eyes:29 悪魔の囁き
「俺の選択で、悪魔にも神にもなるって……?」
目の前の神父が悪魔だなんて、翔はまだ半信半疑ではあった。
悪魔なんて、現実にいる訳がないからだ。
けれど、その神父から放たれる圧倒的な悪魔のオーラは翔の本能に突きつけてくる。
目の前の神父が本物の悪魔である事を。
「くそっ……なんなんだよ!一体」
常識と本能のギャップに戸惑い、顔をしかめた翔。
けれど神父は、それを楽しむかのような笑みを翔へ向ける。
「そうです。私であれば、アナタのその悲しみを……黒い十字架を下ろす事が出来るからです」
「なんだと?」
「嘘ではありません。しかも、今すぐにです」
「へーー大層な自信だな。けど、なぜそう言い切れるんだ?俺はまだアンタに、何も話していないのに」
「クククッ……」
神父は軽くうつむいて小さく笑い声を漏らした。
「何がおかしいんだよ?!」
翔が怒鳴ると神父はスッと顔を上げ、憤る翔の瞳をジッと見つめる。
まさに、全てを見透かすような悪魔の瞳で。
「空見翔さん」
「な、なんで俺の名前を?」
突然自分の名前を言い当てられドキリとした翔は、恐怖で目を大きく開いたまま悪魔を見つめている。
当然だが、翔はこの神父に会ったのは今日が初めてだし、名乗った事も無いからだ。
あまりの事に翔の心の中は大混乱した。
───アレ?もしかして俺、この人とどっかで出会った事あるっけ……そうそう、彼は確か俺が大司教として活躍していた時の部下、佐藤くんだ。なーんだ、じゃあ知ってて当然……って、なーに記憶をねつ造してんだ俺は!大司教どころか、俺は初詣で100円玉すら躊躇って結局5円玉しか入れてねーのに。
神父は混乱している翔を見てクスッと笑う。
「翔さん、なかなか愉快な事をご想像されたみたいですね♪」
「ハァッ?な、何言ってんだよ」
まさか今のも見透かされたのかと思い恥ずかしくなった翔に、神父はニヤリと笑いかける。
「翔さん。貴方は今、絶望を抱えていますね。愛する女性、ルミさんを奪われて」
「おい!どういう事だよ?なんで知ってんだ?!それを!」
「先程お伝えしたでしょう。私は、悪魔だからです」
「いやいや……そんなバカな!」
全てを言い当てられた翔は、目の前の神父が本物の悪魔だとヒシヒシと感じ、恐怖で全身にグッと力がこもった。
けれど、それでも必死に抵抗するように神父に質問を投げかける。
まだ僅かながらも残る、この神父が悪魔では無い可能性に賭けて。
「だったら、答えてみろよ。俺とルミが初めて出会った時、俺は何て言った?」
これはこの世界で翔自身とルミしか知らない、大切な思い出。
この男が本当に人知を超越した悪魔でない限り、答える事は不可能だ。
けれど目の前の神父は微かに笑みを零すと、当たり前のようにアッサリとそれに答える。
「フフッ♪翔さん……『捨てられないんだよ!』で、よろしいでしょうか?」
「マ、マジかよ……」
翔はあまりの出来事に、逆に身体から力がスッと抜けた。
もう流石に信じるしかなかったから。
今、翔の目の前にいるこの神父が、人智を超えた悪魔だという事を。
翔のその姿を見た悪魔は、翔に向かいニヤリと笑みを浮かべ満足気に笑いかける。
「翔さん、どうやら信じて頂けたようですね♪」
「あぁ……少なくとも、アンタが人の過去まで完全に見通せるのは、よーく分かったよ。けどさ……そんなアンタが、俺に何の用なんだ?何と引き換えに、俺に何をさせたいんだろ?」
「アハハッ♪さすが翔さん、作家なだけはありますね。話が早くて助かります」
悪魔は斜め上を向いて嬉しそうに笑うと、翔に真っ正面から告げてくる。
「翔さん、貴方には是非私と契約を交わして頂きたい」
「契約?悪魔のアンタとか?」
「そうです、翔さん」
悪魔は薄っすらと笑みを零し、翔を見つめたまま自らの左胸に右手をそっと添えた。
「私と契約を交わせば叶いますよ」
「叶うって……何が?」
「翔さん。そんな事、決まってるじゃないですか」
悪魔は妖しい光を宿した瞳で翔を見つめながら、ニヤリと笑みを零した。
「ルミさんの奪還です」




