帝国と語り部と小人さん ~後編~
誤字報告、再び開きました。今まで読者様らに負担をかけて、ごめんなさいです。添削文章など、来たら、ぽちっと削除りますww
「チィヒーロぉぉぉっっ!!」
「ただいま、お父ちゃん」
駆け寄る幼女を抱き上げ、ドラゴは大泣きである。
帰ったと聞いたのに、王弟殿下のお召しがあったとかで、千尋の姿は見えず、騎士団が荷物だけ運んできた。
まあ、金色の王として他国を視察に行った訳だし、報告が先だとしても仕方無い。うん。
ドラゴとていい大人なのだ。そのへんは理解していた。
しかし、待てども暮らせども千尋は戻らない。ジリジリした焦燥感を抱きつつ、何度王宮に突撃しようかと思ったか。
それを我慢して玄関をウロウロしていたドラゴの元にアドリスがやってきた。
小人さんから預かっていた食材を運んできた彼は、玄関に仁王立ちするドラゴを見て、眼をしぱたたかせる。
「なにやってんですか? 料理長」
「チィヒーロは?」
「ああ、ちょい問題が起きて、メルダの所へ行きましたよ」
「はああぁぁぁっ??」
ナーヤに荷物を渡すアドリスを凝視し、ドラゴは、しょぼんと肩を落とした。
あからさまに落ち込んだ熊親父に苦笑して、アドリスは王宮外壁の方を見る。
早く帰ってこいチィヒーロ。料理長まで枯れちまうぞ?
萎れるドラゴに旅の土産話をしながら、アドリスは、共にチィヒーロの帰りを待った。
そして現在。おうおうと泣きまくったドラゴは、チィヒーロを抱えて満足そうである。
「これねぇ、スファーナって街で買ったの。ほら、王宮のより目が細かくて丈夫そうでしょ?」
「ああ、良いな。これならもっとキメが滑らかなクリームやペーストが作れそうだ」
濾し器や金型、糸包丁など。王宮にある物とは違う、遊び心の満載な調理器具。
金型に至っては、動物型や植物を模した物など、フロンティアでは普段は眼にしない物が沢山あった。
御満悦な小人さんと、御機嫌なドラゴ。
他にも一杯買ってきたお土産を広げ、千尋はせっせと分類する。
こっちはロメールでしょ。これは王様らで。殿下方にはこれ.... あれ?
しばし沈黙し、千尋はさーっと血の気を下げた。
「妃様らの分忘れた.....」
第一側妃と第二側妃。うっかりしてたわ。ってか、この二人、存在感なさすぎるし。
ヤバい、どうしようっ!!
あわあわする千尋の肩を、桜がポンポンと叩く。
「妃様なら女性だろう? これはどうだい?」
桜が出したのは、組紐で拵えた飾り。裏側に布がベルト状に着いており、専用のピンと金具もある。
ブローチにも髪飾りにもなる便利なアクセサリーだった。
桜は同じ物を複数持っているという。
「これなら異国風だし、ヤーマンでも販売してる品だから、お土産にしてもおかしくないよ」
未開封の箱に入った物を渡し、彼女は、にっこり微笑んだ。
天の助けぇぇっ!
有り難くそれを受け取り、千尋は安堵に胸を撫で下ろす。
そんな二人のやり取りを、目の前で眺めていたドラゴは、不可思議な感覚に襲われた。
チィヒーロが無邪気なのは何時ものことだが、それを差し引いても、まったく警戒心がない。
チィヒーロは賢い子供だ。無邪気そうに見えて、実は警戒心が強い。常に周囲を窺っている。
今でこそドラゴらにも警戒しなくなったが、最初のころは、それなりな距離を保っていた。
これは大丈夫か? ここらまでは平気か?
探るような幼子の態度が切なくて、ドラゴは何でも許したし、何でも与えてきた。
結果は、逆にドラゴが沢山のモノを与えられたようなものだったが、それが功を奏したのか、チィヒーロから警戒心は無くなった。
ドラゴはチィヒーロが彼女を連れてきた時を思い出す。
「桜って言うの。アタシ、まだ侍女とか側仕えいないでしょ? 彼女にやってもらおうかなって」
「初めまして。桜と申します。以後よしなに」
いきなりの提案に、ドラゴは眼を見張った。
侍女や側仕え。それらは王宮が用意するような話になっていたが、王宮専用で、我が家にはいない。
家にはサーシャがいるものの、彼女はナーヤと共に家政を取り仕切っている。四六時中チィヒーロと一緒にいる訳にもいかず、結局はポチ子さんとドルフェンのみが側近としてついていた。
ポチ子さんを数に入れるなと言いたいところだが、話せずとも思念で繋がる蜜蜂は、小人さんが必要だと思う物を、口に出す前に用意する。
ぶい~んと飛び回り、御茶を運ぶわ、クッションを運ぶわ、小人さんが靴を脱いでソファーに上がると、その下で、いそいそと靴を揃える可愛い蜜蜂。
かいがいしいその姿に、ほっこりする王宮の人々の眼に映るポチ子さんは、既にチィヒーロの側仕えである。
チィヒーロ自身も、とてもポチ子さんを可愛がっているし、常に一緒な二人に付け入る隙はない。
しかも破格に強い魔物だ。
護衛が主任務だが、小間使いも癒しも担当出来る逸材だった。
だが、ちゃんとした侍女も必要ではある。
今はまだ幼いから良いが、これから成長したら、魔物の側仕えでは不都合な事も起きるだろう。
だから、これだけチィヒーロと仲の良い女性がいるのは、有難い。
チィヒーロは王宮の女性を警戒している。警戒というか、苦手なようで近づかない。
まあ女性だけでなく、王宮そのものにあまり寄り付かないのだが、それを別にしても王女という地位にある者が男性と魔物しか連れていないのは外聞が悪かった。
城や城下町では、小人さんだからと、当たり前で気にされなくても、今回のように遠出をしたり、王族として儀式や公務に並ぶようになれば、小人さんを知らない者らの眼にも触れる。
世界は優しくはない。
王女に足りぬところがあれば、これ幸いに叩き罵るだろう。
そんなイバラの道を、愛娘に歩かせたくはないドラゴである。
なので、サクラの存在は有り難い。
男のドラゴやロメールでは補えないところをフォローしてくれるだろう。
だがしかし。
睦まじく微笑み合う二人に、ドラゴは剣呑な眼差しを向けた。
なんかモヤモヤする。サクラは良い女性だ。チィヒーロも懐いている。
だが、父ちゃんといる時は父ちゃんを見てくれ、チィヒーロぉぉっ!
流石に口にはしないが、それでもドラゴは千尋を抱き込み、あっちへウロウロ、こっちへウロウロ。
見かねたポチ子さんが、ドラゴの後ろ頭に飛び付き、テシテシっと頭を叩いても、彼は千尋を床に下ろさなかった。
焼きもちを焼く父親の姿は微笑ましく、周りは揃って苦笑い。
その深い愛情が面映ゆく、小人さんの顔がニマニマ緩む。
そしてドラゴの髭にすり寄ると、ぎゅーっと首に抱きつき囁いた。
「寂しかったぁ。今日は一緒に寝ようね」
ドラゴは軽く瞠目し、小さな背中をポンポンする。
「ああ、俺もだ。ほんとに....ほんと、寂し....っ」
再び、嗚咽を上げるドラゴ。いつまでもこうしていられる訳はない。だけど今は許されるだろう。
ドラゴは、元気でフクフクと育った小人さんに感無量である。
彼の眼には、出逢ったばかりの頃の小人さんが、常にダブって見えていた。
煤けて虚ろな眼差しだった子供。
警戒して、こちらを窺う子供。
そろりそろりと近寄ってきて、にへらと見上げてきた子供。
あまりに切なくて、抱き上げ、抱き締め、ありったけの愛情を注いできた。
小さな子供の時代は短い。だから、今を幸せに生きよう。
チィヒーロが大きくなって、疲れて、苦しくて、過去を振り返った時。
笑って前を向けるように、幸せで暖かい思い出を沢山作っておいてやろう。
ズビズビと鼻をすするドラゴの頭を、小さな紅葉の手が撫でる。それに至福を感じ、彼は涙を拭い、にかっと笑った。
ああ、本当に。与えてやりたいのに、貰ってばかりだ。
幸せは足し算ではなく、かけ算である。
想い合う気持ちが倍となり、それが周囲にも振りまかれ、連鎖が止まる事はない。
泣いたり、嫉妬したり、笑ったり。
小さな幸せを積み重ね。今日も小人さんは元気です♪
またまた、レビュー頂きました。レビューって、こんなに頂いても良いんでしょうか? 有り難いことです。感謝します。
両手一杯にお星様を抱えたワニが、ヤシの木の天辺で踊っています♪




