて凄く快適だわ」
また王族創業勅許を貰ってしまった。お礼にコーヒーセット一式を送っておく。淹れ方は紙に書いておいた。
勅許の書類はリクハルトに渡しておく。明日から売り出しだが、クラス内ではかなり噂になっている。売れ行きはどうなるだろうか。あ、協会はまた自分達で作っておいた。ゴム底靴協会って。
珈琲はじんわりと支持層が増えているようで、段々必要数が増えてきてるようだ。定着してくれれば嬉しい。
ずっと欲しかったものが手に入っただけでも、私とアディはうはうはだ。またデザイン的に欲しいのが出来たらオーダーメイドで注文しよう。…取り合えず運動靴かな。学生面子と家族は全員欲しがったので、運動靴のデザインを書いて、靴底と一緒に提出しておいた。昼にも話したので、紙にマルクス君の足型を取って、ローファーと運動靴両方を注文する事に。
そして、靴屋を開いた途端に大行列が出来ていたのを見て、私は化粧品売り出し時の混乱を思い出して懐かしくなった。
リクハルトさんは暫く忙しくなりそうですね。頑張れ!
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