海の森と小人さん ~ふたつめ~
またまたレビューがっっ、二桁なったばかりなのに、ほんとに、ありがとうございますっ:::
「我々が護ると言っているではないかっ!!」
「だから、その証明が出来るのかって聞いてるんでしょーがっ!!」
怒鳴りあう男性陣VS幼女。
どうして、こうなった?
小人さん同様、過去に何度となく思い描いた言葉を、ロメールは乾いた笑みで脳裏に浮かべている。
事の起こりは半刻ほど前。ゲシュベリスタに到着した小人さん一行は、件のキルファン人らが宿泊すると言う宿屋に向かい、合流してから漁業ギルドを訪れた。
ゲシュベリスタを統括する漁業ギルドと農業ギルド。生活に密着したこれらには力があり、専用の建物を所持している。
防音もある会議室の一室を借りて、ロメールが主となり、キルファン一団との話し合いが始まった。
「実は、こちらの克己様は異世界人なのです。我々と同じ祖先の血をひく別世界の人間で、神々の招待により、アルカディアへとお越しになられました」
情報としては聞いていたが、まさか、本物に会おうとは。
ロメールは軽く瞠目して、異世界人だと紹介された青年を見る。
年の頃は二十代半ば。黄色人種のキルファン人にしては、やけに白い肌をした男性だった。平民みたいな短い髪に違和感を持つほど、育ちが良さそうで物腰の柔らかい人物である。
「サクラ様がお戻りになられ、克己様と婚姻をなされば、我が国の悪しき風習を一掃出来ましょう。多くの国民が、それを願っています。なにとぞお願いいたします」
切々と訴える男達。ロメールもキルファンの内情は知っていた。
全ての法律が男性優位で女性の助けになる法律など皆無。むしろ全ての女性の権利を剥奪するようなモノばかりで、女性は男性に隷属するしか、生きる道が残されていないような有り様だ。
人形のように唯々諾々と従う女性達。それを救わんとする彼等は悪人には見えない。
これはキルファンの問題であって、フロンティアが口出し出来る事ではない。当事者同士で話し合うべきだろう。
話を促すかのように、ロメールはサクラに視線を向けた。
しかし、そこでロメールは嫌なモノを見る。
サクラの隣に座っていた小人さんの口角が、これ以上ないくらい皮肉気に上がっていたのだ。すがめられた瞳は爛々と輝き、今にも炎が噴き出しそうだった。
え? なんで?
困惑するロメールの前で、小人さんの笑みが陰惨に深まり、舌戦の火蓋が切られる。
諦めたかのような顔で、ロメールがソファーに深く腰掛け、代わりとばかりに桜の隣の幼子が身体をのりだした。
え? とばかりに、すっとんきょうな表情を並べるキルファン人達。
それを無視して、小人さんは、明るく可愛らしい声で問い掛ける。
「皇帝陛下から許可は頂いているのかなぁ?」
「.......元々、桜様が次期皇帝に指名されていたのです。我々は曲げられた道を正すだけなのです」
「答えになってないね。どれだけ道理を曲げていようが、今現在のキルファン最高権力者は皇帝陛下だよね? それに楯突くような事して、ただで済むと本気で思ってるの? そんなに、おめでたいの?」
「あなたには関係のない話......」
「無くないわっっ、この戯けがーっ!!」
辛辣な探り合いを放棄して、小人さんは絶叫した。
桜から大まかな経緯は聞いている。兄である皇帝が本当は彼女を殺してしまいたい事。己の地位を正当化するために、桜を手込めにしたい事。
帝位を奪われる事を恐れて、尋ね人と娶わせないよう、桜の帰国を望んでいない事。
それらをぶちまけて、小人さんはキルファン一団を睨めつけた。
「そんな危ない状況しかない国に桜を引きずり込んで、どうしようってのさっ! その異世界人とやらに、桜が守れるのっ?!」
一人の人物を除いて、他のキルファン人は苦虫を噛んだような顔で幼女を見据える。
何故、それほどキルファンの内情に詳しいのか。護るつもりはあるが、護れるかと問われれば、絶対とは言えない。
千尋にもそれは分かっていた。
彼等は、そこの克己とか言う日本人の親派なのだろう。万一があれば、彼等は桜を見捨ててでも克己を護る。
なればこそ、桜を護り切るとは口に出せる訳はない。
大事な場面で偽りを述べない事は評価するが、そんな輩どもに大切な預かり者を渡せるものか。
「桜は、万魔殿の万里から預かった大切な人だ。アタシにとっては家族も同じ。欠片でも危険がある場所にやる気はないの。おわかり?」
にや~っと人の悪い笑みを浮かべる小人さんを、克己は有り得ないモノを見る眼で一瞥した。
目の前にいるのは幼い子供。こちらの幼児は、こんなに弁がたつものなのか?
どう見ても三つか四つだよな? 日本なら、幼稚園とかで御遊戯してたりする年齢なはずだ。
思わず絶句する克己だが、その思考が間違いなことに、すぐ気づいた。
何故なら、周りのキルファン人らも絶句しているからだ。
つまり、今の状態は普通ではない。
そして逆に、全く身動ぎもしないフロンティア人と桜。
どうやら、これに違和感もないらしい。彼等にとっては、これが日常なのだろう。
何もやれる事がなく、病院のベッドで一日中読書やネットサーフィンをしていた克己である。薄ぼんやりとした予想が確信に変わるのも早かった。
「君は転生者か?」
「......なんの話か知らないけど、問題をすり替えないでよね。桜は渡さないからっ!」
知らないと言うわりには、疑問を持ったようでもない。これは当たりか。
ほくそ笑む克己に、神経を逆撫でられつつも、一歩もひかない姿勢の小人さん。
そして話は冒頭に戻る。
「我々が全力で御護りいたしますっ!!」
「護れるの? 皇帝から?」
「命をかけますっ、大丈夫ですっ!」
「命が尽きた後は? 全然、大丈夫じゃないよね?」
ああ言えば、こう言う。
ぶちギレしそうな眼差しで、キルファンの一団は、桜を見た。
「桜様の御意見をうかがいたいっ! 貴女様は皇族として、同じ女性として、民を救いたいとは思われないのか?!」
無言で一部始終を傍観していた桜は、長い溜め息とともに言葉を吐き出した。
「皇族が、私に今まで何をしてくれたの?」
固まるキルファン人達を見つめ、桜はさらに言葉を続ける。
「民らが..... キルファンが私に、いったい何をしてくれたと言うの?」
冷たい光を浮かべた剣呑な瞳。何の感情もないその瞳に、キルファンの一団は背筋に冷たいモノを走らせた。
「別に恨んでいる訳ではないわ。そういう国だったのだしね。でも、何の義理も恩もない国や家族に施しをするほど、出来た人間でもないんだよ、私はね」
桜は幼少期から直系唯一の苗床として、淫猥な男どもの眼に晒されてきた。
直接的に触れてくる輩もおり、現代であればトラウマ案件だらけの日々である。
救いと言えば、まだ桜が婚姻年齢に達する前に父である皇帝が死んだ事。
平民や貴族らなら、年齢に関係なく女に無体を働くが、さすがに直系の皇女を婚姻もせずに手込めには出来ない。
父皇帝が生きていたなら、彼の花嫁にされただろう。考えるだにおぞましい。
堅牢な籠の鳥だった桜を救ってくれたのは、生まれた時から一緒だった乳兄弟だ。
彼は桜を慕っていて、彼女が壊される前に、僅かな伝を辿りフロンティアへ繋ぎをつけてくれた。
皇帝崩御の慌ただしい隙をつき、共にフロンティアへと渡り、万魔殿へ向かったのだ。
ほんの少しの間だったけど、ようやく訪れた細やかながら幸せな日々。桜も彼の気持ちを受け入れ、二人は恋人同士になる。
身分も国も関係ない土地で、新たな生活が始まるはずだった。
だが、辿り着いた万魔殿で、後日彼は殺される。
桜は見逃されたようだが、下級貴族の彼は見逃されなかった。
万魔殿に定期的にやってくるキルファンの監査官により、彼は一刀のもとに切り裂かれた。
監査官の横暴を、万里にも止める事は叶わない。用済みになった娼婦や、その子供らを護るので精一杯なのだ。仕方がない。
桜は忘れない。キルファンが彼女に与えた屈辱と哀しみを。
それをしたのはキルファンの権力者どもだ。
「逆にこちらが聞きたい。なぜっ? 私が?? キルファンのために尽くさねばならないのか?!」
恨みはしないが、憎しみは消えない。
娼婦に身をやつしても、桜の最愛は彼一人。彼の眠るフロンティアこそが、桜の居場所である。
はくはくと過呼吸みたいに口を動かすキルファン人達。
信じられない眼差しを向ける彼等の中で、克己だけが冷めた眼で桜を見ていた。
「答えは出たようですね。ならば、お引き取りいただけますか?」
ロメールが極上の笑みを浮かべ、目の前の男達を見る。
「こんな.... 有り得ない、なぜ? 桜様の祖国でありましょう? 見捨てると仰るのですか?」
さらに悪足掻きしようとする男に、桜はこれ以上ないくらいの優美な笑みで答えた。
「祖国? 見捨てる? どっちがだい? 私が万魔殿で娼婦をやっている現状を理解した上で言ってるんなら、大した面の皮の厚さだねぇ」
王手である。
彼女がフロンティアへ逃げた経緯など、彼等は百も承知だろう。後日談も。
それをおしてでも犠牲を強いる。さすがに、そこまで極悪非道ではなかったようだ。
だが、それでも共感してもらえると思っていた。酷い目にあった女性だからこそ、他の女性らを救うために力を貸してくれると。
甘かった。桜は己とキルファンを完全に切り離していた。
がっくりと項垂れるキルファンの一団に、ロメールは微かな親近感を感じる。
似てるなぁ。サクラって、小人さんにそっくりだぁ。
ほんの数ヵ月前の出来事が彼の頭に過った。チィヒーロも同じように王家を切り捨てたっけ。なんか、懐かしいな。
小人さんも成長したらサクラみたいな女性になるのかな。
凛と佇む目の前の女性に、ロメールはゾワリと悪寒を感じた。
いやいやいや、不味いっしょ。チィヒーロが、こんなんになったら、兄上号泣しちゃうよ。勘弁してくれっ!
全身を粟立たせるロメールを余所に、小人さんと桜は眼を見合せて、不敵な笑みを浮かべる。
挑戦的なそれを見て、フロンティア一行は口角を上げ、キルファンの男どもは絶望に眼を伏せた。
フロンティア無双に荒れ狂う室内で、今日も小人さんは絶好調です♪
キルファンの事はキルファンで。皇帝を打倒したいなら、したい人達でやれば良いのです。ワニは、そう思います。
既に戦線離脱した桜を巻き込もうとするのが間違ってる。利用する気満々じゃないですか。ねぇ?ww




