隣国の森と小人さん ~いつつめ~
またもや、レビューを頂きました、三つ目ですっ:::
何の気なしに物語を書き続け、たまに貰う感想やお星様に一喜一憂し、まったりと電子の海の片隅に生息していたはずのワニが......
小人さんに引きずられて、青天の霹靂が連続して起きています。
レビューに書籍化、多くの読者様。
思わぬ事態ですが、楽しんで行こうとヤシの木に登るワニがいます♪
「サクラーっ」
「おや、御嬢さん」
サクラは千尋達が注文した物を届けてくれた。
一晩明けて潰れたおにぎりに絶叫したあと、小人さんは万魔殿に注文書きをする。
お醤油、味噌、米、そして有るならば、味醂とお酢。
今は譲れるだけの量で構わないが、帰りにも寄るので、それなりの量を揃えて欲しいと御願いした。
最後に一筆、言い値で買うよー♪と書き添えて。
それを手にしたサクラは、しばし放心し、すぐさま厨房に確認をとる。
結果、味醂以外の調味料を幾らか譲って貰えた。さらには食材も。
大根、菜花、エンドウ豆、更にアサリや鰹の下ろし身。
「見たところ身分のある方々のようだ。魔法は使えるんだろう?」
ほくそ笑むサクラに頷き、ドルフェンが箱を取り出した。
内側がガラス張りになった箱は保冷箱である。千尋も厨房で大きなのは見た事があるが、こうして携帯用を見るのは初めてだった。
貰った食材を保冷箱にしまい、ドルフェンは呪文を唱えて箱の中を冷気で満たす。凍らないギリギリの温度で止め、そのまま箱を封じた。
「良い腕してるね。うちの荷運びを頼みたいくらいだ。凍らせるまで出来るんだろう?」
ドルフェンは軽く頷くと、封じた玉を懐に入れ、出立の準備に外へ出ていく。
「じゃあ、わたしもこれで。気を付けてね御嬢さん」
「千尋だよ」
「.....ちひろ」
再びサクラは、小さな子供を静かに見つめた。
「御嬢さん、漢字を知ってるね?」
「知ってる」
「もしかして、ちひろって、漢数字の千に尋ねると書くかい?」
「そうだよ」
にやっと弧を描く幼い瞳。
「そうかい。まあ、達者でね」
さらりと流そうとしたサクラに、小人さんの呟きが聞こえる。
「発破、おもてなし、御大尽」
千尋の小さな呟きに、サクラの眼が見開いた。
「こちらには無い言葉だよね .....そういや、桜の季節だなぁ」
ちらりとサクラを見上げ、小人さんは、にっこりと笑う。
「そのうちキルファンにおじゃまするかもね。そんときは、よろしくっ♪」
二人の間に流れる不可思議な空気に狼狽え、荷物を運んできた見習いの板前が、おろおろと見守っていると、ふいに外から声がした。
「チヒロ様。支度が出来ました」
「おけー、じゃね、サクラ」
小さな紅葉の手を振りながら、てちてちと歩く小人さんに、サクラが何かを差し出す。
それは小さな組紐だった。十センチほどの太い組紐の両端に、細い紐がついている。
これは.....
「その顔は知ってるようだね。願掛けだよ、千尋。あんたの旅の無事を祈願しよう」
そういうと、サクラは千尋の細い腕に組紐を結わえた。
「ミサンガ.... ありがとう、サクラ」
千尋の眼の奥が熱くなる。懐かしさに胸が奮えた。
ドルフェンが千尋を抱き上げて、邸を出るのに倣いサクラ達も邸から出る。
そして出立する馬車を見送り、サクラは小さく溜め息をついた。
それをチラ見しつつ、見習いが呟く。
「姐さん、本当に良かったんですか? 本国からは、調味料関係の販売は禁じられてますよね?」
「まあ、良くはないが。金になりそうだしね。フロンティアで商売するための税金だとでも言っておけば良いさ」
やや複雑な顔だが、見習いは納得する。
「それにねぇ。あの子、御飯って言ったんだよ」
食事と同意な意味の御飯ではなく、米を意味する御飯を、あの子供は口にした。
酒の原料が米という穀物の話はした。お茶漬けの器に入っているのが、焼おにぎりだとも。
しかし、御飯の話はしていない。
米を炊けば御飯になる。御飯を握れば、おにぎりになる。あの子は、それを知っていた。
ミサンガの事も知っていたようだ。
「不思議な子さな」
一陣の風のように吹き抜けた幼子。
最初は怪しい子供だと思った。しかし、彼女を知れば知るほど、不思議な気持ちになる。
当たり前のように食事を要求され、着物を要求され、気づけば自分の懐に彼女はいた。
子供を持つ親ってのは、こんな気持ちかねぇ?
いずれまた逢うだろう予感を胸に、サクラは馬車が見えなくなるまで見送っていた。
「うふふーん♪」
「楽しそうですね」
「それは何ですか?」
千尋の手に巻かれた鮮やかな組紐。赤を基調にした複雑な編みは、けっこう人目をひく。
「ミサンガって言ってね。願い事をかけるおまじないみたいなものだよ」
「呪い?? 危なくないですか?」
ドルフェンが厳つく眼をすがめた。
ああ、そういう時代か。
千尋は少し苦笑する。
「字が違う、字が。そういう怪しげで物騒な系統でなく、こう、明日は晴れますようにとか、祈りに近い、軽いモノだよ」
呪いで人をのろったり、悪事が働けると考えられている中世。良いイメージはないのだろう。
こういうのは、まだ浸透していないんだろうなぁ。何か考えてみようかな。
ふむと、ミサンガを見つめる千尋を、ドルフェンが心配そうな顔で凝視する。
あの女はチヒロ様を、ちひろと呼んだ。最初から。
昨日の一件を思い出しながら、彼は臍を噛む。
自分が練習して得た呼び方とは全く違う自然な呼び方。
チィヒーロ様の名前が、本当はチヒロなのだと知っているのはドルフェンだけ。あとクイーン・メルダ。
小人さんに特別近しい錯覚をドルフェンは持っていた。
父親のドラゴ、兄貴分のアドリス、世話役の王弟殿下、そして自分。
その親しい人々に名を連ねられる自分が誇らしかった。彼女の本名を知る事に、細やかな優越感もあった。
なのにあの女は、一瞬でその位置に立った。
密やかな秘め事のように交わされていた二人の会話。違和感のないやり取り。まるで姉妹か親子のような錯覚すら覚える彼女達の姿。
ドルフェンは燻る嫉妬に困惑する。
彼は知らない。二人の共通認識が、あっという間に彼女らを近づけたという事を。
日本という国の文化を知らないドルフェンに、それを看破することは不可能だった。
警戒心0ではしゃぐ小人さんを、また何時もの好奇心だなと、微笑ましそうに見る王宮騎士団の騎士らである。
一名を除いて。
「ああ、見えて来ましたね」
森が途切れて荒地を進むこと数時間。
遠目に砦のようなモノが見える。
「あれは?」
「フラウワーズの関所です。フロンティアは特に関を設けていませんが、あちらは関から入らないと大変な事になります」
聞けば、広大な荒野に囲まれたフラウワーズは関から続く道を通らないと、方向感覚が失われるのだと言う。
この道から外れ、荒野に迷い込んだ者の八割はフラウワーズに辿り着けず遭難するのだとか。
あ~、地球でも良くあったなぁ。外国の荒野とか砂漠とか。毎日みたいに行方不明者が出るんだよね。
ちゃんと地図があって道を進んでいても、遭難する時はしてしまうのだ。
現代知識を持っていても起きるのだから、この時代ならば、さらに多くの被害が出ているのだろう。
関所についた馬車を一瞥し、フラウワーズの兵士は驚いたかのような顔で一行を見る。
「フロンティアの王族の方ですか? 失礼ですが、後続に荷物や従者が来られるのでしょうか?」
「いや、我々だけだ」
目の前にはシンプルな黒塗りの馬車一台に、十人の騎士。
まるで御貴族様の御忍びのような軽い出で立ちに、フラウワーズの兵士は言葉もない。
え? 王族の一行がこれだけ? もっと豪奢な荷物とか従者とかいるもんじゃないの?
眼は口ほどにモノを言う。
困惑気にオロオロする兵士に苦笑いし、関所の砦を抜けたあたりで、ドルフェンが馬車から降りた。
そこに数十人のフラウワーズ兵が立っていたからだ。
武骨なフルプレートの鎧に身を固め、直立不動に並ぶ彼等は、ドルフェンに鋭い眼差しを向けた。
「フロンティアからの視察団とお見受けする。相違ないか?」
「ああ、フロンティア王女殿下、チヒロ・ラ・ジョルジェ様の馬車だ。貴殿らは?」
すると、立っていた兵士達が、ざっと剣を掲げ、一人の男性が前に出る。
他より一段上等な装備を纏った男性は、声高に挨拶をした。
「フラウワーズ辺境騎士団、ガイウス・ナフュリアでありますっ、ここより王女殿下の護衛につくよう、辺境伯から派遣されました。お見知りおきをっ」
「それはそれは.... 御厚意、いたみいる。では、森までの往路、よろしくお願いいたします」
人好きする、にこやかな笑みで、ドルフェンは鷹揚に頷いた。
そして一行は、三十人からなるフラウワーズ騎士団と共に、森の近くにある農村へと向かう。
慣れた道なのだろう。フラウワーズの騎士達は迷いもなく進み、一行は日暮れ前に農村に着いた。
「何もない村ですが夜露はしのげましょう。あれにいるが、この村の村長です」
ガイウスの案内で村に入った馬車を出迎えるように、村の入り口には多くの人々が立っていた。
着の身着のままな格好で立つ村人達。
「よくぞ御越し下さいました。村長のタバスと申します」
杖を突いた老人が進み出る。
「王宮騎士団のドルフェンだ。よろしく頼む。こちらにおわすは、フロンティア王女殿下、チィヒーロ・ラ・ジョルジェ様だ」
フロンティア騎士団の列が割れ、その先の馬車から降りてきたのは小さな幼女。
騎士ではなさそうな赤毛の男に抱き上げられて馬車から降りた子供は、大きな瞳をキョロキョロさせて辺りを見ていた。
「金髪..... 金眼? いやっ、えっ??」
千尋の姿形を認識した途端、ガイウスはあからさまに狼狽える。
然もありなんと、生温い笑みを浮かべるフロンティア一行。
フロンティア生粋の王族でも光彩は珍しい。王を象徴する光彩を持つ者が国外に出るなぞ、異例中の異例だ。
ぴょこてんと地面に降りた小人さんは、絶句するフラウワーズの人々に無邪気に微笑む。
「チィヒーロ・ラ・ジョルジェともうします。以後よしなに」
見事なカーテシーだが、その姿は厚手のワンピースと黄緑色のポンチョ。
王族どころが貴族にも見えない。
眼を白黒させるフラウワーズの人々の胸中を察して、ドルフェンとアドリスは苦笑する、
うちの御姫ぃさんは、貴人らしくないんだよなぁ。それで軽んじる馬鹿はいないが、もし居たら叩き潰す。
爛々と眼を輝かせて威嚇するフロンティア騎士団の面々。眼の前の幼子の屈託ない笑顔との温度差が激しすぎる。
盛大に眼を泳がせて狼狽えるフラウワーズの人々を余所に、小人さんは我が道を行く。
明日には森につけるかな? それまで、この村を見て回ろうっと。けっこう豊かな農村に見えるし、ここだけの珍味とかあるかも。楽しみだな。
大人達の思惑など何処吹く風。小人さんは、己の欲望に忠実だった。
風の向くまま、気の向くまま。
今日も小人さんは元気です♪
ようやく、フラウワーズ到着です。ここの森の主は、ワニが二番目に好きな動物です。次回をお楽しみに♪
既読マークに星ひとつ、楽しんで頂けたら、もひとつ下さい♪
♪ヽ(´▽`)/




