隣国の森と小人さん ~ひとつめ~
色々ありますが、小人さんは隣国へと向かいます。
あと《拐う》←さらうの変換に出てきたので、字面からつかっちゃえと、つかってしまいましたが、こんな読み方はないと御指摘をいただきました。
モノ知らずなワニで申し訳ない。何処に使ったか、総浚いして探す事も出来ないので、スルーしていただけると助かります。
うちのスマホ、なろうにログインすると語彙力のほほんになるんです。
何故だ?
( ̄▽ ̄;)
「返事が来たよ、チィヒーロ」
あれから半月ほど。
ようやく来た隣国フラウワーズの返事によると、荒野の範囲なら自由にしてもらって構わないとのことらしい。
当然、あちらの兵士による監視つき。
フロンティアの王族が時々森に訪れるのは、隣国の記録にもあったらしく、儀礼的な歓迎の意を示してくれたとか。
「なら大丈夫?」
「......国交的にはね。あちらが内心、何を考えてるかまでは、分からない」
難しい顔をする、ロメール。
東方のフラウワーズは技術の国と呼ばれる国だ。山岳地帯が多く、平野が少ない。
その分、鉱石などを大量に産出する国でもある。
土地柄、緑が乏しく荒涼とした大地が多いため農業は上手くゆかず、大半の食糧を他国からの輸入に頼っていた。
その輸入先の筆頭がフロンティアである。
つまり、国民の生命線をフロンティアに握られているも同然。だから、滅多な事はしてこないだろうと国王陛下は言っていた。
それでも心配の種は尽きないのか、あれやこれやと細かく注意され、辟易しながらも、千尋は知らない場所への旅路にワクテカである。
技術の国かぁ。何処かの街に寄れたら良いなぁ。フロンティア以外の国は初めてだもの。
そんな千尋の希望を叶えるため、日程は荒野の森から周辺の街の視察を入れて小さく組まれ、往復の行程を省いて五日ほどの滞在となった。
フロンティアから流れる微かな魔力で森が維持されているせいか、荒野周辺には小さいながらも農村がある。
技術提携を結ぶ友好国でもあるため、こちらからも、その農村へ農業の技術支援を行うのだとか。
あちらからは道具の優先的支援があるらしい。
フロンティアには鉱山が少ない。馬車や水車、あらゆる道具の部品などをフラウワーズから輸入している。
御互いの足りない所を補う良い関係らしい。
「だからと言って油断はしないでください。子供一人拐かされたところで、あちらは関知しないでしょう」
国賓として迎えるならともかく、勝手に視察に訪れ、勝手に拐かされたとなれば、あちらの責任の範囲外だ。
それを利用して善からぬ事を企むやもしれない。ドルフェンは、そう言った。
「かと言って、国賓扱いになると多くの街の視察や儀礼的な催しに参加しなくてはならなくなるしね。滞在がとんでもなく長くなる。それは避けたいね」
ロメールの言葉に、千尋も得心する。
用事を済ませたら、ちょこっと観光して、とっとと帰りたい。
《要は王の周りに我が子らがおれば良いのです》
クイーン・メルダの言葉に、一同苦笑い。
結局、千尋の周りの問題は子供蜜蜂の護衛で片がつく。あとは穏やかに旅路を終わらせれば完璧だ。
だが、どんなに恙無く支度をしても、斜め上をかっ飛んで行く者はいる。
「何故、チィヒーロだけなのですかっ? 私が次代の王なのでしょう? 私が行くべきではないのですかっ」
声高に抗議の声を挙げるのはウィルフェ。
千尋が隣国の視察に行くと聞き、ならば自分も行きたいと国王陛下に直訴した。
「遊びではないのだ。チィヒーロは金色の王としての仕事で行くのだよ。次代であるのだから、そなたは金色の王の話を知っておるな?」
ウィルフェは今習っているフロンティアの歴史を思い出していた。
フロンティアを建国した金色の王。森の主の主君となり、大いなる御業を用いて、この豊かな国を作ったという。
そして初代国王となり、王族の血筋には、彼と同じ金髪金眼を持つ者が生まれるようになった。
金髪金眼の者は金色の魔力を保持し、森の主と意思の疎通が可能で、主を従える事が出来る。これを金色の王と呼ぶ。
極々稀にしか生まれないが、今代はチィヒーロなのだという話はウィルフェも聞いていた。
考え込むウィルフェの横で、側仕えが苦笑する。
「殿下は、まだ御巡礼のあたりを習っておりませぬ。説明はしたのですが、納得出来ない御様子で」
言い淀む側仕えに、国王の横に控えていたロメールが、辛辣な眼を向けた。
「納得も何もなかろう。金色の王がフロンティアにおいて絶対者であると理解すれば良い。国王陛下ですら命令は出来ない。そんな事をしたら、国が滅びるとな」
国が滅びる??!!
ウィルフェは、ぎょっと眼を見開いた。
それに鷹揚な頷きを見せ、国王は真摯な眼差しで息子を見つめる。
「その通りだ。金色の王と王宮の王は全くの別物。金色の王は国ではなく世界を統べる王なのだよ。悪しき者にはなれない。賢く聡く穏やかに世界を見守れる者。それが金色の王だ。全ての森の主が主君と尊ぶ者。その盟約を結ぶために金色の王は森を訪ね歩く」
「王子の考えてるいるような、旅行気分のお遊びではないのです。分かりますか?」
千尋が旅行気分でワクテカなのを知るロメールだが、ここは敢えて遊びでない事を強調する。
実際に遊びではないのだが、あんな小さな子供がやらねばならないのだ。楽しんでやれるなら、それに越したことはない。
千尋の遣る気に、わざわざ水を差したくないロメールである。
「理解出来たなら下がりなさい。フロンティアの王となるべく、しっかりと励むようにな?」
柔らかい微笑みでウィルフェを見送り、扉が閉まった瞬間、国王は憮然と呟いた。
「一緒に行けるものなら、私が行きたいわい」
「良く我慢なさいましたね。誉めて差し上げます」
そういうと、ロメールは国王の頭を撫でた。
一瞬、惚けた国王だが、その手の動きが心地好い。
「大人になっても嬉しいものだな」
「はい。私も最近、知りました」
何時も疲れているロメールに、千尋は労いを込めて撫でてくれる。
がんばってるね、すごいねっ
つかれてる? だいじょうぶ?
いつも、ありがとうっ
事あるごとに労われ、撫でられ、すっかりロメールは小人さんにハマっていた。
その御裾分けである。
人は貰ったモノしか人に返せない生き物だ。ロメールは貰った優しさを、周囲に振り撒いていた。
こうしてロメールから優しさを得たことで、国王も誰かに優しくしたくなるのだろう。
小人さんの優しさが、じわじわと侵食していく王宮だった。
「さってと、行こうかっ♪」
数日後、千尋は馬車に乗って隣国フラウワーズへと旅立つ。
馬車の中には千尋とドルフェン。そしてアドリスがおり、その隙間にはポチ子さんの他に、五匹の蜜蜂達。
アドリスは食事担当。場合によっては夜営の可能性を考え、それらの装備も用意してあった。
国王やロメールは、もっと多くの荷物や従者をつけたかったようだが、現代人感覚の千尋にしたら、大所帯はかえって不便を作ると突っぱねたのだ。
大人しく馬車に乗っている蜜蜂達を感心したように見つめ、アドリスが呟く。
「慣れると可愛いモノですよね」
「だよね。あー、癒される」
モフモフなポチ子さんを抱き締めて、御満悦な小人さん。
その姿に顔を綻ばせるドルフェン達の膝に、わしわしと蜜蜂がよじ登ってきた。
首を傾げて見上げる可愛らしい蜜蜂達。
《撫でる? 撫ででくれる?》
眼は口ほどにモノを言う。
幻聴が聞こえるな。なにこれ? この可愛い生き物。誘ってんの? 誘われてんの?
じっとり眼を座らせて顔を見合わせるドルフェンとアドリス。
小さく頷き合うと、二人は登ってきた蜜蜂達を撫で始めた。
その顔は、デルデレを隠そうとして、見事に失敗している。
むふーん、可愛いは万国共通よねっ
馬車の外には十名の護衛騎士。
馬で並走する彼等が窓から見ているとも知らず、馬車の中で和みの空間を作る蜜蜂達だった。
並走する騎士らは苦笑しつつも、休憩には自分達も蜜蜂を撫で回そうと心に決める。
可愛いは正義だ。異論は認めないっ!!
満場一致の声を知らず、小人さんの旅路が始まった。
小人さんは可愛いに囲まれて、今日も元気です。
可愛いは正義ですね。
ワニのヤシの木に登ろうとするヤシガニを叩き落とす今日この頃。
可愛くても、このヤシの木の実はワニのものです。おまいにはやらんっ♪
既読マークに星ひとつ、楽しんでいただけたら、もひとつ下さい♪
♪ヽ(´▽`)/




