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荒野と畑と小人さん

.....レビューが三つも増えております。え? 何事でしょうか?

畏れ多くてヤシの木から降りてこないワニがいますww


「ふぁあああ、すごいね、これ」


 翌日、フロンティア一行は、万魔殿の所有する畑を訪れていた。

 国境沿いで荒野が近く、森の主の恩恵が届きにくい荒れ地であるにも関わらず、そこには旬の野菜がすくすくと育っている。

 

「牧畜もやってるからね。ここらは大半が荒れ地だったんで好きにして構わないといわれて、仲間が調子に乗っちまったらしいよ」


 作物はヤーマンの街にも卸されており、フロンティアでは嫌われている帝国の廓が、何故に問題なく運営出来ているのか分かる気がした。

 安定供給される農産物や畜産物。これには街も大助かりだろう。

 それに混ざり、帝国特有な物も栽培され、万魔殿独特の料理に使われている。元々はこちらがメインの畑だったのが、街の要望に応えて通常の作物を増やした結果、見渡す限りの畑になったのだとか。


 少し遠くに牧場らしきモノも見える。


 笑うしかないね、これは。


 たぶん、家畜で堆肥を作り、畑に循環させるローテーション。土地の有り余った荒野だからこそ出来る荒業。それをやり遂げてしまう帝国の技術にも感服だ。

 ここでもキチンとした知識があれば、地球と同じやり方で、豊かな農耕地が作れるという証明である。


「これを主にして、廓なんかやめたら良いのに」

「そうもいかないさ。廓という苦界があるからこそ、牢獄として見てもらえる。ただの農場や牧場だけじゃ、終身刑の虜囚の罰には甘すぎるのさ」


 やや遠い眼でサクラは空を見上げた。


「それにね。老いて娼婦をやれなくなった者にも労働の場があるなら、処分されなくて済むからね」


 言葉に含まれた意味を覚り、小人さんが、ぎょっとした顔で振り返る。

 それに頷き、サクラはとつとつと話した。

 

 廓に連れてこられる虜囚の殆どが女で、終身刑だけでなく、重罪など、苦役に値する貴族の中で問題を抱えた者だけが送られてくる。

 年に十人くらいだが、絶える事はない。

 そんな女性らは、老いたり稼ぎが悪くなった場合、食い扶持を減らすため処分されるのだ。

 客との間に生まれた子供らも、女なら育てて廓の娼婦になるが、男なら五歳くらいで人買いに売られる。

 隅々まで無駄のないシステムの中で、農場が広がった事により、お役御免になった女らや、人買いに売られるはずの子供らの使い道が出来たのだとか。

 無料奉仕の労働力だ。こんな美味い話はないだろう。


 世の中、世知辛いなぁ。でも、それで命が助かるなら、御の字か。

 

 生まれた時から奴隷として育った者は、その身分に疑問を持たない。むしろ、それを誇るくらいに洗脳される。

 人身売買がある限り、なくならない負の連鎖。地球にだって以前はあった黒歴史だ。

 奴隷が生き物である以上、番わせて無限に増やせる。家畜と同じ。

 これは人々の意識が高まらない限り、無くならない。生前に過去の記録を上滑りしただけの千尋にだって分かる事だった。


 ろくな知識も与えず、ただ蒙昧に働く事だけを刷り込まれた人間に、何が出来ようか。

 主に従い、それが本望なのだと洗脳された人間にとっては、それが幸せなのだ。

 良い主に恵まれ、安寧な人生を送る。これもまた一つの幸福の形だろう。


 事実、廓の農場でも、働けなくなった老人などは本来処分の対象だが、その子供らや孫らが、倍働く、面倒をみると懇願し、受け入れられ、老衰するまで生きていられるとか。

 これも、主の寛容さと、それに感謝する奴隷の図式が当てはまる。

 懇願を受け入れてもらえた奴隷側にしたら、主の情の深さに歓喜で打ち震える結果だろう。


 こうして人は染められていく。それが理不尽極まりないと知らないから。


 知らないのは幸せだと誰かが言った。知らないのは罪だとも。


 どんな事柄にも相反する両面がある。どちらが正しいのかは、未来の歴史家が語る事。今のアタシ達に出来るのは、手の届く範囲を幸せにするくらいしかない。


 だから、毎日を大切に生きよう。ほんの少しでも楽しんで、丁寧に日々をかさねよう。


 それには、まず、美味しい御飯だっ!!


 ふんぬっとサムズアップする小人さんを、サクラは不思議そうな顔で見つめ、騎士団の面々は、苦笑いで顔を見合わせていた。

 ああいう時の小人さんの頭の中は食べ物の事で一杯である。それを良く熟知している騎士達だった。




「ねぇねぇ、これも欲しーっ」


「.....全種類、根こそぎ持っていく気かい?」


 果樹園を走り回る小人さん。


 いやはや、ほんとに大農場だわ。むしろ、こっちのが本業なんじゃないの?


 植えられた果樹は、フロンティアでもポピュラーなリンゴやオレンジ、葡萄などの他に、桃や杏子、さくらんぼや蜜柑、はてはイチゴまである。

 木苺や蔓苺などの野苺ではなく、地面に這い、ランナーで増えるストロベリー。


 これが燃えずにおられようかっ!


「にゃぁああっ、そういや季節だよねっ! うわあぁぁぁっ、すごいっ、本当に苺だーっ」


 ずらりと並んだ石垣に、三段で植えられた苺。真っ赤で艶やかな実が鈴なりに実っている。

 これには騎士団も眼を見張った。


「これがイチゴなのですか? すごく大きいですね」


 うんうんと高速で頭を振る小人さん。


「めっちゃ美味いよっ、生でもジャムでも、すっごく美味しいっ」


 そして土の辺りに根付いているランナーを、そっと撫でて、幼女はチラリチラリとバンリを見る。

 あからさまな視線に溜め息をつき、眉を寄せながら、彼女は承諾の意を示した。

 途端に、ぱあっと輝く小人さんの笑顔。

 騎士団には分からない仕草の応答。


 それを機に、あれもこれもと挿し木や接ぎ木出来そうな果樹を所望する小人さん。やや呆れた顔をしつつも、バンリは良さげな新枝を見繕ってくれた。


「くれぐれも増やさないでおくれよ? こちらの得手がなくなるからね」


 これも重要な取引材料なのだろう。

 小人さんも得心顔で頷いた。


「王宮のアタシの畑にだけ植えるよ。他には出さない。約束するね」

 

 にぱーっと破顔する幼女に、バンリは困惑する。


 どうして自分は、こんな幼子の言うことを信じてしまうのだろう?


 昨日だってそうだ。極秘事項を暴露する気など、さらさら無かったのに話してしまった。

 この幼子と対峙するうちに、訳の分からない焦燥感に襲われたのだ。

 全てを見透かすような金色の瞳。ここで話さなければ、きっとこの子は自力で答えに辿り着いてしまう。

 そうなる過程で多くの人々が関わり、帝国の非道が世に知らしめられるだろう。

 それだけは阻止したかった。

 この廓は、理不尽に断罪される女達の最後の逃げ場だ。ここを失う訳には絶対にいかない。

 幸いな事に、農場が軌道に乗り、フロンティアやヤーマンの街とも良好な関係を築いている。

 廓の内部も自給自足で賄え、酒や調味料も自国から取り寄せる必要は無くなった。

 ある意味、帝国の治外法権となった万魔殿を何としても守らなくてはならない。


 あの国は歪んでいるから。


 こうしてフロンティアに長く住んで、初めて分かった事実である。


 そして、万魔殿に自ら関わってきた王女殿下。これを取り込もうと画策していたバンリは、逆に己が取り込まれた自覚がある。

 何故か逆らえない。何故か奇妙な安堵がある。目の前にいる幼子に。


 不可思議な感覚だった。


 何も心配は要らない。信用して良い。

 そんな安堵感が、この幼女からは感じられる。

 廓主なんて悪どい人間の代名詞な自分が。


 打てば響くというか、こちらが譲歩すれば、望む待遇を示してくれる。御互いが損にならないよう気を配ってくれていた。

 その細やかな思いやりのやり取りが心地好い。こんな気分は初めてだった。


 不思議な感覚に首を捻るバンリだが、現代人よりの交渉術を知る小人さんには当たり前の対応である。

 ウィンウィン。御互いに利がある交渉は受け入れられやすい。こんな事は常識だ。


 上が下に命令を下すだけが当たり前な中世において、小人さんの用いる交渉術は特異でありながらも、人々を魅了する。

 御互いを平等に見て、気を配る。ただそれだけの事が、この世界では破格の価値を持つのだ。


 現代知識のチートは要らない。ただ、あるがままの小人さんであれば良い。

 相手を尊重する気持ちは、それと自覚せぬままに、関わる人々を取り込んでいた。


 無自覚に最強な小人さん。それは、訳ありな人々の間で密やかな噂となり、世界に拡がっていく。




「じゃあ、気をつけて。サクラの事は頼んだよ、御嬢さん」


 翌日、サクラと板前をもらい、フロンティア一行はヤーマンの街から出立した。

 サクラは馬車に乗り、板前は自前の馬に乗っている。

 

 見送りに来たバンリに、とてとてと近づくと小人さんはコソっと囁いた。


「ひょっとしてサクラは植物の名前から取ってる?」

「まあ、御存じとは思ったよ。さくらんぼも知っておられたしね」


 花が落ちて小さな青い実がついていた果樹に、さくらんぼだーっと駆け寄った小人さん。

 他の果樹も全て知っていた彼女なら、サクラの名前の由来も分かっていよう。


「じゃ、バンリは漢数字の万に一里とかの里?」

「そうだよ。あんたさんと同じさな」

「そか。じゃ、またね、万里」


 紅葉の手を振り、てちてちと馬車へ駆けていく幼子。それを見つめて、万里は何とも言えない気分になる。

 自国を追い出された僻地で出逢った不思議な子供。

 漢字を知り、漢字の名を持つ、おかしな王女様。

 一時は帝国貴族の縁者かとも疑ったが、そんな様子は欠片もない。

 自由気儘に我が道をゆく、その風情は見ていて小気味が良く、振り回されているだろう周囲に同情を禁じ得なかった。

 しかし、実のところ、その周囲も振り回される事を楽しんでいるようにも見える。

 自分を含んで。


「ほんとに。不思議な御仁さな」


 満面の笑みでこぼれた呟きは、誰の耳にも拾われず、ヤーマンの街の片隅に転がり落ちて消えた。


 無邪気に無敵な小人さん。


 あちらこちらと走り回り、今日も小人さんは元気です♪

 

万魔殿は小人さんにとって天国でしたww 

王都から馬車で半日な距離です。頻繁に訪れる小人さんが脳裏に浮かびますね。


あと、レビューをいただき、本当にありがとうございます。

驚きましたが、嬉しいです。物凄く好意的に書かれていて畏れ多いのですが、拙いなりに頑張っていきますね。




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― 新着の感想 ―
旬の季節になると遊びに行くのが想像出来る。
ごはん♪ おにぎり♪ごはん♪ お茶漬け♪ごはん♪ ・・・ と、ごはんダンスならぬ、ごはん音頭を踊りまくる小人さんが 私の頭の中に住んでます♡
[一言] そうなんだよなぁ…。 つい忘れがちになるけど、未だ四歳にもなっていない幼女なんだよなぁ。 とちとちと歩く姿が書き出されて、漸くはたと思い出す。 あの年頃の子供特有の、覚束無いと言うか、宙を渡…
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