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小人さんと巡礼 ~前編~

.....加筆修正、終わってません。

でも、書きたい症候群がっ:::

 日に五千字は書かないと禁断症状が出ます、稿正ではダメなのです。

 物語が書きたくて、のたうち回るワニがいます:::


「こういうのもありますよ」


 千尋はレース編みのように針を動かし、綺麗な模様をハンカチの上に編んでいく。

 

 感嘆の溜め息が辺りに漂い、集まっていた御夫人方が真剣な眼差しで千尋の指の動きを追っていた。


 王宮のサンルームで催された刺繍の会。


 前々からキャスリンに講習を頼まれていた千尋は、一斉に終わらせたいと王妃に持ち掛け、招待状なしの自由参加で会は開かれた。


 結果、立体的な刺繍を学ぼうと、キャスリンから噂を聞き付けた御夫人が大挙して押し寄せてきたのである。


 千尋の知るステッチで技術的に難しいモノはあまりない。サテンステッチの刺繍と違い、原色系が多用されるため、はっきりくっきりとした濃淡による立体感が魅力だ。

 小物なら子供の手習いにもなるし、大物なら複雑な大作にもなる。

 刺繍の枠を越え、何でも取り入れ表現に使う立体的な刺繍は、多くの女性を魅了した。


「これを靴に刺したいですわ、きっと素敵になると思いますの」

「帽子でも宜しいわね、リボンに刺して、日替わりに変えてみるのも楽しそうですわ」

「刺繍の上に刺繍とか..... 考えた事もありませんでしたわ」

「見てくださいませ。本当に花がそのまま置かれているよう。これをドレスの胸元に刺したら、きっと映えます」


 様々な刺繍に夢中で見入る御夫人方は、それぞれ興味のある刺繍を練習し始めた。

 大物は大物として最初から刺すサテンステッチと違い、立体的な刺繍のステッチは、小さい物がより集まって大きなモノにする事も出来る。

 その汎用性や用途の広さから、地球でも重宝されたステッチだ。

 基本的なステッチを教えれば、あとは勝手に技術を育てるだろう。


 いずれ、この世界独特な刺繍技術が生まれるかもしれない。種を植えて水をやったら、あとは放置な小人さんである。


 そういや、前にも似たような事をやったような?


 千尋は少し眼を閉じて考える。


 あ、あれだ、うどんだ。


 以前、千尋がザックに教えたうどんは、紆余曲折して厨房に伝わり、さらには城下町にも広まった。

 通常の麺類より太く柔らかいうどんに好奇心を擽られたのか、多くの料理が考案されたのだ。

 麺として使うのは基本で、一センチ幅に刻んで豆の代わりにしたり、編み込んでパイやピザの台にしたりと、多種多様な使い道が生まれていた。

 パスタみたく、焼いたり煮たりは当たり前。

 千尋もうどん編みのピザを食べたが、あれはあれで美味しかった。表面はパリッとしてるが、中は柔らかくもちもちで、うどんの淡白さの受け入れ範囲は無限なのだなぁと妙な感心をしたものである。


 南には海があるらしいし、そのうち海産物を手に入れてお出汁を取りたいね。うどん本来の形で食べたいな。


 ときおり細かい所を尋ねてくる御夫人に教えながら、和やかに時間は過ぎていき、刺繍の会は恙無く終了した。





「場所を提供していただき、ありがとう存じます、王妃様」


 深々と頭を下げるキャスリンに、王妃様は柔らかく微笑んだ。


「宜しくてよ。わたくしも楽しかったし、新しい刺繍も素敵だったわ。あれはきっと流行りますよ、キャスリン。お手柄だったわね」

「勿体無い御言葉です。全てはチィヒーロ様がおられたからこそ」

「そうね」


 じっと見つめる二対の瞳。いきなり話を振られ、千尋は居心地悪く身動いだ。


「チィヒーロは、あの刺繍を何処で習ったのかしら?」

「わたくしも知りたいですわ。是非に」


 二人から感じる圧に、千尋は冷や汗を流す。

 が、それに反応したのは別なモノだった。


 千尋の右肩ごしに覗く大きな眼。それが剣呑に光り、鋭い羽音が部屋に響く。


 ぶぶぶぶぶっと響き渡る羽音に怯え、目の前の二人が挙動不審になった。

 キャスリンは血の気を下げて顔面蒼白、王妃様に至っては眼玉が絶賛クロール中。

 

「あらっ? あらあら、わたくしとした事がっ、ごめんなさいね、チィヒーロ。問い詰める訳ではないのよ?ただ、少ぅし気になっただけなのよ?」

「ええ、ええ、お気になさらないで?」


 あたふたと狼狽える二人に苦笑し、千尋は王宮をあとにした。





「有り難うね、ポチ子さん」


 肩にいる蜜蜂は、嬉しそうに千尋の顔へすり寄る。もふもふな毛が首に当たり擽ったい。

 千尋は自分に寄り添う子供蜜蜂に、ポチと名付けた。前世で飼っていたハムスターの名前だ。

 しかし、あとになってメルダから、子供蜜蜂の殆どがメスなのだと聞き、ポチ子さんに改名したのである。

 安直な名付けに安直な付けたし。どうやら小人さんのネーミングセンスは、ちょいと難があるようだ。


 だが、そんな内訳を知らない蜜蜂は、今日も小人さんと一緒にいる。幸せそうに複眼を煌めかせながら。





「救援要請?」


 メルダは大きく頷いた。


 場所は男爵邸。突然飛来してきたメルダに、ナーヤは絶叫をあげたが、サーシャは慣れたもので気軽に挨拶し、邸の中へメルダを案内する。

 同じ女同士。しかも小人さん命な二人は、何か通ずるものがあるのかもしれない。


 いきなり現れた珍客に、少し驚きつつも話を聞き、千尋は首を傾げた。


《はい。東の森より救援要請が届き、是非ともお助け頂きたいと御願いに参りました》


 顔いっぱいに疑問符を浮かべる小人さんに、メルダは懇切丁寧な説明をする。


 ようは魔力がない隣国の森は、唯一魔物が棲まう森。毎日のようにやってくる冒険者によって魔物らが狩り尽くされ、瀕死の危機に陥っているらしい。

 冒険者にしてみれば、遥か遠方の辺境に行かずとも魔物素材が手に入る絶好の狩場。

 荒野の真ん中に位置し、フロンティア国境近くにあるその森は、フロンティアから流れてくる魔力で、辛うじて生き残ったにすぎない森だ。

 森の主が失われたら森は枯れる。ゆえに主は表だって動けず、かと言って森に棲む魔物が乱獲されるのを、ただ見ているだけも偲びない。

 結果、メルダの子供らを援軍にもらえまいかと救援要請がきたと言う。


「それは可能なの?」


 千尋の問いにメルダは頷く。


《可能です。ただ、わたくしは自分の森の影響下にある場所でしか動けません。わたくしが長く森から離れれば森は枯れます。だから、チヒロ様の御力を御借りしたいのです》


 メルダの説明によれば、メルダの森の影響下にあるのは王都とその周辺。件の森がある国境までは、メルダが飛んでも半日以上かかるらしい。

 主を失った森は一日で枯れ始める。とてもメルダが向かう訳にはいかない。

 しかし、子供蜜蜂らは常時生まれ入れ替わり、数十年しか寿命のない生き物で、数百年前にしか交流のなかった隣国の森の位置が分からない。

 なので千尋に子供蜜蜂らを引率して欲しいらしい。


《この国の者なら他の森の位置も存じておりましょう。是非とも御助力を》


 この国の者なら?


 メルダの言葉の言外に含みを感じ、とりあえずロメールに相談しようと、千尋はメルダを伴って王宮へと向かった。




 「..................」


 小人さんを抱き抱えて現れたメルダに、ロメールは口元をひきつらせる。


 メルダは何時も通り天窓から飛び込み、ロメールの目の前に降り立った。

 彼の側近や侍従らは眼を丸くしたものの、既に何度も起きた事である。いくらか免疫もついており、ぎこちなくはあるが、仕事を続けていた。

 

 .......プロだな。


 流石はロメールの部下達である。


「ようこそ、クイーン・メルダ。今回の御用は何でしょうか?」


 ひきつる顔を上手に隠し、ロメールは小人さんの通訳でメルダの話を聞いた。


 そして難しい顔で眉をひそめる。


「それは..... 別な者に代行させるのではダメなのですか? 王族を隣国にやるのは少々問題があります。国境周辺が荒野とはいえ、あちらも良い顔はしないでしょう」


 魔力が失われてから、周辺国の土地は痩せてしまった。痩せたと言っても地球と同じで、手をかけてやれば農業も出来る。

 魔力が満ちていた頃は、手をかけずとも豊かな実りがあったのだとか。

 その頃は人々には病もなく丈夫で元気に暮らしていたが、今は病が流行りやすく、不安定な暮らしが国を荒ませているらしい。

 だから、出来れば千尋を行かせたくはないとロメールは言う。


 その話に何か引っ掛かった千尋は、しばし考えてから、前世の記憶の片隅にあった知識を掘り出した。


「産砂か」


 千尋はポンと手を叩く。


「うぶすな?」


「そう。地産地消って言うの。その土地に生まれた生き物は、その土地で採れたモノを食べると健康で健やかに育つって話。生まれた大地の恵みが特別な加護をくれるんだって」


《ほう。それは魔力の事かもしれませんね。我々が魔力を極上の糧とするように、人間にも何かしらの作用があるのかもしれない》


 千尋は小さく頷いた。


 ロメールも得心顔をする。


「なるほど。そういう理由があるなら、各国の衰退ぶりにも納得がいく。森を失ったせいで、本来あるはずの魔力欠乏が身体を弱らせているのだな」


 二人の会話を聞いていたメルダが、少し顔を俯け、ポツポツと呟いた。


《だからこそ..... 王に向かって欲しいのです。私と盟約を結び、あちらの主と王が盟約を結んでくだされば旧き絆が甦ります》


 メルダの真摯な瞳に圧され、千尋は話を促した。


 つまりは、森同士が繋がる事で魔力の供給が出来る。それが主との盟約だ。

 千尋が二つの森の主と盟約を結べば、魔力もなく痩せた隣国の森に十分な魔力を送ることが出来る。

 金色の魔力で繋がり、森が甦るのだ。

 それには、千尋本人が向かわなくてはならない。


「なるほどね。前に聞いた巡礼って奴なん?」

《そうです。特に隣国の森には早急に訪れる必要があるでしょう。先代の盟約が失われて久しい。魔力が乏しい大地では、今にも枯れてしまうかもしれない》


 聞けば、盟約の環が完成すれば、その範囲内なら主らは移動出来るのだと言う。

 

 千尋の通訳を交えつつ、その会話を聞いていたロメールは、ざーっと血の気を下げた。


 待て。待て待て待て待て。


「少し待って下さいっ、クイーン・メルダっ、その話の内容どおりなら..... その、新たな土地に主を移動させる事も可能なのでは?」

《可能ですよ。主が子供に土地を譲り、別の土地へ移動して新たな森の主になるのも珍しくはない事。盟約の環が完成しているのが条件になりますが》


 金色の王が世界中の森を巡る、巡礼の言い伝えは王家に遺されているが、その詳しい意味までは知らなかった。

 ただ魔力で土地を潤す、公務の一環的に思っていたが。


 今の話のとおりならば、森を失った周辺国に新たな森を復活させる事が可能だ。

 地の果ての辺境を大きくぐるりと一周し、盟約の環が完成すれば、その内側の国々は魔力で満たされる。

 そうして新たな森を作れば、失われた魔力や魔法が復活する。


 これを知られたら...... チィヒーロが危ない。奪われるか、使い潰されるか、既に余裕のない周辺国が、どんな手に出てくるか分からない。


 よくよく考えれば良い話だ。時間をかけて、じっくりやれるなら。すべての国々に魔力が復活し、平和な暮らしが甦る。


 しかし人間とは利己的な生き物だ。他よりも自分達の益を追求し、愚行に走る者もいる。

 秘匿し、独占し、他よりも優位である事を望む者も少くはない。むしろ大半がそうだと思う。


 これが知られたら、心無い人間に小人さんが狙われるようになるのは間違いない。


 兄上らと相談せねば。


 新たに知らされた小人さんの利用価値。


 割れるように痛む頭を抱え、低く呻くロメールを、クイーン・メルダと小人さんが不思議そうに見つめていた。

 

はい、なし崩しに続編始まりましたww

笑ってやってください。ほんと書かない日は無かったので、真面目に手が震えました。今まで、毎日、一万~二万字ほど書いていたので、執筆に飢えるなんてなかったんですよ。

あー、スッキリした。一日一話くらいの息抜きは許されますよねww


既読マークにお星様ひとつ。お気に召したら、もひとつください♪

     ♪ヽ(´▽`)/

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― 新着の感想 ―
ぜひ 是非にも 毎日書いて欲しい ♪(*^^)o∀*∀o(^^*)♪
今日、webのコミカライズを見つけて読んでみたら、あまりの可愛いらしさに読み切ってしまい、続きが我慢できずこちらの原作も一章を一気に読んでしまいました。 登場人物もほぼ悪い人がおらず安心して読めました…
お遍路さん編(巡礼の旅)ですね(^^)
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