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D.E.R─ 最愛の彼女を取り戻す為、俺は悪魔に魂を捧げた  作者: ジュン・ガリアーノ
第一章 出逢ってから、奪われるまで
2/32

eyes:1 空見 翔の叫び

っと、その前に、eyes:0の天翔零のご挨拶、読んで頂けましたか?

もしまだなら、是非それからお願いします!


あっ、失礼しました。

もうご覧になって下さったんですね♪ありがとうございます!




「じゃあ翔、頼むよ」

「おう!任せとけぃっ!」

「心配だなー」

「うっせ。零、お前こそ第二章から頼むぜ。お前が超クールなキャラ演じてくれてこそ、俺の味も出んだから」

「ハハッ、そうだね。翔のドジっぷりも引き立つよね♪」

「いや、そこだけじゃなくてさ、なんつーの、こう、熱血漢というか、熱い男というか……」

「ハイハイ、分かったよ翔。僕も頑張るし、翔の事……信じてるから」


零から優しく涼し気な眼差しを向けられた翔は、一瞬おっと目を大きく開くと片手で頭をクシャっと掻いた。


「……ったく、ズリーなーーやっぱ零、お前カッコいいよ」

「翔には負けるよ。でもほら、そろそろ行かなきゃだよ♪」

「オッケー♪んじゃ、行ってくるわ!」



一『悪魔の瞳とバカの黄金』一開幕です!





「はぁ~あ、まーたダメだったかぁ……」


ガックリと肩を落として悲しく溜め息を零したのは、主人公の青年『空見(そらみ)(かける)

外はカラッとした晴れやかな日差し。

雲一つない、いい天気だ。


けど翔は、その晴天とは真逆のどんよりとした気持ちで、帰宅への道を歩いている。

まるで、翔の所だけ雨雲が漂っているようだ。


哀しい溜め息を吐きながら街の雑踏を力なく歩いていると、翔の脳内をぐるぐると巡るから。

今日も含め、これまで多くの編集者達に言われた数多の辛辣な言葉が……


『翔くん、キミの小説は時代に合ってない』

『これは売れないよーこんなん、ダメダメ』

『翔くんさ、web小説サイトに上げても全然反応無いでしょ?それが答えだよ』


思い出すだけで悲しくて悔しいど、これは編集者達の言う通りだった。

翔がどんなに魂を込めて書いても、読者からの反応は全くダメだったからだ。


それに、この前編集部に渾身の作品を持ち込んだ時は特に酷かった。

思い出すだけで、翔は本当にムカついてくる。

それは、ハイファンタジー部門で最優秀賞を獲得した『日下部(くさかべ) 斗真(とうま)』に出会った時の事だ。


翔が編集部に自分の作品を持ち込んだ時、そこに偶然居合わせたのが斗真だ。


斗真は翔の原稿をひょいと勝手に手に取ると、フーン……と呟きながらパラパラと原稿を一読した。

そして侮蔑(ぶべつ)の込められた溜め息と共に、まるで手からごみを捨てるかの如く、翔の原稿を床にバサッと放り捨てたのだ。


「ハァ~~~おえっ」

「おいっ!何すんだよ!」


翔は斗真に向かって顔をしかめ、強く怒鳴った。

自分の原稿をそんな風に扱われたのだから当然だ。


けれど斗真は翔に向かい、ニタニタと侮蔑の笑みを浮かべている。

まるで、何を言ってんだと言わんばかりに。


「あーごめんごめん。キミの作品、あまりにもつまらなくて、持ってる手が腐っちゃうかと思ってさ♪」

「なんだとっ?!」


咄嗟に怒りが沸き上がった翔は、斗真の襟首をガシッと両手で掴んだ。

いくら斗真が、自分とは比べ物にならないぐらい売れているとはいえ、斗真のあまりにも酷い侮辱に翔は我慢がならなかったからだ。

こんな侮辱は許せない。


けれど斗真は、掴みかかってきた翔にビビる事も悪びれる事も無かった。

むしろ、翔に襟首を掴まれたまま先程から微動だにせず、侮蔑に溢れた眼差しで翔を見下ろしている。


「まったく……何キレてるんですか。僕はキミの為を思って言ってあげてるのに」

「オマエな……!」

「こんな小説、キミも読む相手も時間と労力のムダなんです。マジで、エコ重視の時代に、ゴミを増やさないでくださーい♪環境破壊はんたーい♪」

「てっめーーーぇ!!」


あまりの罵詈雑言に翔はブチ切れ、斗真にそのまま殴りかかろうとしたが、翔は周りの人達に後ろからガシッと掴まれ、斗真から強引にズルズルっと引き離された。


斗真は怒りに震える翔から解放されると、掴まれてシワになった襟を正し翔をジトッと見下ろす。

哀れなゴミを見るような目で。


「もーー見苦しいなぁ、全く……あーもぅ、服がシワくちゃになっちゃったじゃん」


斗真がウザったそうにボヤいていると、その出版社の編集長が血相を変えて飛んできた。

不摂生の身体にシワくちゃのシャツを身に纏った、いかにもという風貌の男だ。


彼は絵にかいたようなもみ手をしながら斗真にすり寄ると、斗真に真正面からバッと頭を下げた。


「日下部先生、申し訳ございません!」

「ハァッ……こんな人に持ち込みに来させるとか、ここも質が落ちたなー」


やれやれのポーズをしながら、斗真は話を続ける。


「なーんかさ、急にこの人に襟首掴まれたんだけど……俺、何かしちゃいました?」

「いえいえ、私どもは何も存じませんでして……」


冷や汗をかきながら、しろもとどろの編集長。

斗真は彼に陰湿なニヤリとした笑みを向けた。


「だよねーーーでもさ……俺もう、ここで書く気が失せるかもしれないなーーー」

「そ、それだけは何卒ご勘弁を!」

「え~~~どーしよっかなーー」


すると、編集長はまるで殿様に捨てられそうになってる家来のような顔をして、斗真にすがりつく。

彼も必死で苦しいだろうが、周りで見ている者達も皆、辛い表情を浮かべ顔をしかめている。


だが編集長は諦めない。

苦しみながらも顔の筋肉を総動員して、ニコニコ笑顔を作り、前かがみに腰を曲げた。


「ささっ、日下部先生。とりあえず、こちらに……」


へりくだった姿勢で、斗真を別室に案内した編集長。

それを見る周りの皆は、一様に沈痛な面持ちで黙り込んでいた。

この場の誰もが分かっている。

無論、編集長もだ。


悪いのは斗真だと。


けれど、斗真が翔の作品を侮辱した事は誰も言わない。

編集長が斗真のご機嫌を取る為に、何か賄賂(わいろ)的なモノを渡すのであろう事を分かっていても。


この出版不況にあえぐ業界において、売れっ子の作家というのは、まさに金の卵そのものと言っていいからだ。


翔は、こんな奴に負けている自分が本当に悔しくて情けなかった。

でも、翔自身も分かってはいる。


作家の世界も、売れてるヤツこそが正義。

それがまかり通っている世界。

力の無い者は弱者であり、価値を生み出せない悪なのだと。


何より、自分の小説は時代に合っていない事が。


───くそっ!分かってんだよ。そんな事は……


心の中で毒づく翔だが、翔には捨てられない夢があった。

それは、自分の小説で世の中に元気を取り戻す事だ!


毒にも薬にもならない小説やアニメや音楽が蔓延して、人の心が緩やかに腐っていってる今の世の中。


翔はそんな世の中を、変えたいと思っているのだ。

人々に感動を与え、現実と向き合う力を沸き出させる小説を、世の中に流行らせる事によって。


そう……かつて自分に、現実で戦う力を与えてくれた作品のように!


だからこそ、翔はどんなに認められなくても、自分の信念を曲げずに魂を込めて来る日も来る日も小説を書き続けた。

けれど、いくら書いても結果は全く出なかった……


そんな苦しい活動の中で翔が特に覚えているのは、この斗真の事はもちろんだが、それとは別に、とある女編集者から言われた言葉だ。


「翔さんが伝えたい想いも文体も、決して悪くないです。むしろ、私としては翔さんの小説大好きです」

「じゃあ……!」


パアッと顔を輝かせた翔に、その女編集長は辛辣な面持ちで告げる。

彼女自身、本当は翔に言いたくない。

翔の作品には魂がこもっているし、彼女は翔の作品が好きだから。


でも、編集者としては言わなきゃいけないのだ。

例え自分の言葉で翔が傷付くとしても、本当に翔の為を思うからこそ。


「でも翔さん……残念ですが、読者はこれを求めていません。読者が求めているのは、頑張って苦難を乗り越える主人公じゃなくて、チートで最初から強かったり、勝手に可愛い子達からモテて癒される主人公なんです」

「くっ……!」

「もしくは、頑張らなくてもいいスローライフや、ありえない展開のシンデレラストーリーとか。なので、求めてる物が違う以上、翔さんの小説は残念ですが……売れ、ません……」


翔はその女編集者の言葉を思い出し、晴天の下でガックリと肩を落としてうなだれたのだ。

リアルな記憶は時として、現実と見分けがつかない時があるから。


けれど翔の心には、斗真からの侮辱や、その女編集者から言われた言葉を振り払うかのように、負けられないという強い想いが込み上げてきた。


「そーだよな、分かってるよ。でも俺はな……捨てられないんだよっ!!」


翔が大きな声で叫んだ時、背後から突然女の子に声をかけられた。

運命が大きく変わっていく、第一声を。


「わっ、急に叫ぶからビックリしたー♪ねぇ、何を捨てれないの?」

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