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9.スタンピード

パパ無双~( • ̀ω•́ )

 スタンピードが起こるには一定の条件がある。まず、其処にダンジョンが有る事。


 そしてそのダンジョンに定期的に入って敵を倒す者が居ない事。


 誰も駆除に訪れないまま長期間放置される事だ。


 そうなったダンジョンは徐々に瘴気が溢れ出し、制限を越える程モンスターの数が増えた時、外側へ溢れ出す現象がスタンピードと呼ばれる。



 ダンジョンは見付からないと言うが、多分入り口自体が狭くて隠されたダンジョンなのだろう、と言う事だ。魔物が町に程近く接敵する明後日が決戦日だが、なるべく殲滅しながら敵の流れを(さかのぼ)れないかと考える。


 流石に湧き出る場所くらいならそれで判明するだろう。後は元凶のダンジョンの定期的駆除さえすればいい。ただ、スタンピード後1回目の攻略はかなり難易度が上がる。いっぱいに溜め込んだ瘴気で満ちて、内部の魔物の数が膨れ上がって通路も部屋も一杯になる。連戦が続く上、なかなか安全地帯まで行く事が出来ないので死亡率が非常に高いのだとか。


 ギルドから要請を受けた次の一日は完全休養とし、全員体を休めて貰う。いつでも近くに居られない事も伝えてある為、回復のポーションとマジックポーションをそれなりの数用意し、各自で持って貰う事を約束。私はポーションの買出しへと外へ出た。リシュとマリーは当然のように付いてくる。


 どうやらリクハルトはポーションが直ぐに取り出せる様、ポーション用の皮のベルトを探しに行ったようだ。


 程なく道具屋についた私はヒール・マジックのポーションを、6人分より少し多目に買う。誰がどっちを多目に持つか解らないからだ。特に他の用はなかったが、果物屋でレモンをそこそこの数を買いつける。皮袋に入れた水は匂いが移りがちで少々飲みにくい。緩和出来ないかと思ったのだ。どうせだからレモンと砂糖、少々の塩を入れ、乾いた体に優しいスポーツドリンクにしてしまおうと思う。家に戻った私は、さっさと厨房へと向かった。


 他の皆はヒールポーションとマジックポーションの装備比率に悩んでいるようだが、私はマジックポーション一択だ。ヒールが使えないような事態に(おちい)る事もあるかも知れないが、連続して技や魔法を連打してMPが尽きるほうが厄介だ――いや…一応一本だけはヒールポーションを持っていくか…あくまで念のためだ。過信は良くない。


 スポーツドリンクを大量に作り終えた後、沢山の皮袋へ詰め込み、氷魔法で冷やして3人分のアイテムボックスへ詰め込んでいく。


 リシュのボックスには私とアディに詰めた5倍の量を詰め込んだ。時間停止してくれるのが有り難い。疲れた体に冷たいスポーツドリンクはさぞ染み渡るだろう。


 簡便に体力を回復する為、ナッツ入りの棒飴もいくらか作り、一口サイズに切って詰める。流石にダンジョンでやっていたような食事は、今回は無理だ。口に入れながらも戦闘出来る程度のものでなくてはならない。


 リクハルトに貰ったベルトに全てポーションをセット。後はダンジョン攻略時と同じ装備で問題ない。

 多分だが、敵を(さかのぼ)ろうとする時にアディが付いてくる気がする。毒無効は頼もしくもあり、(けい)も気もある程度扱えるアディはきちんと戦力になってくれるだろう。


 そうなると、残りの一行の中でアイテムボックスと転移を使えるのはリシュ一人になってしまう。後方支援部隊でヒールポーションを使ってくれる場所を作ると聞いたが(いささ)か頼りない気がする。しっかりと物資を詰め込んで置くように、そしてリシュと公爵一行は決して離れずにお互いをフォローしあうようにと伝えた。


 最初は渋い顔をしたリクハルトだが、肝心のダンジョンをどうにかしない事には定期的にスタンピードが起きる事を伝えると、領主の顔を垣間見せ、了承してくれた。ありがたい。


 翌朝、指定時刻より少々早めに街の入り口へ向かう。入り口を入って直ぐの場所に、ギルド職員と有志の者による簡易診療所が作られていた。まだ他の冒険者も(まば)らで診療所の近くで敵の接近を眺めている。


 今しかない。


 私は風魔法で空を飛んで森の何処から魔物が溢れ出しているのかを確認し、ぞろぞろと流れてくる魔物に向けて「メテオフォール」と唱えた。


 火と土の高等複合魔法だが、こんな状況でもなければほぼ遣いどころがない。魔法の範囲が広すぎて、フレンドリーファイアになってしまう。先頭の辺りがほぼ壊滅したのを見て、今度は中央にメテオフォールを落とす。最後に後方の辺りにもう一度。


 現状では生き残っている敵はかなり数を減らした。1/50以下ほどだろうか。しかも熱の煽りを受けて傷を負っている。リシュ達だけでも充分過ぎるほどサクっと倒せるだろう。


 白目を剥いている後方支援部隊と冒険者達に、届くよう、上空で「拡声」と唱えてから用件を伝える。


「モンスター共の湧く場所を突き止めてダンジョンを探し当てて来る。それまで町を頼んだ!」


「あたしも!」


 私と同じように空を飛んだアディが付いてくる。森の中を探るには上から見ただけでは解らない為、樹木の中に入る程度の低空飛行で魔物の行列を探す――と、居た。


 森では遮蔽物もあり、空から降らせるタイプの魔法は使えない。火災の恐れもある為火や雷の魔法も使えない。


「ジャッジメントフィールド!」


「ダークヴォルテックス!」


 先ほどよりは範囲は狭いがそこそこ間引いて行ける。


 飛行しながらずっと2人で範囲魔法を打ち続け、敵の数を減らしていく。


 アディは少し苦しそうにマジックポーションを使う。そのまま間引きを続け、森の中央辺りに差し掛かった時に、滝の裏から魔物が沸いているところを発見する。


 滝の裏というだけで見落とすような事はないはずだ。何かあると踏む。


 其処からは滝の裏へ着陸し、刀剣で全ての敵を撫で斬りしつつ進む。


 切れ味が凄すぎて手応えが殆どないのだが、敵の体が両断されていく。


「マリー、この刀凄すぎるよ」


「だな。鍛冶屋の親父に感謝だ」


 円を書くように刀を回して斬ると、冗談のように容易くスポポポンと魔物達の首が飛ぶ。アディは1体づつ慎重に戦闘を進めている。そうして進んでいるうちに、岩から魔物が生えるようにして出てくる所を発見する。


「――幻術か!…誰だこんな事をする奴は…」


 他国の者で間違いはないだろうが、何処の国かは解らない。


「ピュリフィケーション!」


 幻術が解体され、(いびつ)で大きな穴が其処にある事が解った。


「アディ。1層だけ殲滅する。でないと敵がどんどん出てくる。通路も小部屋も全てモンスターでぎちぎちに詰まっていると覚悟しておけ」


 水袋で喉を潤し、飴を一つ口にいれたアディは頷く。私は水だけを飲んで部屋に踏み入った。


「勁震連斬!」


 勁がなるべく広範囲に(わた)って影響するよう編み出した技だ。勁の(とお)った敵が纏めて倒れる。これで少しスペースが出来た。


「ずるい!そういうのまだ教わってない」


 ぶう、と膨れながらも、気はきちんと身に纏わせたアディだが、刀に及んでいない為防御の役割しか果たせていない。


「刀身まで気を伸ばせ未熟者が」


「でき、な、いよっ」


 アディが3匹纏めて相手をし、斬り伏せる。


「丁度良い鍛錬になるだろう、敵を切りながら気を伸ばせると想像して戦え」


 言いながらも、飛燕6連でまたスペースを作る。これも気を飛ばす技である為、アディには使えない。


「絶対此処でモノにしてやる…!」


 瞳を燃やしたアディが決意に満ちた発言をする


 修練と言いつつも実戦である。例え刀身に気が使えないとしても充分に敵を間引いてくれる。


「アァッ…飛燕、3連…ッ!」


 間引きながら通路を駆けていた途中、急に技の名を口にしたと思えば、アディの刀身がうっすらと気を帯びている。


「その調子だ。もっと刀身に回せ。体の一部だと思え」


 段々と纏う気の量が増えている。


 増えると、相手をした敵の後ろに居る敵を巻き込んで斬る事が出来る。


「どーよ…ふへへっ…」


「良い感じだ、速度上げて行くぞ!」


「応!」


 疲れた顔をしているが、戦意は微塵(みじん)(おとろ)えていない。


 我が子だった亜紀の成長に、私もますます戦意を上げていく。娘には大きな背中を見ていて欲しいものなのだ。


 このダンジョンは余り上級ではないようで、出てくる魔物は各層入り乱れてはいたが、そこまできつい歯ごたえのある敵ではない。だが兎に角数が多いため、余り余裕もないのだが。背後から来た敵を視線も投げずに両断、そのまま前に刀を滑らせ、6体ほど巻き込んで首を飛ばす。


 中ボスなどが上がって来ていないのは幸運だ。早めのペースでどんどん蹴散らしていくと最後の区画にたどり着く。


 終わりが無い様に思えた1層の掃除もそろそろ終幕のようだ。少しほっとしながら、残りの魔物を駆除する。――と、1人の人物が居た。


 痩せ気味の少年の体に質の良さそうな外出着でふわふわと浮いている。


「あれあれ?なんで此処に人が来てるの?僕の秘密基地だったのに!」


「こんな迷惑な場所に秘密基地を作るんじゃない…というよりダンジョンを秘密基地にするな。愚か者が」


「何この子!めっちゃ腹立つんだけどぉ~!僕は勇者なんだぞ。敬いたまえよ!」


「まっぴらゴメンだ。なんなら勝負してやる」


 スッと刀先をそちらに向けると勇者とやらは渋い顔をする。


「丸腰相手に大人気ないよね。今度僕の武器を用意したら戦って貰う事にするよ。今回は楽しい事になると思ったのに!つまんない!またね!」


 口を挟む隙も無く、転移でその場から消えた少年に呆然とする。


 ダンジョンでスタンピードを起こそうなんて考える者が勇者などと呼ばれる筈はない。


 何よりアディから聞いた限りでは此処は乙女の恋愛をするゲームで、勇者など現れる筈がないのだ。


 ふう、と肩から力を抜き、アディを見る。凄く胡散臭いものを見たような顔になっている。ぽんと肩を叩くとハッとしたように目に力が戻る。


「帰るぞ」


「…うん」


 帰りも飛行魔法で木々のすれすれを飛んだが、既に街に向かってしまったようで、森の中に残党は残っていなかった。道なりの魔物も、リシュ達が頑張って倒してくれたようだ。救護のテントまで飛ぶと、ソルナさんが凄い勢いで寄ってきた。


「ど…どうでしたか!?ダンジョンはありましたか!!?」


 少し長くなる、と言い置いて椅子を用意して貰い、水を飲みながら顛末(てんまつ)を話した。


「はああああ!?上空から殆どの魔物を高位魔法で(ほふ)っただけじゃ飽きたらず、みちみちに魔物が詰まった1層をたった2人で殲滅してきた!?何を言われてももう驚かないと思ってたのに…!!!常識は何処に隠れてしまったの!?バケモノ姫~~!!!」


「だがこれで、また敵が溢れるまでに2~3日は猶予ができたろう。明日も掃除に行ってやろう。問題なのは…」


「勇者って名乗ってた子ですね?聞いたこともないですよ勇者なんて。精々大昔の吟遊(サーガ)に残っている程度の知名度ですよ…。でも人為的にスタンピードを起こすなんて大罪ですから、出来る限り容姿を教えて下さい。賞金首にさせて貰います」


「勇者というのは人間に限るのか?敵対種族などに居たりはしないか?」


「敵対種族で人型となると…魔族くらいしか思いつきませんね。魔族にも勇者って居るんでしょうか…ちょっと不明です」


 横ではアディがさっきの少年の姿をウンウン唸りながら描いていた。


「できた!我ながら似てる!!」


「…本当に似てるな。何故こんなに絵が上手いんだ?」


「あはは…()は結構なヲタクだったもんで…」


 もじもじと照れながら紙をソルナに渡す。ソルナはそこで一息ついた。


「で、貢献なんですが、大半マリーさんが倒した事、ダンジョンを見つけ、2人で1層を掃除してくれた事、人為的にスタンピードを起こそうとした人物の情報。どれをとっても一級の貢献です。ですので、マリーさんをクラスSS、アディさんをクラスSに推薦します。推薦状を書きますので、王都本部で認定を受けて下さい」


「本部に?…面倒…「はい、必ず2人で行きます!」…アディ…」


 そんなにSクラスになりたいのか。良く解らないが、アディが行きたいというなら一緒に行ってやろう。


 そして家に帰ってお互いの情報を交換。


 リシュ達は、大半の敵を掻っ攫った挙句に2人でダンジョンに入った事に少し拗ねていた。どうやら残党程度を駆除したのでは汗も掻かない程度の戦闘だったそうだ。


 安全だったと思ってこちらとしてはほっとしているのだが…。


「とにかく~、次のダンジョン攻略は、皆で行きますから~!抜け駆け良くないです~!」


 公爵一行はうんうん、と頷いている。


「しかし、元凶のダンジョンは明日にでも安全になるよう最終層まで掃除をする予定なんだが、仕事や学校があるだろう?」


「警戒態勢が解かれるまで――要はそのダンジョンがクリアされるまではほぼ休んで問題ないはずなので!私だって学校じゃなくダンジョンに行きたい!この素晴らしい剣で敵を斬りたい!」


 後半に本音が零れているよソラルナ君。


「解った。行きたい者は明日、滝の裏のダンジョンへ行こう。リクハルト殿は仕事は…」


 スタンピードが起こったのだ。忙しいのではないだろうか。


「そうやって私を仲間はずれにするのかね…寂しいよマリー。妻も行くのだろう?なら私も付いていくのが当然じゃないかね?」


 どういう理屈だ。凄いこじつけを見てしまった気がする。


 どうにも、全員連れて行かねば納得しないらしい。だが、あのダンジョンは今通常とはかなり異なり、1層以外全ての層でみっちりと魔物が(ひしめ)いている状態だ。危険度がかなり高い事だけは注意をし、無茶な突撃もしないよう懇々と語った。


 覚悟が無い者がピクニック気分で行けばまず死ぬだろう。出来る範囲でカバーはするが、あの物量ではそれも怪しい。


 全員が真剣な顔になり、頷く。


 仕方がない。明日は家族でダンジョンのクリアを目指そうじゃないか。


 昨日支度した水や棒飴が殆ど残っている状態だし、なんとかなるだろう。


ダンジョン後半をクリアする前にスタンピードとは、マリーさん達も運がないですね!

兄と父はスタンピードのダンジョンクリア後に、それぞれ先生と王陛下に怒られると思いますw

読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!

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