五日目「妹様はおにーちゃんとポッキーゲームがしたい」
ー或斗視点ー
いつもの如くゲームをする音が響き渡る。昨日の楽しい休日は終わり、今日は月曜日である。紅葉は家を出て学校に行き、もうすぐ帰ってくる時間。
【何か最近楽しそうだね】
マルマルからゲーム内チャットでメッセージが送られてくる。マルマル俺の唯一のネッ友である。
「妹が騒がし過ぎて、退屈はして無いかな」
少しの皮肉を込めてそう言いながら、苦笑いをする。でも、迷惑だとは思っていない。
【そうなんだ。僕も会ってみたいな、その妹様に】
「お前そう言って可愛い女の子を見てみたいだけだろ」
【てへぺろ、バレちゃったか】
マルマルとはゲーム内でしか会ったことが無いが、こう言う所がおっさん臭いんだよな。俺の想像だとちょっと太り気味な薄毛のおじさんだ。
だが、気は合うし、信頼もしている、もし会ったとしても絶対に手出しはしないだろう。
「まあ、俺もお前と会ってみたいよ」
【んじゃあさ、今度リアルで会おうよ】
「え? 良いの?」
マルマルは本当に素性を明かさないので、向こうから誘ってくれたのが意外で少し驚きが隠せない。
【ああ、僕たち、かなり長い付き合いになるが、お互い声も顔も知らないじゃん】
「確かに…」
【また今度その話の続きをしよう。今日はもう長い事やったからね、疲れちゃったよ】
「そうだな」
【じゃあ、お休み】
「ああ、また今度」
そう言って、マルマルはゲームからログアウトする。友達と遊ぶ約束をするなんていつぶりだろうか、少しワクワクする。
そんな事を思っていると、ドタバタとしたから聞き馴染みのある騒音が響き渡って来る。
「お兄ちゃーーん!」
ドンっとドアを蹴る音が聞こえると同時に、悲鳴が外から聞こえて来る。いつもの様にドアは吹き飛ばず、しっかりと紅葉の侵入を拒んだ。
俺は立ち上がり、扉を開くと、足と顔を抑えてぐるぐると床を転がり回る紅葉がいた。
「いだいいだい」
「大丈夫か?」
「kr<×〆÷5・°:」
「なんて?」
意味のわからない言葉でキレる、何が言いたいのか本当に分かんない。
「私のアルティメットスーパーキックが効かないなんておかしい!」
「だせえし、だからドアを蹴るなって!」
紅葉は涙目でぶつけた足をフーフーと息を吹きかける。そして、此方を睨み付ける。
「なんかしたでしょ」
「フフフ、俺がいつまでもお前のドア破壊を放って置くわけ無いだろ」
「クッ! 兄者よ何をした!」
「覚えていないのか?」
「なんの話だ…はっ! まさか昨日の工具屋さん」
「そのまさかだよ」
そう、昨日の帰り工具屋さんに寄った時にドアを修復、強化する為の道具を買い揃えた。引きこもりだからな、紅葉が居ない時間は幾らでもあるのだよ。
「お兄ちゃん最低、人でなし、巨乳好き」
「最後のは関係ねぇだろ!」
その後、紅葉は数十分、俺の部屋の前で騒ぎ散らかした。
ーーー
色々と気持ちが収まると、紅葉はいつもの如く、ずかずかと俺の部屋に入り、ベットに座り込む。
「お兄ちゃん、今日は此方の品になります」
そう言うと、ポッキーをバンっと手元に持ってくる。一緒に食べるのだろうか、それならわざわざ俺の部屋に来る必要なんてなさそうだけどな。
「ポッキーゲームです!」
「や、やる訳ないだろ! あんな破廉恥な遊び」
「うぅ、恋愛経験ゼロのお兄ちゃんには刺激が強かったか…」
「うるさい! それに何度も言うが俺と紅葉は兄妹だぞ、そんな事許さん」
絶対に許さない、妹とそんな事を俺がすると思っているのか。紅葉を睨み付ける。すると紅葉が俺に指を指す。
「兄者よ、ポッキーゲームは真剣なゲームなのだよ。どちらがよりギリギリまでポッキーを食い続けられるかを競う、真剣なゲームなのだ」
紅葉は真面目に言われ、何も返す言葉が無くなる。確かに、ポッキーゲームも趣旨は違えど、俺がいつもしているゲームと同じゲームなのである。
「これはゲーマーとして私がお兄ちゃんに決闘を申し込んでいるのだ。まさか逃げないよな」
「ぐぬぬ……」
紅葉のこの目は真剣である。だが、俺達は兄妹でそう言った事は……。
ー悩むこと数分ー
「よし、じゃあやるよ」
紅葉は嬉しそうにポッキーを取り出して、俺にポッキーを差し出して来る。結局押し切られてしまった……。
「あーむ、ほらおにいはんもふわえて」
「咥えながら、喋るな、分かってるよ」
俺も咥えると、紅葉と目が合う。そう言うゲームだから仕方ないのだが、こうしてまじまじと見合うと恥ずかしい。
「ひゃあひくよ、ふはーと」
そう言い、食べ始まる。お互い一旦様子見で動かない。紅葉も分かっている、このゲームは以下に相手をビビらせるかである。
キスをしてしまうと相手を焦らせ、口から離させる、心理ゲームである。
紅葉はゆっくりと食べ始める。心理ゲームは俺の方が得意である、だから多分俺の考えを焦らす為にゆっくりと食べ始めたのだろう。
こういった状況で俺の判断が鈍くなれば、勝てると思って俺に勝負を仕掛けたのであろう。ならば此方は相手が想像し得ない事をして動揺させる。
俺は紅葉よりも早く食べ始める。このまま行けば、本当にキスしてしまうんじゃないかと言う位の勢いである。
紅葉の目は見開き、明らかな動揺を見せている。俺は確かにこういった女性に関わる事は苦手であるが、ゲームと考えれば行ける。
知っているぞ、お前はこう言った予想外な事に弱い。俺は食べ進める、そしてもう口と口がついてしまうんじゃないかと言う距離に来た。
紅葉の口がピクリと動き、口が緩む、流石にこいつもキスはまだ早いと思ったのだろう。
(さあ、妹様よ。今回はお前の負けだ!)
「ちゅっ!」
一瞬だけ、口と口がくっ付き、紅葉の柔らかい唇の感触を感じる。俺は素早く紅葉から離れる。
「わ、私の勝ち」
紅葉は顔を全身真っ赤にして、唇を手で覆い隠す。そして、目をうるうるさせながら、部屋を走って出て行く。
「なんで…俺、紅葉と……」
そう言えば、忘れていた、あいつ負けず嫌いで、昔から引けなくなると後先考えずに意地っ張りになってしまう。
ー三人称視点ー
或斗は部屋に立ち尽くし、手で口を覆う、そして顔を真っ赤にしながら、バタンっとベットへと横たわる。
「お兄ちゃんのバカ……」
部屋を出たすぐ横で、紅葉は座り込み、顔を真っ赤にさせながら、唇を触っていた。そんな二人の空間はとても静かに過ぎて行った。
プチ話
或斗「マルマル、慰めてくれ……」
マルマル【今!? 夜9時だけど……】