王弟殿下の小人さん ~前編~
ブクマにお星様、ありがとうございます。今度は1日で千ポイント頂きました。正直、狼狽えております。
お星様を頂いたからには書かぬばなるまいと、次話投稿します。
椰子の葉の下で尻尾を振りまくるワニがいます♪
「チィヒーロ、手伝いなんかしなくて良いんだぞ? 邸でおやつでも食べながら、ゆっくりしておいで」
「働かざる者、食うべからずなんだよ? お父ちゃん」
「お父ちゃん..... あああ、チィヒーロは偉いなぁっ、こんなに小さいのに、働こうなんてっ!」
熊のようにモジャモジャな髭で頬ずりしながら、ドラゴは千尋を抱き締めた。
小人さんの正体が厨房に知れ渡り、微笑ましい親子の姿に、料理人らが顔を見合わせて苦笑していた頃。
国の外れで、怪しい一団が馬車から降りてくる。彼らは周囲を見渡して、人気が無いのを確認してから古い民家に入って行った。
民家の応接室には数人の女性。侍女の制服を身につけた彼女らは、訝しげな眼差しで入ってきた男達を見る。
「ファティマ様は? 何故いないの?」
一人の女性が剣呑に眼をすがめた。
「.....失敗した。騎士団に感づかれて、暴動を起こせなかったんだ」
途端、顔面蒼白で女性が立ち上がる。
「そんなっ、ファティマ様は指定の部屋に閉じ込めて来たのよ?? あれからどれだけたつと思ってるの? 死んじゃうわっ!」
「.....仕方無い。運がなかった」
「ふざけないでよっ、私達がどれだけ苦労して、あの方を育ててきたかっ! 十年かけたのよっ? こんなチャンス、もう二度と回ってこないわっ!!」
激昂し、声高に叫んだ女性の名前はシリル。第二側妃に仕える侍女だった。
共にいる女性らも城に仕えていたメイド達。彼女らはシリルと共に潜入していた他国の密偵である。
魔法によって栄えた世界、アルカディア。
しかし魔法は衰退し、今では唯一、この王国にしか遺されていなかった。
理由は分からない。
気が付けば人々は魔力を失い、魔法による古代の文明は廃れていき、人々は試行錯誤して新たな文明を構築する。
そんな中、ただ一つ。この国、フロンティアだけが魔法文明を維持していた。
調べてみると、この世界でも珍しい金の光彩を放つ王族達。その直系らや貴族らが魔力を失わず、この国の根幹にある魔術具を維持し、動かしている。
それを知った周辺国は、あの手この手でフロンティアの王族を手に入れようと動き出したが...... その全ては失敗に終わった。
魔法を操り使えるフロンティアと、魔法を失い使えぬ周辺国。戦力の差は明らかである。
豊かで穏やかなフロンティアは戦を好まず、手を出さなければ何もしてこない。専守防衛の優しい国だ。
戦争を起こしても不興を買うだけ。無意味でしかない。かと言って、交易や調略も無駄である。
前述したように豊かで穏やかなフロンティア。他国が優位にたてる部分が何処にもない。
政略結婚などにも全く食指を示さず、フロンティアは完全に他国から一段上で独立していた。
それもこれも魔法文明が生きているから。
魔法があるから軍が強い。魔法があるから大地が豊かだ。魔法があるから生活が楽で人々は安寧である。
その恩恵を少しでも奪おうと、多くの密偵がフロンティアに潜り込んでいた。
潜入し、調べながらフロンティアの豊かさに感嘆する毎日。自分の故郷と雲泥の差だ。比べるも烏滸がましい。
嫉妬と羨望の炎に炙られ、それでも、じっと耐え抜いた十年。
ようやく好機が訪れた。
仕えていた第二側妃様と正妃様が御懐妊。さらには一日違いで御出産となったのだ。
このチャンスは見逃せない。
正妃様の陣痛が始まり、御殿医や主要な者達の殆どがそちらに向かった。
入れ違いに側妃様にも陣痛が起き、出産には若い医師とシリルの仲間のメイドらが付き添う。
今なら生まれた御子を盗んで逃げ出せるだろう。
人々の眼は正妃様に向いている。千載一遇のチャンス。魔力を保持した赤子を手に入れて逃げ出すのだ。
そんな企みを脳裏に描き、出産を見守っていたシリルだが、そこで予想外の事態が起きる。
側妃様の御子は双子だった。
そういえば、前回の御出産も双子だった。そういう多産系の家系なのかも知れない。
生まれたのは男女の双子。シリルは迷わず高い魔力を示す金髪の女の子を抱き上げ、口封じに医師を殺した。
結果、側妃様には王子御誕生と大きく触れ回り、第二王子の誕生に沸き返る城の中へ王女を隠した。
生まれた事すら知られていない王女。
時々、王子と入れ換えて城の中を歩いたり、国王と会わせたりして、秘密裏に育ててきた。
シリルは薬を調合して、王女の脳の成長を鈍らせ蒙昧に育成する。
いずれは我が国の王族の子を孕ませるための母体となるのだ。国に連れ去ってから洗脳しながら従順になるよう調教すれば良い。
だがそれも限界。王女も二歳になった。このままでは自身の環境に疑問を持ち始めるだろう。
その前に連れ去らねば。
こんな好機は二度と訪れない。
彼女は外部の仲間と連絡をとり、複数の暴動を起こして騎士団を陽動し、王女を城から盗み出す計画をたてた。
侍女の身である自分は派手に動けない。ひっそり動いても、顔見知りに咎められかねない。
メイドらも同様だ。後宮務めな者が城の外郭に現れたら、絶対に眼をひく。
なので彼女らは身軽な服装で御忍びをきどり、城から逃走した。
王女を洗濯場奥の部屋に閉じ込め、翌日には暴動を隠れ蓑にして、目の前の男達が王女を確保してくるはずだった。
それを信じてシリルは国外れの、この民家に身を潜めたのに。
「また、一からやり直しね。新たな密偵を育てないと.....」
あれからもう、一ヶ月近く。薬で蒙昧な幼子が自力で逃げ出せる訳はなく、人気の無い場所を選んで閉じ込めたのだ。他力も望める筈がない。
今頃ファティマ様は.....
ファティマとはシリルの名付けた名前だった。
彼の昔、神の御告げを受けたと言う予言者の名前。彼女の国を救う乙女となるように、その名前をつけた。
既に事切れているであろう王女を悼み、シリルは一晩中、黙祷した。
彼女は知らない。その王女が元気一杯に走り回っている事を。
小人さんは今日も我が道を征く。
「おさとうとか、はちみつとかは、ないの?」
ドラゴを見上げながら、千尋は首を傾げた。
千尋は普通に話している。流暢に言葉を操る。
しかしその短い舌から発せられる言葉は、周囲の耳には件のような、平仮名表記に聞こえて思わず顔が緩んでしまう。
ほっこりと小人さんを温かく見つめる料理人らとドラゴは、問われた単語を聞き返す。
「蜂蜜は滅多に手に入らないな。おさとうとは? 食材か?」
問われて千尋は愕然とする。
ないの? 砂糖がない?
ガーンと顔に書いてある小人さんに、周囲がオロオロと顔を見合わした。
「おさとうって何だ? 知ってるか?」
「わからん、どうしようっ」
「蜂蜜なら少しあっただろう、持ってこいっ」
慌てて料理人らがワタワタと動き出す、そして千尋の前に小さな壺を差し出した。
蓋を開けると見慣れた琥珀色の液体。
千尋は、ほっと胸を撫で下ろす。
「蜂蜜はとても貴重な物なんだ。王様だって滅多に口に出来ないんだよ」
ドラゴは言い聞かせるよう神妙な顔で千尋に話しかけた。
「貴重?」
「そうだ」
壺の蓋をしめ、ドラゴは千尋を抱き上げる。そして厨房から出ると洗濯場奥の階段を上がり、見晴らしの良いテラスへと千尋を連れていった。
「あそこに森が見えるだろう?」
言われて千尋は眼を凝らす。
確かに街のずっと向こうに、煙るように萌える広い緑が見えた。
あれが森?
「ああいった緑が深い森の中に蜂の巣があってな。蜂蜜を採る事が出来るんだ。しかし森の中には狂暴な獣や魔物がいる。騎士団でもないと入る事は出来ないんだ」
なるほど。だから滅多に手に入らないか。
「養蜂はやらないの?」
「ようほう?」
「蜂を育てて、蜂蜜をわけてもらうの」
ドラゴは思わず眼を丸くして千尋を見つめる。その頬をペチペチと小さな手が叩いていた。
蜂を育てて蜂蜜を得る? そんな事が出来るのか?
幼子の発想だ。森の動物は皆お友達的な考えで言っているのかもしれない。
それはそれで可愛らしいが、ここはキチンと教えておかないと。
蜂は危ない生き物なのだ。油断すると大変な事になる。
「チィヒーロ、よく聞きなさい」
「うん?」
「蜂はね、とっても怖い生き物なんだ。針を持っていて刺すし、噛みついてくる事もある。だから近付いてはいけないよ」
ビシッと言い切り、大人の威厳を決めたつもりのドラゴだったが、予想に反して千尋は不思議そうに首を傾げていた。
「だから?」
え? 刺されるんだぞ? 痛いし怖くないのか?
今度は口まで空けてポカンとするドラゴ。それを気にもせず、千尋はにんまりと口角を上げた。
あると分かれば話は早い。砂糖が無いなら蜂蜜だ。
「チィヒーロ? おーい、何考えてるのかな? お父ちゃんに教えてくれ」
ほくそ笑む幼子に不穏なモノを感じとり、ドラゴは抱き上げている千尋を軽く揺する。
それ気づいた千尋は、しばし、じっとドラゴを見つめた。
寄せられた眉に心配そうな瞳。
あ、ダメだわ、これ。話したら全力で反対されそう。
そして千尋は、そっとドラゴから視線を逸らした。
「おーいっ、チィヒーロ? 黙らないでくれっ」
ドラゴの必死な声も千尋には届いていない。
彼女の脳裏には、如何にして蜂蜜や蜂を手に入れるか、その算段で一杯だった。
「チィヒーロが何か悪巧みをしてる。気を付けて見ててくれ」
じっとりと眼を据わらせ、ドラゴはナーヤとサーシャに申しつけ、何度も邸を振り返りながら厨房へと仕事に出掛ける。
言われた二人は顔を見合わせ、眼で会話。
悪巧み? 御嬢様が?
無い無い。あんな小さいのに、何が出来ますか。
コクリと頷き合い、二人は邸の扉を閉めた。
千尋は午前中は家庭教師による勉強と習い事。午後からは自由時間で、使用人の居住区をはしりまわったり、城の厨房でお手伝いをしたりと、気儘に過ごしている。
先生らから瞠目されつつ勉強を終わらせると、千尋はナーヤを呼んで、庭に花を植えたいと御願いした。
「花でございますか? どのような物でしょう。花壇ですか? 鉢植えですか?」
「御花畑が欲しいの。だから、観賞用より野生種の方が良いな。野バラとか木苺や蔓苺とか。四季咲きで実が食べられる物が良い」
ナーヤは少し考えてから、にっこりと微笑んだ。
実を食べられる物と言うあたり、花より甘味な気がする。確かに野苺は美味しい。
「かしこまりました。幸い庭も広いですし、御嬢様のお好きなように御花畑を作りましょう」
「やったぁっ」
ぱあっと顔を輝かせ、千尋は苗を買いに行こうとナーヤを引っ張った。
「お待ちください。野生種の苗は売っておりません。採取してくるよう依頼を出します」
「採取? 依頼?」
「そうです。冒険者らに依頼して取ってきてもらうのです。木苺などは森の中にしかないので。普通の花なら栽培して売っている物もありますが、野生種となると森にいかないと」
冒険者っ?? 異世界定番キタコレっ!!
「一緒に行きたいっ、冒険者見たいっ!」
「ええええぇっ?!」
驚き狼狽えるナーヤの周りを走り回り、千尋はナーヤが『うん』と言うまで駄々を捏ねまくった。
結局、ドラゴに御伺いをたてて許可を貰えたらという話になり、千尋は口をへの字に曲げる。
貰える訳ないじゃん。
千尋は慣れた足取りで厨房へ向かい、一縷の望みをかけてドラゴに御花畑の話をした。
「ダメだ」
ですよねー。
眉を怒らせて腕を組むドラゴ、取り付く島もない。
しょんぼりと意気消沈し、とぼとぼと厨房から出ていく千尋を見送り、ドラゴは胸が痛くなる。
いや、だが、森は危ないんだ。冒険者が護衛すると言っても何が起こるか分からないんだよ。
ここは心を鬼にしないとっ!
それでも、しょんぼりとした小人さんの後ろ姿が、瞼に焼き付いて離れない厨房の面々だった。
そんな千尋は、使用人の居住区に向かう途中、花壇の前で座り込んだ。
まるでマリモのように丸まる小さな背中。それを見付けた誰かが声をかける。
「あれ? 君は誰だい?」
いきなり声をかけられ、慌てて千尋は目深にフードをかぶり、そーっと後ろを振り返った。
そこには薄い茶色の髪の男性。見た感じ上品な服装で、身分のある人間に見える。
年の頃は二十歳前後か。灰青な瞳が、じっと千尋を見つめていた。
「ジョルジェ男爵が娘、千尋と言います」
「チィヒーロ?」
「.....はい」
またか。
聞き返されるのにも慣れてきた今日この頃である。
「私はロメール・リグレット。お見知りおきを」
名乗りながらも彼は、習ったばかりのカーテシーで挨拶する千尋に軽く瞠目していた。
目の前の子供は、どう見ても幼児だ。三つ? いや、ひょっとしたら二つ? いやはや、大したものである。
そして彼女の少し暗い様子が気になった。
「ここで何をしていたの? 落ち込んでいるように見えるが?」
「何でもないです。大丈夫です」
それが幼児の受け答えかよ。
すうっと眼に弧を描き、ロメールはしつこく食い下がると、無理やり千尋から話を聞き出した。
「なるほどね。そりゃあ、料理長だって反対するだろう。本当に森は危険なんだよ?」
「知ってます。聞きました。でも....」
うにゅうにゅと顔をしかめる幼子。
思わず軽く噴き出し、ロメールはふわりと微笑んだ。こういった態度は子供らしくて可愛らしい。
「良いだろう。私が手を貸してあげる」
「へあ?」
すっとんきょうな顔で見上げる幼子に、ロメールは小さく頷く。
その眼は、何か面白そうなモノを見る好奇心に満ちた眼差し。
「明日は出掛ける準備をして待っていなさい。昼頃から森へ楽しいピクニックだ」
千尋は訳が分からず、ただ眼をパチクリさせるしかなかった。
「こんにちは、チィヒーロ。良い天気だよ」
「......こんにちは、リグレット様」
翌日、御昼を食べ終えた頃、本当に彼はやって来た。
背後にズラリと騎士を連れて。
呆気に取られるナーヤとサーシャ。そして千尋。
なんだ、いったい。何が起きた???
茫然とする幼子に、してやったりとロメールは眼を細める。
「約束しただろう? 手を貸すって。騎士団が護衛なら、料理長も文句は言えないよ。森へ行こう、チィヒーロ」
いや、文句も何も、子供の我が儘のために騎士団動かすとか、おかしいでしょ? おかしくないの? これ、普通???
チラリとナーヤらを見上げると、案の定、二人は眼を見開いたまま凍りついていた。
ほらああぁぁーっ、やっぱ普通じゃないじゃんっ!
「森に行くんだよね? チィヒーロ?」
はい、拒否権はないアレですね? 貴方、結構な御身分の方ですね?
無邪気な好奇心に満々た瞳。下位の者に命じ慣れた口調。有無を言わさぬ雰囲気。
逆らうだけ無駄だな。ま、いっか。森には行きたかったんだし。
ロメールを見上げ、千尋が大きく頷くと、彼は満足気に破顔した。
そして自分の前に千尋を乗せて馬に跨がる。
「では御令嬢をお預かりする。夕刻までには戻るゆえ、男爵に申し伝えておけ」
「は....、え? お、御嬢様?」
狼狽え、とりとめもない呟きを漏らしながら、ナーヤは慌てて扉から出てきた。
それに微笑み、千尋は小さな手を振る。
「行ってきます、ナーヤ。早めに帰るからね」
そう言う千尋を片手で抱き締め、ロメールは馬を走らせた。
それに続いて騎士団も馬を駆る。
あっという間に遠ざかる一団を見送り、ナーヤは顔から血の気を下げまくった。
拐かし....? いや、違う。
「旦那様....っ、サーシャ、旦那様にお知らせしろっ、王弟殿下が御嬢様を....」
御嬢様を? 何と知らせる?
二人の様子を見るに顔見知りのようだった。名前を呼びあっていたし、御嬢様も素直に馬に乗っていた。
あああああっ、もうーっ、あの御嬢様はーっ!!
ドラゴにどう伝えたものか。せっかく綺麗に整えてある頭を、ぐしゃぐしゃに掻きむしるナーヤだった。
「リグレット様は御身分が高いのですか?」
「ロメールで良いよ。高いと言えば高いかな。一応、王族だし。でも金の光彩を所持してなくてね。公務も殆どない部屋住みだよ。居候みたいなものかな」
金の光彩?
首を傾げる千尋の頭にロメールの手がかかる。
「良い天気だよ? 暑くない?」
ロメールの手の意図を覚り、慌てて千尋は頭を抱え込んだ。
「御父しゃまが顔を出したらダメだと仰いまちたっ!」
ヤバい、噛んだっ!
背後でフルフルと震えるロメールを感じる。
怒った? 不敬??
しばらくじっとしてると、千尋は周囲の騎士らも震えているのに気がついた。
顔を背けて口を押さえている。
なんだろう?
恐る恐る、千尋は頭を抑えたままロメールを見上げた。
するとロメールは何とも言えない顔で、によによと口を綻ばせている。
思わずコテリとロメールに頭を預ける千尋の、小動物的な仕草に、辛抱たまらず、ロメールは噴き出した。
つられて騎士らも噴き出し、穏やかな笑いが辺りに響く。
なんだ? この可愛い生き物。ずっと見てても飽きないな。御父しゃまって。大人びた子なのに、慌てると噛むのか。良い事発見した。
くっくっくっと含み笑いの止まらないロメール。騎士らも同じだった。
軽く馬を走らせながら、怯えも竦みもしていない幼児は上手にロメールに凭れ、辺りを珍しそうに見ている。
「料理長は何故に顔を出すなと?」
言われて千尋は少し考えた。
実際には髪をだが、それを言うと興味をもたれそうだ。顔、顔、顔...... お父ちゃん、親バカ借ります。
「顔を出すと拐われるって」
途端、ロメールが真顔になった。千尋には見えていないが。
確かに、とても可愛らしい子供だ。料理長の心配も理解出来なくはない。市井にあれば、即、拐かしにあうだろう。
得心顔なロメールが周囲を一瞥すると、騎士らも軽く頷いてくれる。
だよね。
既に間近に迫る森を視界に映し、ロメールは千尋を抱く腕に力を込めた。
まるで守るかのように込められた優しい力に気づかず、千尋は青々と繁る森に感嘆の眼を向ける。
異世界の森。どんな植物や動物がいるんだろう。
ワクテカの止まらない千尋は、期待に眼を輝かせ、騎士団と共に森の中へ消えていった。
これが彼女の人外人生の始まりとも知らずに。
森は、ただ静かに彼女を呑み込み、見守っていた。
読み切りにしたかったのですが、足りませんでした。前後編です。
あと、誤字報告、ありがとうございます。助かります。