隣国の森と小人さん ~みっつめ~
ワニの勘違いでお騒がせいたしました。今日も元気に参ります♪
「今しばらく走ればヤーマンと言う街につきます。そこで一泊の予定です」
そういうドルフェンの手元には、モフモフな蜜蜂達。どうやら彼を気に入ったようだ。
アドリスの手元にも蜜蜂がいる。
見てて心が和む光景だった。
そんなことを考える千尋もポチ子さんを抱き締めており、三種三様の和みが充満する馬車である。
「あ、見えて来ましたよ」
窓の外を軽く指差すドルフェン。
それにつられて外を見ると、遠目にだが大きな塔のある街が見えていた。
堅牢な石の壁に囲まれ、如何にも中世の城塞都市といった佇まい。国境近いことも関係しているのだろう。厳つい印象を受ける街だった。
地球であれば間違いなく歴史的建造物の現役な姿に、心踊らせる小人さん。
好奇心に瞳を煌めかせる彼女を見て、ドルフェンとアドリスは柔らかい笑みを浮かべている。
こうして一行は、ヤーマンの街へと入っていった。
「ふおおぉぉぉ」
千尋はあんぐりと口をあけて街を見上げる。
そこには旧き良き時代のアイリッシュ系な建物が所狭しと並んでいた。
鉄臭さを感じる街灯や看板、長く続く金属製の柵。地味に冷たい印象を受ける石材の建物や石畳の道。
それだけを見れば、産業革命時代の灰色な、暗い風景だったかもしれない。
しかし窓や玄関に飾られる花々や、陶器らしい動物の置物などが良い緩衝材となり、無機質な風景に彩りを添え、上手く纏めていた。
人が住む街とはこういうものだ。暖かみを帯びて柔らかい印象を持たせる。
良い街だ。人々の顔も明るく活気がある。
隣国が近いことも関係しているのだろう。商人らしい人が多く行き交い、沢山の店を出していた。
賑やかな街並みを抜けて、馬車が着いたのは一軒の御屋敷。
品の良い風情のある邸の門が開き、馬車は中へ入っていく。
「ここは? 宿じゃないよね?」
「ここは身分ある者専用の仮邸です。予約を入れて、宿がわりにつかいます。御忍びであろうと、身分ある者が市井に混じると、人々が驚くし気をつかいますからね」
ドルフェンは、そういうと、少し遠い目で街を見つめた。
過去に何かしらあったのだろうか?
聞けば、フロンティアに存在する全ての街に、同じような仮邸が数戸ずつあるそうだ。
料金は身分に応じて違い、民家に毛の生えたような物から、目の前の邸宅のような物まであり、予算に応じて選べるのだとか。
所有は王宮、管理は街に任されている。
「御殿宿みたいなのはないの?」
「ごてんやど?」
「んーと、身分のある人を迎える格式ある宿? みたいな」
「ああ、昔はあったようですよ。ただ、そのせいで、問題も多発しまして」
ドルフェンは邸の侍従らに指示をだしながら、苦笑いで千尋を見る。
「昔といっても、私の祖父が若い頃なのでそんなに古い話でもないのですが」
そう前置きしてドルフェンが語るには、王室御用達の看板を巡る、宿屋同士の争いがあったのだそうだ。
新興の宿であろうと、貴人に気に入ってもらえれば、推薦を受けられる。
王室御用達の看板は、とんでもないステータスだ。
それがあるだけで知名度は高くなるし、街での融通も利く。集客力も半端ない。
どこも目の色を変えて身分ある貴族らから推薦を受けようと、躍起になった。
結果、過剰なサービスが横行し、心ある貴族らから王宮に具申が入ったのだ。
まるで花街のような宿があると。
あ~~。なるほどね。確かに手っ取り早い、殿方の喜ばせ方だわ。
他にも、宿に宿泊していた貴族に知らず無礼を働き、民が罪に問われたり、一人の貴族のために宿が貸し切られ、急遽予約客が全てキャンセルされるなど、身分ある者による問題が浮き彫りにされ、こうした貴人専用の仮邸が建てられたのだという。
専用仮邸を使わぬ者は、貴族にあらず。身分に伴う不敬などの罪からは免除する。
このように周知徹底され、事は収まったのだった。
うん、英断だね。身分の意味を履き違えた馬鹿野郎様だっているだろうし、キチンとした一線を引いておけば、そんな馬鹿野郎様を如何様にも料理できる。
時代的に先の国王陛下か、その前か。
中々に先見のある身内がいたものだ。その人にとって、貴族も平民も、全く同じ民だったのだろう。
要は兄弟喧嘩で、力のある兄が横暴を働いていたから、弟を守るために諌めた感じ。
内容はドロドロとしてるんだけど、そう考えれば、何か微笑ましい。
クスクス笑いながら、小人さんは邸の探検に出掛けた。
「けっこう広いね。男爵家の三倍くらいかな?」
「あまり豪奢な物は好まれないと思い、質素な中級貴族用を選びました」
微笑むドルフェンに殺意が湧く。
これが質素? おまい、辞書を引き直してこい。
まあ、特権階級ならではの思考か。基本となる基準が違うのだから、致し方無し。
それでも、ドルフェンが千尋の好みを把握し、鑑みてくれた事が、ほんの少し嬉しい小人さんである。
夕刻も近かったため、一行は食事をどうするか考えた。
「食材は用意されてるし、俺が作る事も出来るが......」
そこでアドリスは、千尋をチラ見する。
う~~っと、口をへの字にして涙目な小人さん。
それを見た騎士らも、幼女の思惑を察知して噴き出した。
ですよねー。
その場にいる人々、満場一致である。
こんな遠くの街にきて、この好奇心旺盛な小人さんが、邸でじっとしている訳がない。
笑いを噛み殺しつつ、目配せで頷き合い、アドリスが満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、着替えるか。皆準備して半刻後にここに集合な」
皆の予想どおり、ぱあっと笑顔を煌めかせ、小人さんは階段をかけあがっていく。
それを見送り、騎士らも着替えに部屋へ向かった。
どんな時でも小人さんに激甘な王宮の面々である。
「わあぁぁっ、きれいっ」
皆で支度し、街を歩く事を数十分。
宵闇に包まれ始めた表通りは、灯された明かりでキラキラしていた。
各々の店が個性を押し出し、カンテラの仄かな光りで慎ましやかな風情を醸し出す店もあれば、篝火で明々と照らし出される店もある。
国境ぞいの街特有な異国感。
千尋が生まれ変わってから、まだ一年ではあるが、彼女の思考や基準はフロンティア王都だ。
比較的穏やかで、前世で言う完成されたヨーロッパ風の王都と違い、ヤーマンの街は色々なモノが混在する。
「あれは? 民族衣装っぽい人がいるね」
千尋の視線の先には、前世でいうサリーのような物をまとう女性がいた。ビンディはつけてないが、原色使いの美しい刺繍が、とても人目を引く。
「ああ、ドナウティルの者ですね。フラウワーズの向こうにある砂漠の国です。大きな大河が流れていて、河の恵みで豊かな国ですよ。まあ、その反面、水害の多い国でもあるのですが」
ほうほう。地球でいうエジプトかメソポタミアみたいなものかな?
河の氾濫により、多くの肥沃な砂や泥が大地にあふれ、人々に恵みをもたらす。
その代わり、頻繁に起きる水害に悩まされもするのだ。
「あっちは?」
今度は首まで詰まった襟に、深いスリットの入ったスカート。ノースリーブな肩に、薄衣のショールを羽織っている。
脚も素足で露出が高く、夜目にも鮮やかな薄い紫の衣装は、黒髪で切れ長な瞳の女性に良く似合っていた。
中国人? チャイナドレスに似てるけど、レギンスもパンツも穿いてない。あんな着方をするのは、なんちゃってチャイナなコスプレイヤーぐらいだよね?
そこまで考えて、千尋は、はたっと我に返る。
いやいやいや、ここは異世界だ。なにを地球人基準で考えてるのよっ、似たような別文化かもしれないじゃない。
そんな他愛もない事を考えていた千尋の耳に、低く穿つようなドルフェンの声が聞こえた。
忌々しげに眼をすがめ、まるで汚物を見るがごとく唾棄するような眼差し。
「あれはキルファン帝国の者ですね。男尊女卑の風潮が強い国で、女性はあのように殿方へ媚を売る姿が多いです。....慎みもなく、はしたない。あ...っ」
思わず出た言葉なのだろう。ドルフェンは慌てて口を抑えた。
しかし、周囲の騎士らやアドリスすらも似たような眼差しでチャイナドレス風の女性を睨んでいる。
どうやらフロンティアでは、受け入れがたい服装らしい。
ドルフェンの好みは慎ましやかなタイプっと。
千尋は心のメモに、そっと書き加えた。
「あれはあれでキレイだし、彼女に良く似合っていると思うけどなぁ?」
「チヒロ様っ??!!」
「チィヒーロっ?? アレは駄目だぞっ? 確かにチィヒーロには何でも似合うと思うが、アレは駄目だっっ!!」
何の気なしに呟いたら、もの凄い反応が返ってきた。
こんな手足の短いチンチクリンに似合う訳ないでしょーも。
だが、わきゃわきゃ慌てる周囲の反応が面白くて、今夜はあそこで食べようよと、ニッカリ笑う小人さん。
絶句する騎士ら。アドリスも顔面蒼白。
そこまでかい。嫌われてるのな、キルファン帝国とやらは。
だけど、ならばこそ面白い。もし、ここで出逢わなくば、きっと王宮では教えてもらえなかっただろう。
千載一遇のチャーンスっ!!
突き進む小人さんは、ドルフェン達では止められない。
自由気儘にかっ飛びながら、小人さんは今日も平常運行です♪
通常の小人さんクオリティー。隠そうとすれば、なお気になる。人の性ですよねぇ。
既読マークに星ひとつ。楽しんで頂けたら、もひとつ下さい♪
♪ヽ(´▽`)/




