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海の森と小人さん ~みっつめ~

担当様に聞いてみてからですが、書籍化用に加筆修正したものを短編投稿してみようと思います。既に投稿済な短編を削除し、厨房の小人さんを足して、二万字ほど。応援してくださる読者様にワニからの御礼です。許可してもらえたら、明日にも投稿します。


「フロンティアには桜様の返還要請がされているはずですっ!」

「されていますね、皇帝陛下(・・・・)から。陛下に問い合わせてみましょうか? 貴殿方がお越しになった件も含めて」

「ーーーーーーーーっっ」


 辛辣に意趣返しされて言葉を失う帝国人。極上の黒い笑顔なロメール。


 腹芸やらせたら、ロメールの右に出る奴はいないよねぇ。


 クスクスと笑う小人さん。


 もはや、悪足掻きすら出来ない。皇帝を失脚させるためにやってきた彼等は、その思惑ごとフロンティアに絡め取られた。


 だが、そんな事はフロンティアの眼中にはない。むしろ煩わしく、どうでもいい。


「陛下に確認をとる必要もないですけどね。だって、サクラはここに居ますから。サクラはチィヒーロの侍女なので、王宮に滞在しています。いつでもどうぞ。全力で歓迎いたしますよ」


 にたりと微笑んだロメールの眼は笑っていない。言外に含まれた鋭利なトゲ。来るなら来てみろ相手になるぞ、と。

 これが虚勢などでない事は、散々連敗してきたキルファンが一番良く知っていた。

 今まで皇女の亡命に難色を示していたフロンティアだが、事に小人さんが絡んでしまった以上、一蓮托生。

 フロンティアで受け入れる訳にもいかず、形としては万魔殿に所属させ、返還要請ものらりくらりとはぐらかしてきた王宮だが、小人さんが望むのなら否やはない。


 正式に皇女の受け入れ態勢を整えての出陣である。これは小人さんにも知らせてなかった。


 だって彼女は疑っていないから。


 王宮がサクラを助けてくれると疑っていない。ならば、その信頼に全力で応えねばなるまいて。


 そう思いつつも、ロメールは少し遠い眼をした。


 もし、王宮が助けなかったとしても、自力で何とかしちゃうんだろうしね、あの子は。

 そんなんなったら、大人の面子丸潰れだよ。ほんと。


 それに王宮そのものも雰囲気が変わった。これまで半日和見だったフロンティアだが、近頃は積極的に周辺国と関わりを持ち出したのだ。

 

 金色の王が現れ、巡礼が始まり、当然、各国への根回しが必要となる。

 主の森がある国は殆ど無い。あるとしても限り無く辺境に近い樹海のような所か、荒野や砂漠だ。

 そんな所へ巡礼するには、どうしても近辺国の協力が必要。

 それを円滑に行うため、現在のフロンティアは外交に勤しんでいる。


 ただ、まあ、キルファンは除外だがな。


 意気消沈し、どんよりと落ち込む男達を眺めながら、ロメールは眼を細めた。


 帝国がある大陸の周辺は広大な海ばかり。見事に世界の外れで、フロンティアからぐるりと大きく辺境を回っても、その環から外れる位置なのだ。

 主の森も存在せず、新たにチィヒーロが主の移動でもしない限り、金色の環の範囲から外れる。主を移動しようにも、金色の環に含まれない以上それも叶わない。

 

 絶対に魔力の復活が望めない土地。それがキルファン帝国だった。


 これで話も終わったかなと、フロンティア一行は立ち上がる。


 しかし、それに待ったをかけた者がいた。


 一人、キルファンの輪からはみ出て傍観していた克己。

 彼は軽く手を挙げて立ち上がると、少し首を傾げてロメールを見た。


「俺も同行して良いかな?」


 は?


 フロンティア一行もキルファンの男達も、揃って同じ疑問符を浮かべる。

 それに苦笑し、はにかむような顔で、克己は桜に視線を振った。


「俺らは、まだ何にも知らない同士だし、出し抜けに婚姻とか言われても拒絶されるのは当たり前だ。なら少しでも歩み寄って考えを交わしてみるのはどうかな?」

「私を落とすとでも?」

「ん~? なんと言うか。俺も、まだ、ここに来てから二年くらいで、キルファンしか知らないし、世界を見たいってのもあるかな。幸いフロンティアは治安の良い国だと聞くし、少しお邪魔しても良いだろうか」


 人好きする笑顔で微笑む異世界人。


 フロンティア側は、なんとも複雑な心境だった。


 自分らは、しばらくこの宿に滞在するから、一考してみてよと言い残し、克己とともにキルファンの男達も部屋から出ていく。

 それを胡散臭げに見送り、ドルフェンが忌々しそうに呟いた。

 

「馴れ馴れしい輩ですね。チヒロ様、御用心を」

「ちょいと毛色が違うねぇ。前に来た二人は、やたら威張りくさって、いけ好かない男らだったけど」


 前回の尋ね人の事だろう。

 桜が子供のころに亡くなったらしいが、好色で、何人もの妻を持つ上、片っ端から使用人の女らに手をつける節操なしだったそうだ。

 丁度、年齢の見合う皇族の直系皇女がいなかったため、皇帝にはならず、本人らも面倒だから皇帝にはなりたくないと拒否していたらしい。

 それでも滅多にいない生粋の日本人だ。多くの皇族らと懇意で、その御息女を妻にしていたために、それなりに発言権はあったとか。

 キルファンに魔法がなく、隣国にはある不条理を、ことのほか嘆いていたが、その魔法の有効な使い方をキルファンに示してくれた。

 氷の魔道具で冷凍殺菌や冷凍保存。風の魔道具をつかってのタービン式な風力発電。

 他、色々と役立つ技術を伝授してくれたらしいが、マイナスを穿つほど最悪な人間性の方が記憶に残っているサクラである。


「そういえば、最近は尋ね人の来る頻度が上がったねぇ。数百年前は百年おきくらいだったらしいのに、今は数十年おきで来るよ」


 サクラの言葉が引っ掛かり、小人さんは説明を求めた。


 そしてよくよく聞いてみると、千年くらい前までは、大人数で尋ね人は来ていたらしい。

 数十人単位が普通で、最大は数百人。一番多かったのは百年ほど前で、大きな金属の船で現れたとか。

 似たような制服に身を包んだ大勢の男らが、動かなくなった船からキルファン傍の小島に上陸し、そこの国を経由してキルファンまでやってきたと。

 そこまで聞いて、小人さんは顔を強張らせた。


 それって...... 日本海軍なんじゃ?


 ああああっ、そういう事かっ!!


 ようやく千尋は合点がいく。あの危うい時代が、この世界にスライドしてきていたなら、極端から極端へと染まる可能性はある。


 戦時中。徴兵により全国から多くの人々が兵士として集められた。

 有象無象で構成された兵団には、数多の職種の者達がいただろう。

 農民、養鶏、牧畜、他、専門の技術者らが、ひととこに揃い踏みしていた、無慈悲な時代。


 あれの一隻がキルファンに訪れた。


 動かなくなった船という事は、多分、撃沈される運命の船だったのだろう。

 そんなんが来ていたなら、キルファンのチグハグさにも納得する。百年に一度程度くらいと言うことは、江戸時代からいきなり近代がやってきたようなモノだ。

 知識を学び、理解する前に、尋ね人らの寿命が尽きてしまう。

 結果、上滑りな知識と、尋ね人らの遺産たる現物が残った。

 珊瑚礁を破壊したのは、それだ。戦時中の船なれば、機雷や魚雷の十や二十はあったはず。その使い方を知ってさえいれば、単体で爆発くらいはさせられるだろう。


 近代文明の上っ面だけをなぞった赤ん坊。それがキルファンなのだ。


 しかもそのころは、まだ職業婦人が走り出した頃。男尊女卑の風潮が根強く、女は外に出さないモノとされていた時代。

 女を貶めている訳ではなく、男は外で働き、糧を得て、女は家を守り、男を支えるという、古来の図式があっただけ。

 その後に、多分人間性のよろしくない尋ね人が続けてやってきて、男尊女卑の図式を歪めてしまった。


 キルファンは過程を知らずに答えだけを貰った素人集団。道を踏み外すのは簡単だったことだろう。


 根が深い。これを正すのは無理じゃないか?


 だが、確かにキルファンには日本の知識が伝授されている。

 長い歴史の中で、モノにしてきた技術も、確かにあるのだ。

 桜達の着物や、万魔殿の農場、牧場。正しく継承されている和食や食材等々。それらを思い出して、小人さんは思案する。


 このまま行けば、キルファン帝国の前途は、果てしなく暗い。内部から瓦解して、血で血を洗う内乱のうえ、焼け野原ともなりかねない。

 百年前のとはいえ、近代兵器を持っているのだ。しかも野蛮な男どもの巣窟ともなれば、死なば諸共の玉砕だって有り得る。


 見捨てるにはもったいないよねぇ。何とかならないかなぁ?


 深刻そうな顔つきの小人さんを訝るように眺めるフロンティア一行。

 まさか彼女が、和食やその食材を救う算段を頭の中で弾いているとは、誰も思わない。


 神様の残念な人選に憤りながらも、考えるのは御飯の事。


 いかなる時であろうとも、根本の揺らがないマイペースな小人さんである♪

 

どこまでも本能に忠実な小人さん。はてさて、どうなりますことやらww

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― 新着の感想 ―
小人さん大好き(*-ω(ω-`o )))大スキッ♡
女は外に出るのは危ない時代なのに(犯罪リスクが高い)、閉じ込めておくという表現には違和感を感じております。 イスラム教の女性の幸福度が高いという情報も、多くの日本人は知らないみたいですし(^_^;)
『近代文明の上っ面だけをなぞった赤ん坊。』 8月になるといつも思います、これに派生した原子力も幼稚園児にマッチな気がしてます あ!矛盾するけど、私は核エネルギーに夢見てる派です
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