小人さんと巡礼 ~後編~
書き出したら止まらない~♪
言い訳のしようもございませんっ、後編です。御笑覧あれww
「そういえば、これも不思議ではあったんだよなぁ」
千尋は、この家に初めて来た日に貰った絵本を開く。
相変わらずユラユラと揺れる複数のルビ。
最初、これを千尋は言語に不自由しないよう贈られた転生特典かと思っていた。
しかし、きちんと教師について学ぶうち、このルビがおかしい事に気づいたのだ。
たとえば、『王がお越しになられた』と、『王様が来たんだよ』と言う言い回しの違いがあるとする。
どちらを文字として紙に書いても、ルビは『王が来た』と言う簡潔な表現しか浮かべないのだ。
意味としては間違っていないが、全く言い回しの違う言葉に同じルビが浮かぶのでは話にならない。
結局、千尋は言語を最初から学ばねばならなかった。おかしなルビである。
意味が理解出来てはいるので習得も早かったが、この摩訶不思議なルビの存在に意味があったのだと知ったのは、王宮で養女の縁組みをした時。
長々と綴られた書面数枚の一ヵ所に、信じられない記述を見つけた。
『王女の住まいを王宮とし、その全権を国王に譲る』
迂遠で遠まわしな長文に紛れた一文。
千尋が指摘すると、それを確認したロメールが、烈火の如く国王に噛みついた。
国王も、そんな条項が紛れていたとは知らず、調べてみると犯人はダッケンの馬鹿野郎様。
私は陛下のためを思って~~っ と、相変わらずの明後日思考を叫びながら、奴は王宮から退場していく。
それを見送り、千尋はこの摩訶不思議なルビが、あらゆる文章に潜む謎や企みを看破出来るモノなのだと理解した。
どんなに巧妙で迂遠な言い回しであろうと、このルビは欺けない。その文の意味を、すぱっと簡潔に千尋へ知らせてくれる。
このルビって、いったい?
転生特典だと思っていた翻訳ルビの知られざる効用に、新たな疑問の浮かぶ千尋だった。
「ならん」
「ダメだ」
「.....個人的には反対です」
王宮の国王の私室。三人の父親が雁首を並べて首を横に振る。
三人とも、じっとりと据えた眼差しで千尋を見つめていた。
側近らや護衛も人払いして行われた秘密の会談。
口火を切ったのは国王陛下。
「ようやく手元に戻ってきた大切な娘を、危険な隣国の辺境などへやれるものかっ」
娘なら八人もおろうも。一人くらい出掛けたって良いじゃないの。今まで居なかったんだし。
「聞けば、その森は荒野のど真ん中にあると言うじゃないか。長旅になるし、盗賊や獣だって出るかもしれない。そんな恐ろしい所にやるわけにはいかん」
うっ、お父ちゃんに言われると弱いな。うにゃ。
「それらの問題がクリア出来たとしても、承諾は出来かねますね。君は自分が可愛らしい幼子という自覚はある? 金品目的の輩だって、君を見たら確実に拐うよ? 君目的の人拐いが出てもおかしくないよ?」
黙っててくれないかな、ロメール。あんたの話は信憑性有りすぎて不穏だから。
乾いた笑みを張り付かせる千尋の視界に、国王とドラゴが映る。
二人ともロメールの説明に瞠目し、大きく頷いた。
「その通りだっ、チィヒーロは可愛いいぃっ、きっと拐われるっ!!」
「絶対に拐われるっ、父ちゃんは反対だぞっ!!」
ほら、収拾がつかなくなった。
ギャンギャン捲し立てる国王とドラゴの耳に、鋭い羽音が聞こえる。
ふと周囲を見渡すと天井近くのいたるところに蜜蜂らがいた。
それぞれ、じっと国王達を見つめ、ウァンウァンと羽音をたてている。まるで威嚇するかのように。
その視線の集中砲火に固唾を呑み、言葉を失う国王達の視界に、突然、大きな物が天窓から飛び込んできた。
どすんっとテーブルに降り立ったのは言わずと知れたメルダ様。
人の眼球ほどもある複眼全てを国王達に向け、辛辣に首を傾げる。
いきなりの大音響を聞きつけ、何事かと騎士や侍従が飛び込んで来た。
そして仁王立ちするメルダに、ああ、何時ものか。と、乾いた笑みを浮かべる。
茫然とする彼等を余所に、メルダは国王達を見下ろして、にんまりとほくそ笑んだ。
《此度の話は、わたくしが持ち込んだモノ。その、わたくしを省いて話し合いを行おうとは、良い度胸です》
だが、当然メルダの言葉は彼等に伝わらない。それに気付いたメルダは、またか、といった雰囲気で壁に向かう。
それを見た侍従の一人がメルダの意図を察し、思わず絶叫した。
「また、壁があぁぁぁあーっ」
それを耳にして、はたっと千尋は我に返る。
「メルダ、待ったぁーっ、アタシがいるからっ」
ああ、とばかりにメルダは千尋の横に来た。
こうして当事者が勢揃いして、話し合いは再開され、結果はメルダの圧勝。
《我が子達が同伴するのですよ? 我が王の身に何の危険が及ぶというのですか。それは、わたくしに対する挑戦ですか?》
この一言に王宮の面々は黙らざるをえなかった。
そして泣く泣く国王は、隣国に王女の来訪を打診する。手紙をしたためる彼の指が戦慄いて見えるのは、気のせいだろうか。
《では、わたくしも出立の準備を子供らにさせますゆえ。御安心召されよ、我が王よ》
巡礼が決まり、ほくほく顔なメルダは、子供らを誉めて森へと飛んでいった。
どうやら子供らがメルダに知らせたらしい。
「.....ズルいなぁ、君は」
疲れたような顔でロメールが呟いた。
「私達だって、君の力になりたいし、君と共にありたいのに。一緒に考えて悩む暇もなく、君は目の前の壁を打ち壊してしまうんだもの。悩んでるこちらが、バカに見えてくるよ」
少し寂しそうなロメール。彼は反対したものの、何とか出来ないか考えてくれていたようだ。
「出来れば人の力で何とかしたいんだよね。君がいる間はクイーンが手を貸してくれるだろうけど、それが当たり前になったら不味いんだ。常に考える事を止めちゃいけないんだよ。.....わかる?」
軽く弧を描くロメールの瞳に、千尋は小さく頷いた。
クイーンの力は規格外で驚異的なモノだ。数いる魔物の中にあっても災害級と言われる破格な力。
それを従えて空を翔る小人さんの存在を、他国に知られたくはない。
だから、蜜蜂らが表沙汰にならぬよう策を巡らせていたロメールだが、その話を持ち出す前に御本人登場である。
前世のテレビでいえば、誰かの歌を歌おうとして、前奏中に本人が目の前に現れたようなモノ。余程の強者でなくば、歌える訳がない。
ロメールの座るソファーに腰掛け、千尋はしょぼんと項垂れた。
「ごめんね、ロメール」
窺うように自分を見上げる千尋に、ロメールは盛大に苦虫を噛み潰す。
君、分かっててやってるよね? 自分の愛らしさ知ってて、そういう上目遣いもズルいと思うなぁっ!
しかし、それが穿ちすぎなこともロメールは知っていた。
チィヒーロは自分の見てくれに、全く無関心である。貴族の御令嬢が、厚手のワンピース一枚で走り回るのを見ていれば、誰にだって分かる事。
あああ、もうっ、結局、君の思い通りになるのさ、私達も、城下町も、王宮も、クイーンもっ!!
くしゃりと顔を歪めて、ロメールは心配そうな幼子の頭を撫でた。
「そんな顔をするんじゃないよ、またクイーンが押し掛けてくるでしょっ!」
頭を撫でられて、ほにゃりと笑う小人さん。
その無邪気な笑みにノックアウトされないのは、よっぽどのひねくれ者だろう。
ひねくれ者な自覚のあるロメールですら、この笑みのためなら、何でもしてやりたくなる。いや、既に散々していた。
はあ.... 勝てないな。
もっとと言わんばかりにすり寄ってきた小人さんを膝に抱え、ロメールは腕の中の暖かさに顔を綻ばせる。
その笑顔は、いつもの飄々とした柔らかい笑顔でも、人を小馬鹿にする辛辣な腹黒い笑顔でもなく、本当に心からの穏やかな笑顔だった。
小人さんの頭を撫でながら、ロメールが至福の時間を堪能していると、それに気付いた国王とドラゴが眼を剥いた。
「なにをしておるっ、そなたっ、そんな羨ま....っ、いや、私もっ、チィヒーロっ、御父様のところにおいでっ」
「何言ってるんですかっ、チィヒーロ、父ちゃんが良いよな?」
いきなり賑やかになった部屋の中で、側近らは苦笑い。一人、しくしくとメルダの足跡が付いたテーブルになつく侍従がいるけど、それも御愛嬌。
新たな発見、新たな問題、毎日、色々起きるけど。
今日も皆に愛されて、小人さんは幸せです。
はい、巡礼、決まりました。もうね、皆様から頂いたヤシの木に登って、降りてこないワニです。
お星様が千も増えてるし、こんなに沢山の人に読んでもらえてると思うと、モチベが上がって書きたくてたまらなくなります。
特に締め切りも言われてないし、加筆修正はまったりで良いよね?
既読マークにお星様ひとつ、楽しんで頂けたら、もひとつ下さい。
ワニを調子に乗らせる簡単な温ゲーですww




