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ままならない男

エイリアスが姿を消して数か月後の話

アランの友人の話です


思えば生まれたときから俺の人生はままならなかった。

夫婦仲が悪く、互いに愛人を抱えている両親から生まれた俺は当然のごとく愛されることなんてなかった。

それなのに貴族の出だからと行動だけは制限される。

愛人を家に連れ込み好き勝手している両親。

なぜ俺だけが自由を制限されるのだ。

ただ親の書いた物語をなぞるだけの人生。

自分の思い通りにいかない人生……反吐が出る。

ある日、城下町にある研屋を覗くと光に反射したのかきらりと何かが光った。

何かと思って近寄ればそれはナイフだった。

よく研がれており切れ味が良さそうだ。

至って普通のナイフだったが、俺はなぜかそれに魅了された。

手に取り掲げて眺めればその刃の鋭さが美しくも思えた。

どうせままならない人生なのだとしたら、最後くらい自分の思い通りに死んだっていいのかもしれない。

切っ先を胸に突きつけ、押し込む。

この美しいナイフで死ぬことが出来たら少しは俺の人生は報われるのかもしれない。

そう考え、俺はそのナイフを購入した。

友人のアランの婚約者が代わったとの話が耳に入った。

以前夜会で会った時に連れていた女性は淑やかで美しいクレアという名の女性だった。

美男美女でお似合いだと思っていたが――彼女を手放すなんてどんな女性に代えたのだろうか。

ま、いつか会える日が来るのでそれまでのお楽しみか。

それにしても、好きに婚約者を代えることができるなんて羨ましい。

俺は親が決めた人としか結婚できない。

別にそれでもいいと思えるのはナイフの存在が大きかったからだろう。

いざとなれば俺は好きな時に死ねるのだから。

それから数か月、俺が参加する夜会にアランも出るらしく、初めて彼の新しい婚約者に会う機会が出来た。


「初めまして、アランの婚約者のエイミーです」


――一目ぼれした。


アランの婚約者はにこにこと明るい笑顔を浮かべてとても愛らしかった。

自分が暗い性格なので彼女の明るさは陰鬱な感情を吹き飛ばしてくれるものだった。

惹かれてしまった俺は彼女をダンスに誘おうと姿勢を正した。

が、それを察したのかアランが凄い形相で睨んできた。

速攻で腕を掴まれ、彼女に背を向けるようにヒソヒソと話す。


「ダンスくらい踊ってもいいだろ?」

「駄目だ。下心丸見えの男にエイミーは近づけさせない」

「……クレア嬢のときは踊らせてくれただろ」

「エイミーは足を踏むぞ」

「足くらいいくらでも踏んでも構わない」

「絶対に駄目だ。絶対に」


二度も“絶対”を念押ししてきた。

なんて心の狭い奴なんだ。


「お二人ともどうされたんですか?」


俺たちのやりとりを不思議に思ったのか、エイミー嬢が後ろから声を掛けてくる。

俺が表情で不満を訴えると「いいか、絶対だぞ」と目力と共に訴えてきた。

どんだけ踊らせたくないんだよ。

結局ダンスは踊れなかったが共に行動することはできた。

……アランを間に挟んでだが。

しかし、チャンスが到来した。アランは手洗いに行こうとしている。


「エイミー嬢は俺に任せて、ゆっくりしてきていいぞー」

「すぐ戻る!」


人が気遣っているというのに、彼の返事は怒気を含んでいた。

そしてエイミー嬢と二人きりになる。

ちらりと顔を見てみれば目が合いにこりと笑いかけられる。か、可愛い。

高鳴る鼓動を押さえつつ、平常心を保とうと深呼吸する。

いくら惚れたとしても友人の婚約者に手を出すことはしない。

が、抱いてしまった想いは消えてはくれないので仕方がない。


「あら。リック様の胸の近くなにかあるんですか?」


そう指摘されて、ナイフのことを言っているのだと気づく。

変に膨らんでいるのが気になったのだろう。


「護身用としてナイフを持ち歩いてるんだよ」

「護身用ですか?」

「ああ。自分の死くらい自分で決めたいと思ってね。自分が気に入っているナイフで死ねたら俺も本望だよ」


いついかなる時でも自分の最期を決められるように……。

暗い自分が顔を覗かせる。どんどん気持ちが暗くなる。

こんな暗いことを言えばエイミーもさすがにどん引いていることだろう。

エイミーの反応を見ると彼女はただじっと俺の顔を見つめているだけだった。

その表情はどうとも取れず、何を考えているのかわからなかった。

自分を嘲るように彼女に同調を求める言葉を吐く。


「気持ち悪いだろ?」

「いいえ。リック様がそのナイフをどう使おうがリック様のナイフなんだから私はそれを否定することはしないわ」


彼女はにこりと笑った。

……変わった娘だと思った。

取り繕った言葉を並べただけには思えず、なぜかそれが彼女の心からの声なのだと納得してしまった。

それからアランが戻ってきて、何もしてないか何度も確認するほど疑われたのが面倒くさかった。

夜会から二週間ほど経ったある日、アランから港町の観光名所である泉に行かないかと誘われた。

提案者はエイミーらしい。

アランとエイミーと彼女の姉クレアと4人でとのことだった。

俺は再びエイミーに会えると思うと嬉しくなり二つ返事した。

密やかな恋は俺の心を明るくしてくれた。


約束の日、厩舎で事件は起きた。

馬を借りるのだが、相乗りの話で揉めた。

誰が揉めているのかと言えば婚約者同士のアランとエイミーだった。


「私はエイミーの婚約者だ。エイミーと一緒に乗らせてもらう!」

「クレア姉さまをどこの馬とも知れない男性に任せるつもりですか!」


……俺のことだ。

本人目の前にしてあまりにもはっきり言いすぎだ。

クレア嬢は自分のことで言い合いになっていることが申し訳ないのか困り顔で「私はいいのよ。エイミー」と二人の間に割って入っている。


「それにアラン様は一度姉さまとは乗っているのですから私としても安心して任せることができます」

「私はリックに安心して任せることができないのだが……」


雰囲気的にアランはクレア嬢と相乗りする流れになりそうだ。

慰めにはならんかもしれないが一応声はかけておくべきか。


「まあ、俺もそれなりに馬には慣れてるから安心してくれ」

「……出来るだけエイミーから距離をとれ。どこにも触れないようにしろ」

「無茶言うな」


偉そうに指示してくる友人を一蹴した。


泉へと向かう途中、背後からアランの忌々しい視線を感じながらエイミーと話をする。


「え?アランと相乗りしたことないの?」

「ええ。男性は父と、使用人とリック様で三人目ですね」


さすがにアランが不憫すぎる……。

そりゃあ、ああいう反応にもなる。

俺は心の中でそっと彼に同情した。


初めて泉に来たが、確かに自然の静けさがあってよいところだった。

エイミーは自分の荷物から木の塊を取り出すと俺とアランに手渡した。


「これで私とクレア姉さまにウサギを彫ってください。リック様は私に、アラン様はクレア姉さまに彫ってくださいね」


当然のようにそう言って彼女はにっこりと笑う。

不憫な友人に顔を向ければそれはもう不満が顔に書かれているかのような表情をしていた。


「エイミーの婚約者は私なんだぞ。私はエイミーにプレゼントする」

「それじゃあ姉さまの分がないじゃないですか」

「リックのをプレゼントすればいい」

「クレア姉さまにどこぞの馬の骨かわからない男性のプレゼントを受け取れというのですか?」

「エイミー、私はいいのよ。アランのももらってあげて」


相変わらず本人が目の前にいるというのに酷い言いようである。

クレア嬢が間に入り気を使う。そんな彼女を見てアランはため息をついた。


「わかった。私のはクレアにプレゼントしよう」

「さすがアラン様。姉さまに優しいアラン様大好きですよ」


エイミーのその一言で気をよくしたのかアランは緩みそうになる表情を必死に堪えていた。

……なんてちょろい男だ。

可笑しくなって笑ってしまう。

ウサギくらいなら彫ってやるかという気になった。

エイミーはナイフを差し出してきたが、俺はそれを断る。

いつも持ち歩いているナイフを取り出し、大まかに木を削る。


「手慣れているのね?」

「リックは手先が器用だからな」


アランが答える。

友人に褒められると悪い気はしない。

それから夢中で木彫りをしていたが、ふと自分の心が落ち着いていることに気が付いた。

こんなにも雑念がなくなることがあるのかと、意外な発見だった。

黙々と木を彫り進めていく。

……少し荒いかもしれないが、完成にしてもいいだろう。


「ほら、できたぞ」


彫ったうさぎをエイミーに手渡した。

彼女は嬉しそうに受け取り、うさぎを見ると徐々にその表情が驚いたものに変わった。


「これ、とってもかわいいわ」


彼女はそう呟いた。

気に入ってくれたならよかったと思っていると、彼女は見る見るうちに瞳を輝かせ、クレアの元へと向かった。


「姉さまリック様が彫ったうさぎ見て!このフォルム、とっても愛らしいと思いません!?」

「まあ!本当!今までみた木彫りのなかで一番かわいらしいわ!」


女性陣二人が目の前ではしゃぎ始める。

正直いい気はしたが、さすがにアランはこの状況をよくは思っていないだろう。

少し気まずいような思いで彼の顔を窺えば顎に手を当て俺の木彫りを眺めている。


「――いや、本当に上手い。お前にそんな才能があったなんて知らなかったよ」


心から感心している様に、俺は体がむずがゆくなった。

ただ適当に彫っただけの木彫りがここまで高評価を得られるなんて思っていなかった。

照れ臭くなり頬を掻く。


「よし!これをカーティス商会で売りましょう。港町の特産品にするのよ!」


そういえばエイミーは商会の娘だったな。

商人魂に火が付いたのか彼女は目に見えて張り切っていた。


「ということで、リック様。これからよろしくね」


急に矛先が俺に向いた。

……ん?


「よろしくとは?」

「リック様に木彫りを依頼するわ。勿論材料もこちらで用意するし、報酬もしっかり渡すわ。契約書はまた後程用意するわね」

「ちょ、ちょっと待て!俺は引き受けるなんて言ってないぞ」


矢継ぎ早に引き受ける流れを作り出していく、エイミーに俺は待ったをかける。

このままでは本当に流されるまま決まってしまう。


「どうしたら引き受けてくれるの?」


小首を傾げるエイミー。

……ここは無理難題を出して引いてもらうしかない。


「エイミーが俺のこと好きになってくれるなら引き受けてもいいけど」

「いいわよ」


迷うことなくさらりと彼女は言ってのけた。

思わず目を見張った。

彼女の瞳は揺れることなく俺を見ている。

なぜだかその瞳に俺は恋とか関係なく――惹かれた。


「駄目だ駄目だ!リック!無理をしなくていい!嫌なら断ればいい!」


俺とエイミーの間にアランが割って入り、俺の両肩を掴んで力の限り揺らしてくる。

激しく揺れる体を俺は他人事のように感じていた。

彼女がそこまで言うのであれば、引き受けてもいいという気になった。


「わかった。木彫りの件引き受けよう」


そう言うと揺れる体から解放される。

目の前でアランは落ち込んでいたが、気にせず俺はエイミーを見ると彼女は「契約成立ね」と笑った。

それからエイミーの行動は早かった。

屋敷に木彫りを彫るための道具一式が届いた。

両親は不思議がっていたが彼らの描く物語になんら影響がなかったためか咎めてはこなかった。


屋敷にいる時間はあまり好きではなかったが、木彫りをしている時間だけは好きになれた。

エイミーにあげた物は粗削りだったが、売り物として出す以上は綺麗に仕上げたいとまで思っていた。

何個か納品すると、すぐに売れたらしい。

エイミーが嬉々として教えてくれ、追加の依頼をしてきた。

ちゃっかりしている。


そんな毎日を送っていると、親から見合いの話が出た。

伯爵家の娘で名をセーラと言うらしい。

遂に、というべきかようやく来たというべきか。

俺はそれを受け入れた。

お見合いをしたセーラという女性はふくよかな体系で、緊張しているのか肩が上がっており、顔も赤い。

どんな女性であろうと俺が断る権利はなかった。

親が取り決めたのであれば俺はただ従うのみ。

テーブルの向かいに座るセーラはただただ手元の紅茶の入ったカップを見つめている。

何か話したほうがいいのかと思っていると彼女の口が開いた。


「実は……私貴方のファンなの」


ファン?

思いもよらない言葉に首を捻る。

彼女は手元に持っていたバックに手を入れ取り出したものをテーブルの上に置いた。


――俺が彫ったうさぎの木彫りだ。


エイミーが飛ぶように売れていると言っていたが、まさか貴族の間でも売れているとは思ってもみなかった。


「この木彫りに一目ぼれしてしまって、ぜひ彫ってるところを見せてほしいの」


視線をあちこちにさ迷わせて口早にお願いするセーラ。

俺は見せるくらい構わないと答えると、彼女の表情は見る見るうちに輝き、喜んでいた。

エイミーといい、最近変わった女性と縁がある。

それからはセーラとの逢瀬はもっぱら俺が木彫りしているところを彼女がただ眺めて過ごすということが多かった。


「暇だろ?」

「ううん。どんどん形が出来上がっていくのが魔法みたいで楽しいわ」


気を利かせて問うたが、セーラは嬉々としてそう答えるだけだった。

彼女の性格は嫌いではなかった。

一緒にいてどきどきすることはないが、気が張らず自然体でいられるのがよかった。

親が決めた相手だったが、彼女との結婚なら特に不満もなかったので婚約を経て、結婚した。


結婚後もエイミーからの木彫りの依頼は途切れることはなく、空いている時間は木彫りに没頭していた。

いつものように木彫りをしていると部屋にセーラが入ってきた。

なぜだかいたずらっ子のような笑みを浮かべている。


「ねえねえ。こうしたらもっと可愛いと思わない?」


そう言ったセーラは俺が彫ったウサギの首に赤いリボンを巻き付けた。

彼女はしてやったりという表情で俺を見ている。


「……可愛いかは俺にはわからないな」

「絶対可愛いわよ。エイミーも絶対気に入ると思うわ」


絶対を二度言うセーラ。

その自信はどこから来るのやら。

しかし、彼女の言う通りエイミーの評価はとても良かった。


「セーラ!あなた素晴らしい発想力よ!これは売れるわ!」

「やっぱりそうよね!あと刺繍とかあったらワンポイントで可愛いと思うの」

「……なるほど。刺繍か……うんうん!いいわね!」


目の前で盛り上がる二人に俺が付け入る隙などなかった。

セーラの提案は即採用され、次からリボンも発注してくれるという待遇っぷりだった。

褒められたセーラは気をよくしたのかリボンに刺繡をしようと張り切り始めた。

余計なことをと思っていたが、その刺繍も人気が出てきたようで気づけば木彫りは夫婦の共同作業となっていた。


彼女は太くて丸くぷにぷにした手をしているわりにとても器用で、小さなリボンにも関わらずイニシャルを軽々と刺繍していた。

このイニシャルがお客様に受けているらしい。

なんでも自分のイニシャルが入った物を恋人と購入すると縁結びになるとか。

自分が彫ったものが他人の恋を成就させる効果があるなんて可笑しくて笑ってしまう。


夫婦の共同作業は年が経つと息子が加わってきた。

両親がやっていることに興味が湧いたらしい。

セーラが刺繍を、息子がリボンを巻く。

リボンを巻きたい息子は俺に木彫りを早く早くと急かしてくる。

木彫りだけが俺の仕事ではないというのに。

短い人生を送るのだろうと思っていた俺だったが孫の顔までみることができた。

そして、気づけば孫は10歳を迎えていた。

木彫りに興味があるらしく研屋で彼のナイフを買ってやるととても喜んでいた。


「俺が一人前になったらお祖父様のナイフもちょうだい」


……こいつは欲望の化身か?

あまりの強欲さに俺は苦笑して何も答えず彼の頭をぽんぽんと優しくたたいた。

「今日こそはエイミーと踊らせてもらうぞ」


夜会で会うたびに、何十回目となる言葉をアランにかける。

そんな俺の姿に隣にいたセーラは可笑しそうにクスクス笑っている。

互いに年をとり、皺が増えた顔をアランと合わせる。

彼はふっと笑った。


「他に愛するものがいるお前なら妻と踊っても何ら問題はない」


年を取って寛大になったもんだ。

相変わらず少し偉そうではあるが。

妻に目を向ければ笑顔で見送ってくれる。


「よかったわね、初恋の人と踊れるんだから」


自分の旦那が他の女性と踊るというのに彼女はのんきに笑ってそう言った。

そんなセーラをアランがダンスに誘う。

頬に手を当て困ったように「あらあら」と言いつつもすぐに彼の手を取ったので満更ではないようだ。


「私たちも踊りましょうか?……それともセーラを取られてそんな気分にはなれないかしら?」

「まさか。ようやく願いが叶うんだ。それに今後アランが許してくれるとは限らないしな」


互いに軽口をたたきながら手を取る。

曲に合わせて自ずと踊り始める。

エイミーの顔を見ればとても楽しそうに笑みを浮かべている。

――俺の人生のターニングポイントは君と出会ったことだろう。


「……俺の人生は本当にままならないものだった。自分が望んでいたものはすべて手に入らなかった。結婚する相手は親が決め、子供もいらないと思っていた。そしてなにより、こんなに長生きする予定ではなかった……。昔、君に初めて会った時に言ったことを覚えているかい?」

「ええ。貴方の唯一の望みね」

「あれも結局は叶いそうにない。孫が木彫りを習って、一人前になったら俺のナイフをくれと言う。まったく、本当にままならないよ」


思わず苦笑する。

そんな俺にエイミーは黙って微笑む。

死ぬときはあのナイフで、と思っていたが、孫にあげるとなればそんなことはできはしない。

――本当にままならない。


「しかし、そんなままならない人生も悪くは――」


そう言って言葉を切った。

違う。これは嘘だ。

妻や子供たちと一緒に木彫りの作業を行う時間、孫が俺の後を継ぎたいと息巻いている姿が脳裏によみがえる。


「いや、とても満足しているよ。君のおかげだよ」

「……いいえ。私ではないわ。きっと貴方が選んだナイフのおかげよ。ナイフのおかげで貴方はその人生

を手に入れることができたのよ」


謙虚なものだ。

そのナイフの使い方を教えてくれたのはエイミーだというのに。

どちらからともなく互いに離れる。


「セーラが心配?」

「ああ。ようやくアランの気持ちが分かったよ。一刻も早く彼女を取り返さなければ」


俺がそう言うと彼女は穏やかに笑って頷いた。

二人が帰る姿を見送ると俺の腕に手をまわしている妻がニマニマとした表情で見上げてくる。


「どうだった?初恋の人とダンスを踊れた感想は?」

「……緊張して楽しむどころじゃなかったな。やっぱりお前と踊るほうが気楽でいい」

「まあ。素直に私が好きだと言ったらいいのに」


俺が咳払いで誤魔化せば、セーラはクスクスと可笑しそうに笑った。



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