それぞれの結末(リリー&アランside)
+++(リリーside)
出発前にエイミーは見送りに来てくれた。
そして彼女の隣には――クレアがいる。
久々の再開に私はどぎまぎした。
彼女は私がイアンのところに行くと知っているはずだ。
なのにここに来た。
どんな話をすればいいのか迷う。
迷っている私に構うことなくクレアは歩み寄ってきた。
無言で見つめ合う。
そして――クレアの表情が緩んだ。
「水臭いわよ、どうして城下町に行くこと黙ってたの?」
クレアが拗ねたような口調でそう言った。
枯らしたはずの涙がまたこみあがってくる。
泣き顔を見られたくなくて私は彼女に背を向けた。
「……私があげた栞、まだ使っているのね」
「あの栞がないと読んだページを忘れてしまうのよ」
「……嘘つき」
そう指摘するとクレアの楽しそうに笑う声が聞こえた。
――これ以上涙を流す必要はない。
私は涙が零れないように空を見上げた。
そして改めてクレアとエイミーに向き合った。
「こうなったら絶対にイアンを振り向かせてみせるわ。そうなったらクレアは絶対後悔するでしょうね」
「まあ。せいぜい頑張ってごらんなさい。そして私を後悔させてみせて」
冗談が含まれる挑戦と煽りをして、私たちは顔を見合わせて笑った。
これが別れる前の会話だなんて思えない。
ただ――これが最後ではないと思わせる安心感があった。
馬車が来た。出発の時間だ。
止まった馬車に乗り込む前に私は二人に振り返り手を挙げた。
「クレア、エイミー、それじゃあごきげんよう」
私に応えるかのように彼女たちも手を挙げた。
+++(アランside)
帰宅した私は自室に戻り、今日あった出来事を整理した。
エイミーとリリーのやり取りを見て知った。
人は傷つける嘘より傷つけない嘘のほうが容易だと。
相手が好きな相手であれば猶更だ。
そしてその嘘は――その人の優しさだということ。
母が胸の内を明かすことがなかった理由はきっとそういう理由からだったのかもしれない。
母はミラのことが好きだったのだ。だから母は彼女に父を託した。
私が見ていた仲の良い二人は偽りではなかった。
そしてミラも――。
そう考えて答えを出すのをやめた。
次の日私は早くに目を覚まし、庭園へと向かう。
そこにはミラの姿があった。
彼女は毎朝母の墓参りを行っている。
「あ、おはようございますアラン様」
彼女の敬称をつける癖は後妻になった今でも変わらない。
母が亡くなってからは話すことも減ったため、彼女は緊張しているのだろう。
戸惑いながら笑みを浮かべる。
「おはよう。今日も母のところに行くんだろう?」
「はい。日課ですので」
「私も一緒に行ってもいいだろうか?」
私の願いに彼女は一瞬驚くも「もちろんいいですよ」と頷いた。
庭園で育てた花を片手に少し離れた母の墓へと二人で向かう。
母の墓は彼女が手入れをしているからいつも綺麗だ。
墓石の前に花を添え、彫られてある文字を黙読した。
「ミラは母さんのこと好きだった?」
「……はい。とても、とても大好きでした」
彼女は墓石を見つめ、追想しているのか潤んだ瞳で頷いた。
――それが答えだった。
それでいい、と。
母の最期の願いは決して悲しいものではなかったのだと、そう思えたから……もう大丈夫だ。
私は一度も彼女に言えなかった言葉を口にした。
「母を看てくれて本当にありがとう」
「……私が好きでしていたことですよ」
胸につかえていたものがなくなり、心が軽くなるのを感じた。
きっと母はこの姿を見守ってくれているだろう。




