隣国の森と小人さん ~ふたつめ~
またまたレビューいただきました。畏れ多いことです。ありがとうございます。
「むふーん♪」
千尋は金色に染まった親指の爪を見た。
森の主との盟約の証。御互いの魔力を交換して、其々の一部が金色になる。
触れて魔力を流すだけで良いと言われ、千尋はメルダの瞳に左手で触れて魔力を流した。
今では千尋も魔法を習っている。金色の魔力は独立した属性で、初代国王以外、使い方が分からないらしく、今のところ放出しか出来ない。
千尋が魔力を流すと、メルダの瞳から糸のように細い金色の魔力が迸り、小さな手を包むように蠢いた。
収束した魔力は親指に吸い込まれ、親指の爪が金色に輝く。メルダの左目の複眼の一つも金色になっていた。
《ふふふ。これで繋がりました。我が王に何か起きれば、すぐに分かります。》
心から嬉しそうなメルダの瞳。金色に染まった複眼を大切そうに撫でているメルダを思い出して、千尋の眼が弧を描く。
あんなに喜ぶなら、もっと早く契約してあげたら良かったな。
現代人の意識の強い千尋には、無条件で従えるという事が奴隷労働のように思え、つい強い忌避感を抱いてしまった。
あれから時々、ずるりと自分から何かが抜けていく感じがする。たぶん、これが盟約による魔力の供給なのだろう。
抜けた瞬間は、ぶるりと背筋が震えるが、一日に二回程度。疲れもしないし、問題はない。
つまりこれは奴隷労働ではなく、ギブアンドテイク。魔力という報酬を支払って、正しくメルダの後見を受けるという儀式だったのだ。
むしろ今までの、対価を払って蜂蜜をもらう形の方が、まるで日雇い扱いで、メルダにしたら手足をワキャワキャさせる訳だわと、妙な納得をしてしまう。
シフト制のアルバイトから正規雇用になれたのだ。氷河期と言われた就職難を経験した千尋には、身につまされるモノがある。
ごめんねぇ、メルダ。
今さらながら、心の中で手を合わせる小人さんだった。
「ここらで休憩にしましょうか」
馬車で移動すること半日。ひらけた森の切れ目に小さな広場があった。
馬車を止めるスペースや、馬を繋げる柵など色々有り、少し離れたところに小川と数個の竈などがある。
竈には雨避けの屋根もあり、前世でいうキャンプ場みたいな場所だ。
「ほあぁぁ。ここ、休憩所?」
「休憩所というか、夜営も出来ますし、多目的広場な感じですね。ほら、あれ。フロンティア独特なんですが、魔除けの樹木です。アレが植えてあると、半径百メートルに魔物は近寄れません」
広場の中央に大きな木がある。ワサワサと繁る葉っぱは常緑で、微かに金色の光を帯びていた。
どっかで見たことあるような?
千尋は、記憶の縄を地引き、前世のテレビに映っていた木を思い出して、はたっと眼を見張った。
アレだ。気になる木。モンキーポッドとか、レインツリーとかって大きな木。
思い出した途端、頭に例のフレーズが流れ、ついつい口ずさんでしまう。
それを耳にした騎士達が、不思議そうに首を傾げた。
「面白い歌ですね。気になる木ですか。上手い事を言いますね。これはレインツリーって言います」
「は?」
え? まんま地球のと同じ名前? じゃあ、地球のにも魔物避けの効果があったのかな。
不思議な類似点に、思わず気になる木を見上げてしまう小人さんだった。
「はい、御待たせしました。鶏と卵のリゾットです」
お昼を兼ねた休憩で、アドリスが軽食を作る。
広場には大木を縦半分に割ったようなテーブルとベンチが複数あり、その一ヶ所で千尋らは食事をすることにした。
出された熱々のリゾットだが、残念なことに使われているのは麦である。以前、シチューのために作ったホワイトソースの応用に千尋が教えた料理だった。
本来ならオートミールと呼ぶべきだが、それらは他のがあるので、敢えてリゾットと説明してある。
まあ、気分だけでもね♪
はふはふとリゾットを啜る千尋達に、誰かが声をかけてきた。
「その料理を、こちらにも提供しなさい」
千尋が振り返ると、そこには身形の良い男性。
怪訝そうな眼を向ける騎士らに臆しもせず、専用の皿らしき物を持ち、静かに立っていた。
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
礼儀正しく問いかけるドルフェンに、男は人の悪い笑みを浮かべ、にやりと嗤う。
「メイン伯爵家の者です。良い匂いがすると、御令息が興味をもたれました。光栄に思いなさい」
メイン伯爵..... どっかで聞いたような?
ほに? と千尋が疑問符を浮かべるより早く、ドルフェンの顔が歪み、みるみる険を帯びていく。
「また、貴様らか。何度チヒロ様に無礼を働けば気が済むのだ?」
「なっ....っ 一介の騎士風情がーーー」
「馬鹿者、やめろっっ!!」
相手の仲間らしい男が、慌てて間に入った。
「キグリス侯爵家御令息であらせられますね? 大変、失礼をいたしましたっ」
「げ.... 侯爵??」
このパターンも覚えがあるな。
もしゃもしゃと食べながら、千尋は事の成り行きを見守る。
そして、そこに真打ち登場。
「いつまで待たせるのだ。私はくうふくなのだぞ?」
豪奢な身形の、ちょいとポッチャリな男の子。憮然とした顔で大人達を見上げていた。
あー思い出したわ。城の厨房に突撃してきた、伯爵坊っちゃんか。たしか、ラルフレートとかいう。
頭の中でポンっと手を打ち、千尋は納得顔で食事を食べ終える。
それを見て男の子は地団駄を踏み鳴らし、千尋を指差した。
「ほらみろ、食べてしまったではないかっ、私の分もあるのだろうなっ」
え? アタシのを横取りするつもりだったの?
思わず眼を丸くする千尋の横で、アドリスも呆れ気味に呟いた。
「有るわけないだろう? これは俺らの食事だ」
信じられないモノを見る眼差しで見据えられ、伯爵令息と、その従者らはたじろぐ。
それに溜め息をつき、ドルフェンがマジマジと従者らを見つめて顎をしゃくった。
「伯爵、伯爵と言うならば、この方が何者か分かるのではないか?」
言われて初めて、従者らは千尋の存在に気づいたようだ。
まあ、大きな騎士らに囲まれて同じテーブルで食事してたし、埋没して気づかれなかったのかもしれないが。
しばし、千尋を見つめていた従者らは、はっと眼を見開いた。そしてガタガタと震え出す。
「金髪? え? まさか???」
「まさかも何もあるかっ!! 一目瞭然だろうがっ!!」
「なんだ? なんの話をしている?」
プチカオス。
「まだガタガタ抜かすなら、陛下に御報告せねばならぬぞ?」
ドルフェンがそう言うと、ラルフレートを抱えた従者達は、失礼いたしましたーっと、再び脱兎のごとく逃げ出した。
あ、デジャヴ。
思わず苦笑し、御飯を食べ終えた千尋達は、長居は無用と広場から脱出する。
遠ざかる気になる木を見つめ続けている千尋に、ドルフェンの声が聞こえた。
「あの魔除けの木は初代国王陛下が植えられた物だと言われております。夜になると、ほんのりと金色に光り、薄暗くはあれど夜目にもハッキリと見えるのです」
とても安心感のある光で憩いの場所なのだとドルフェンが説明してくれる。
なるほど。真っ暗な中に仄かに浮かぶ明るい場所は、たしかに嬉しいし、安心出来るかもしれない。
変なケチはついたが、いつかほんのりと光る気になる木を見てみたいと思う小人さんだった。
感想で、アクセス解析の事を知りました。こちらが本当の読者様のアクセス数なのですね?
チラ見な方を入れても、すっごい沢山の人が見てくれているのだと知りました。
嬉しいです。ありがとうございます。めっちゃモチベ上がりましたっ♪
お手軽なワニが通りますwww