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秘密の小人さん ~後編~

ようよう秘密が明らかにされます。


「料理長を辞めるぅっ??」


「そうだ」


「なんでまた??」


 ドラゴの言葉に厨房内は騒然となる。


 彼は爵位を賜るほど卓越した料理人だ、宮廷料理人の旗頭と言っても良い。

 城下町にもドラゴに憧れる料理人は多く、一種のカリスマ的存在だった。

 料理に携わる人間で、彼の名を知らない者はいない。そんなドラゴが王宮から去る?

 

 有り得ないと、料理人らは顔を見合わせて思った。


 そんな複雑な面持ちの面々を一瞥し、ドラゴは長い溜め息をはいて正面を見据える。


「王家が約束を反故にした。結果、チィヒーロがまた寝込んでしまったんだ。これ以上、あれに負担はかけたくない。俺は王宮を去り、どこかのんびりした所で静かに娘と暮らしたい。すまないな」


 苦笑するドラゴの説明で、料理人らも、ああ、とばかりに得心する。

 以前、小人さんが精神的負担から寝込み、食事もろくに摂れなくなった事を、彼らは良く覚えていた。


 あれがまた起きたのか。口約束とはいえ、約束は約束だ。王家はいったい何をやっているんだ?


 口に出さなくとも思いは同じ。


 憤慨極まりない顔な料理人らの中で、さらに凄まじい怒気を漂わせる者がいる。


 見習いから料理人に上がったアドリスだった。


 やっと元気になったのに.....


 子供は不安定だ。ちょっとした事でも身体を損ない死んでしまう。あんな小さな身体で、何度も死にそうな目に合うなんて、おかしいだろ??

 分かってる原因くらい取り除いてやっても良いじゃないか。チィヒーロに会わなくったって王家は困らないよな? なんで、そっとしておいてやれないんだよっ!!


 たまたまのアクシデントもあるだろう。でも、チィヒーロは城の厨房以外の場所には入らない。

 そこさえ避けてくれれば、まず問題はないはずなのに。


 アドリスは知らない。窓から外を見ていたテオドールが、小人さんを見つけ、そのまま窓から飛び出してしまった事を。

 側仕えらが気づいた時には、もう窓辺にいなかったのだ。

 彼らが傍にいたならば、間違いは起こらなかっただろう。しかし、慌てた彼らが窓から乗り出すと、すでにテオドールは遠目に見える騎士団の鍛練場に向かって走っていた。誰かを追うように。

 

 ほんの五分にも満たないこの隙間に、二人は出逢ってしまったのだ。

 間が悪かったとしか言い様がない。



「テオドール。本当なのだな?」


 部屋に並ぶのは、国王夫妻と王弟。そしてテオドールと第二側妃だ。

 他は全て人払いしてある。


「ほんとうです。僕はよくファティマと遊んでいました」

「ふむ。では、誰も知らない王族の子が本当に王宮にいたのだな」

「でなくば、チィヒーロが城で拾われる訳はないのです。シリルとか言う侍女がチィヒーロをファティマと呼んでいたという。調べてみたら、彼女は半年前に里帰りして音信不通だ。他にも数名のメイドらが消息不明になっている」


 ロメールは、ばさっと書類を広げた。


 そこにはシリルを始めとした行方不明の人々が記されている。

 

「他にも医師や侍従、騎士など、複数の行方不明者がいました。時期はバラバラですが、半年前前後に集中している。」


 そしてジロリと側妃を睨めつけた。


「全て、貴女に関係してる人間らなんですよ、ハビルーシュ妃」


 ロメールの正面には淡い金髪の女性。儚げな風情の細い女性は、困惑気に首を傾げる。


「恐ろしいこと」


 おっとりと眉をひそめる彼女に、ロメールは激しい憤りを感じた。


 なんで、こんなんが妃なのかなぁーっ、兄上も、もう少し...... いや、仕方無いか。光彩を所持しているだけで妃は確定だ。


 おっとりというか、うっかりというか、ハビルーシュ妃はとても希薄な人物で、周囲にも自分にも無関心。言われるまま流されるまま、空気のような人間だ。

 蒙昧というか、物事を深く考える事もなく、ただそこにいるだけ。

 何かに興味もなく、執着もなく..... いや、一つだけ執着しているが。


 我が子であるテオドールにだけは。母親なのだから、当たり前だが。


 そういう訳で、とにもかくにも、彼女に何かを期待してはいけないのである。


 ある意味、王宮の奈落だ。彼女の所が関わると、調査は困難を極める。

 言われるままにサインをするものだから、後になって判明してはしっちゃかめっちゃかになった事が幾度あったことだろう。


 今回だってそうだ。紹介状があるからと雇い入れ、里帰りしたいからと許可をだす。


 調べろよ、頼むからっ!!


 不甲斐ない妃のフォローに王弟の手の者も入れていたのに、気づいたら消えていた。この行方不明者らの名簿に彼は名を連ねている。

 だから、今回の事も露見が遅れたのだ。


「シリルは、貴女の輿入れとともに王宮に上がった侍女だ。メイドらも同じ。不審な点はなかったはずなのに、問題の渦中にいる。どういう事でしょうか?」


 他の侍従らや騎士らも一緒。彼女の輿入れで王宮に上がった者らだ。ここだけしか共通点がない。

 というか、これだけ特異な共通点があるということだ。


「わかりません。シリルやメイドは御父様がつけた側仕えらですから。彼女がどうかしましたか? そう言えば最近見ないわね」


 これだっ!! あーっ、もーっ!!


 眺めているだけなら、絶世の美女なんだが.....っ


 言葉は通じるが話が通じない。


 全てが曖昧で夢の国に住んでいるような御仁が、妃の位を持っている。何とかに刃物と同じだった。


「おかあさま、僕ね、ファティマを見つけたんだよ」

「あらあら、元気だった?」

「うーん、少し元気なかった」

「まあ、心配ね」

「うん、また会えるかなぁ?」

「どうかしら?」


 きゃっきゃ、うふふと次元の狭間にお花畑を作る親子。


 テオドールの話に関連している者ら全てが消えているのに、この有り様だ。


 じっとりと眼を据わらせた周囲に、側近の一人が声をかける。


「いましたっ、一人だけっ」


「いたかっ!!」


 ロメールが立ち上がり、部屋の中が騒然となった。

 

 テオドールの話に出てくる関係者。それが見つかったのだ。


 逸る心を抑えて迎え入れたその人物は、テオドールの乳母、シャオン。

 彼女は青ざめた顔で、部屋の中に入ってくる。


「そなたに聞きたい事があるのだ。ファティマという赤子の事なのだが......」


 そこまで言うと、シャオンは床にひれ伏し、頭を擦り付け叫んだ。


「申し訳ありませんでしたっっ!! 子供が人質になっていて..... 多額のお金と引き換えに、ファティマ様の事を黙っておりましたっ!!」


 聞くまでもなく、いきなりの核心である。


 嗚咽をあげて言葉にならないシャオンを宥め、ロメール達は根気よく話を聞いた。


 要は、テオドールともう一人の赤子の乳母をやっていたという話である。

 ハビルーシユ妃の子の乳母として雇われていた彼女は、誕生時から後宮にいた。

 王子と共に渡されたもう一人の赤子。シリル達に監視されながら育てたその赤子が誰なのか、薄々は感じていたが、黙っていた。


 シャオンは後宮に部屋を賜っており、そこには生後半年の息子がいたからだ。


 シリルらはシャオンの息子を人質にし、さらには大金を押し付け、彼女を共犯者に仕立てあげた。

 毎日。騎士や侍従らにも監視され、身動きが取れずにいたらしい。


「どうにもならなくて..... ようやく王子様方が離乳なさった頃、彼女達が消えたのです」


 離乳食も進み、歩いてもおかしくないのに、ファティマ様は掴まり立ちがやっとで歩けない。

 歩けないどころが、いつもぼーっとして、はいはいしてても危うい事この上ない。

 

 変だ。医師に見てもらうべきでは?


 そうシャオンが思っていると、シリルがファティマ様を連れて消えた。

 嫌な予感を感じて探し回ったシャオンは、シリルらが王宮からいなくなった事を知り、自分も宿下がりを申し出て、王宮から逃げ出したのだという。


 この時、シャオンは九死に一生を得ていた。


 もし、シリルを探しに出ていなかったら、踵を返したシリルに見つかり、口封じに殺されていただろう。

 本人は気づいていないが、ほんの少しの時間差がシャオンの命を救ったのだ。


 千尋を閉じ込めて、時間のなかったシリルらは、シャオンから事が露見するのを恐れ、慌てて王宮を去った。


 仲間の騎士らや侍従らも、翌日暴動を起こすため、城下町に潜伏していた。


 ほんの少しのすれ違いが起こした幸運が、今この場にシャオンを立たせている。


「凄く怖かったのです。シリル達は得体が知れませんでした。仲間に騎士や侍従らもいて..... 女の細腕では太刀打ちできなかったのです」


 部屋の中が静寂に満たされる。


 今の話を総合すると......チィヒーロは。


「私の子か? テオドールの兄妹?」


「たぶん.... 今でこそ男女の差異が幾らか見えますが、生まれたばかりのお二方は、瓜二つでございました」


「なんてこった」


 愕然として微動だに出来ない国王。額を抑えて瞠目するロメール。涙目で頷くシャオン。


「兄妹? ファティマは僕の妹なのですか?」


 無邪気に眼を輝かせるテオドール。その瞳に浮かぶ好奇心に満ちた光は、小人さんにそっくりだった。


 王宮の面々が衝撃の事実に驚き狼狽えている頃。





 長閑な男爵邸では、小さな歓喜が沸き起こっていた。千尋が床から起き上がり、歩けるようになったのだ、


「大丈夫か? 無理はするなよ?」


 熊親父が愛娘を抱いて、泣きそうな顔をしている。


「ダイジョブ。御飯食べよ?」


 ドラゴの髭にすり寄りながら、小人さんは無邪気に微笑んだ。


 これも慣れよね。......こんなん慣れたくはないけど。


 自家中毒の波を上手に凌いで、小人さんは復活する。踏まれる度に逞しく立ち上がる麦のように。

 

 負けてたまるもんか、こんちくしょう。アタシは幸せになるんだ。


 頼りになる父親に抱きつきつつ、小人さんは、にかっと快活に笑う。


 その笑みは、奇しくもテオドールの笑みと同調していた。


 泣いたり、笑ったり、シンクロしたり。


 不思議な事もあるけれど、今日も小人さんは元気です。 

さて、国王らはどうするんですかね。千尋は事実をどう受け止めるか。王宮編は残り五話くらいです。


既読マークに星一つ、面白かったら、も一つください♪

これが、いつものワニのフレーズです。半年以上、他の作品で使ってきたフレーズなんでダイジョブかなと、使ってみます。

小人さんの、御飯下さい、働きますっと似てますね。親子ですね、うんww

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― 新着の感想 ―
はじめまして。コミックスからこちらにやってきて、読む手が止まらない状態になっています。 侍女やメイド、護衛等が多数居なくなったのに何も気づかない、思わない、騒がない、そんな第二側妃もグルなのか?とず…
漫画版が広告に出て、原作が見たいなと思い辿り着きました。 ここまでずっと面白いです! そしてテオ君ファインプレイですね。 誤字報告が閉じられていたので、もう誤字報告は余計なお世話なのかと思いながらも…
ここまで夢中で読んでいて評価を忘れていました とってもとっても面白いお話しをありがとうございます
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