妄想の帝国その49 ジャパピック
新型肺炎ウイルスの蔓延の最中にオリンピックを強行したため、崩壊したニホン国。国連統治下にあるその国で、ジャパピックが開催されようとしていたが、その内容は利権にまみれたもので…
“さあさあ、お待たせいたしました!旧ニホン国民、間違いニホン国政府他の皆様待望だった、ニホン特有オリンピック、通称ジャパピックの開催です!”
賑やかなアナウンスとは対照的に、競技会場の選手控室では、出場予定選手の悲痛な訴えが続いていた。
「いや!なんで、あんなの出なくちゃいけないの!」
水着姿の女性がロッカーにしがみついてた。彼女の周りの何人かの男女が
「イケエイさん、頼むから出てくれ。君は特に委員会の御指名なんだ!出ないと我々全員がヤバいんだよ、新型肺炎ウイルス治療薬の被検者にさせられるかも」
「そうよお、旧ニホンのスポーツ界、特にニホンオリンピック開催をゴリ押ししたところは、軒並み目をつけられてるのよ。新政府の連中に逆らったらどんな目にあわせられるか」
「だいたい、アンタ旧ニホンオリンピック開催絶対出たいって言ってたろ、SNSで。兄弟も開催関連で儲けてた便通の一員で、スポンサー企業も関わってたっていうじゃないか。アンタもこの状況の責任はあるんだよ」
「そうそう、アンタたちが開催、開催、言わなきゃ、中止されて旧ニホンが医療経済全部崩壊してなくなることもなかったの。それにメダルとれたじゃん、出た選手ほとんどいなかったけど」
口々に攻め立てられるが、イケエイは頑として動こうとしない。
「だからって、だからって、こんな競技にでなきゃいけないなんて!」
彼女は自分の水着、白色のワンピースタイプ、いわゆるスクール水着のようで、胸元に平仮名で大きく“いけえい”と書かれたゼッケンが縫い付けてある。白のせいか、あちこちから肌が透けて見え、ゼッケンがなければ(これ以上書きますと年齢規制に引っかかる恐れがありますので割愛させていただきます)以下オタク的ご想像が膨らみまくる状態。とても競泳選手が身に着ける代物ではない。
「し、仕方ないんだ!これは、その、ジャパピックは、スポーツの祭典ではないんだ!」
「“開催関連団体が末端で働く臨時バイトらの人件費や各種グッズ製作費を中抜きして儲け、スポンサー企業が感動、絆の名を借りてお涙頂戴物語に乗じて名を売り、スポンサーやら後援者がいないと自分らで食っていけない選手やコーチらが食い扶持を探すためといわれた旧ニホンオリンピックを踏襲したもの“だからね、それでうまい汁吸った奴等を笑いものにして、新ニホンで苦境にあえいでいる国民の憂さを払おうって大会だから」
「つまり、アンタが見世物になってくれないと困るのよ、イケエイさん」
だが、イケエイは首を横に振り
「だからって、コーチ!泳ぎながらストリップみたいなこととか、できません!お、泳ぐと透けて、と、溶けちゃう水着なんて!どっかのバカバカしいラノベみたいな演出は嫌!」
年頃、でなくても女性として至極当然な反応である。男性とて嫌がるものは多いとは思われる。しかし、コーチと呼ばれた女性は
「今までだって、見世物みたいなものなのよ。だいたいアンタの記録がなんで大々的にテレビだのニュースだのになったと思ってんの?人の泳いでる姿ってそんなに面白いもんだと?ニホンの代表が勝った、っていうストーリー性を政府とか企業とかが利用するために決まってんじゃない」
ハッとしたような顔をするイケエイ。
「だいたい、人が汗かいて運動してる姿なんて単純にみればそんなにおもしろいもんじゃないわよ。テレビでアナウンサーだの、解説者だのがもっともらしく努力や忍耐のサクセスストーリーを作ってくれるから盛り上がるの。それに便乗したい企業が選手たちを広告に使って儲ける、そういう図式よ」
「わ、私たちは純粋に競技を!」
「はあ?だれが練習費用を、早く泳げる水着を提供したの?あくせく働いたり、親の介護やら面倒見ている同年代の子もいるっていうのに、そんな心配もなく練習に打ち込めたのはどうしてかしら?少なくとも代表選手に選ばれてからはいろいろ援助してもらったんじゃない?ご家族も」
「それは、その、タイムとか」
「そう、アンタは自分の身体能力でのし上がってスポンサーもついた。それがわかってたから、旧ニホンオリンピックの開催にこだわってったんでしょう?スポンサー契約が切れたり、お兄さんが首になるかもって。だからって新型肺炎ウイルスが蔓延し、開催したらパンデミック、経済的にも打撃、と内外から反対を受けてるなか、開催をゴリ押しして良いってもんじゃないわよね。医療崩壊が起きて、入院どころか重症になっても治療が受けられない死にそうな大勢の国民を差し置いてワクチン打ったり、治療受けたりしていいってもんじゃないわよね」
コーチの言葉にイケエイは黙り込む。
「サデズカ・コーチ、さすがに言いすぎじゃ」
「そうかしら、開催したせいでウイルスの感染爆発、人口の3割以上がなくなって、残った人の半数以上が後遺症に苦しんでる。おまけにニホンは変異株の宝庫といわれ輸出入が事実上ストップよ、経済打撃なんてもんじゃないわ、政府崩壊、ニホンは実質上存在しなくなったのよ。今や国連の統治下、周辺国に食い物にされてる。それは誰のせいなのかしら」
「開催したから、だから、開催を望んだ人…」
力なくいうイケエイ。他の面々もうなだれている。
「ま、私もアンタを止められなかったから同罪かもね。一応、次があるからってとめたのにね。でも、アンタは、また病気がって、次がないかもって頑として開催、出場を望んだ。結果、開催しちゃって。でも、メダル取れてよかったじゃない。ま、ライバルはみんな将来や他の人のことも考えて出場辞退したからだけど。そんなメダルに価値があるかどうかはわからないし、次は永久にないけどね」
「ウ、ウウ、ゴ、ゴメンナサイ。か、考えなしで…」
「こういう子がいっぱいできちゃうのが旧ニホンスポーツ界の弊害よねえ。自分の記録とかしか考えない、将来壊れるほど、自分の体を競技用に改造しちゃうとか。だからあらゆるハラスメントの宝庫って言われてたのよねえ」
「こ、コーチ、そこまで」
「監督、助手さんたち、わかんないの?この控室の様子も放映されてるの、これも演出。自分の自己実現だけ考えて、国民の犠牲を考えもしなかった浅はかな美少女をこらしめるっていうシチュエーション、視聴者が喜ぶのよ。ホント、旧ニホン国民の皆様は人を貶める演出がお好きよねえ、ヨジモト興業だっけ、そういう人を小バカにしたお笑いでウケたところ、あったわよね。最初に医療崩壊したニホン第三の都市でテレビによくでてたわ、トップがアホすぎて都市が滅茶滅茶になったのは、あんなのを喜ぶ市民が多かったせいかしらね。それを踏襲してるだけよ。私の子供も後遺症があるの、これで視聴率稼げるといい治療受けさせてあげられるしねえ」
呆気にとられるイケエイ。監督らは手のひらを返したように
「そ、そうだ、我々は間違ってたんだ、国民を苦しめ死に追いやった責任をとらないと、イケエイでるんだ!お、俺たちは応援、いや目をつぶってやるから」
「そ、そうだよ、こ、これは亡くなった人々への贖罪なんだ。し、視聴率があがれば金が入るって。か、稼いだ金は苦しむ旧ニホン国民に寄付するとか!そうすれば俺たちもこんな茶番から解放されるんだ!」
とイケエイを急き立てる。
「妄想変態オタクが喜びそうなストリップのどこが贖罪なんですか!」
再び泣き出すイケエイ。
「だから視聴率取って、今度は反省してます、犠牲になります演出なんだ!」
「メダル取るサクセスストーリーからオタクどもの欲望の餌食になり国民の皆様を救う愛国少女ストーリーを作り出すんだ!」
と支離滅裂な理屈でイケエイを取り囲む男性ら。彼女はとうとう担ぎ上げられて、競技場のプールに運ばれた。
“あ、目玉であるイケエイ選手、ついに登場です!このプール、病床を差し置いて設置されたこのプールで彼女はどのような肢体を見せるのか、皆さまワクワクですね。選手たちはどのような感動物語をみせ、視聴率を稼いでくれるのか、さあ競技の始まりです!”
どこぞの国では”あすりーと”たちを急き立てて国際イベントを強行しようとしていますけど、世界でも危険視されてるようですが大丈夫だとおもってるんですかねえ、関係者の皆さん。実際変異株が蔓延し、医療崩壊おこしたら、医療従事者が倒れたら、他の病気の人も治りそうな人も、病から回復したという人も、以降は助からない可能性が大きいですが、皆さん理解してるんですかね。