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森の恵みと小人さん ~後編~

食いしん坊な小人さんは、無自覚に最強です。♪


「んんまぃねぇぇっっ♪」


 落ちそうな頬っぺたを抑えて、感涙に咽ぶのは小人さん。

 彼女の前にはドラゴのこさえたモンブラン擬き。

 パウンドケーキの台にバタークリームを絞り、マロングラッセを入れて、さらに栗のペーストを絞ったモノ。

 簡易的な作りだが、デザートらしい甘味の無かったフロンティアでは画期的なスイーツだった。


「これは美味いな。カスタードクリームとはまた違う風味だ。栗とやらが入ったペーストがまた....っ」


 唸るように呟くドラゴ。


 食事事情は悪くない王宮だが、いかんせん無いものは無い。蜂蜜に不自由するような世界だ。スイーツなど夢のまた夢。


 ならば自作するしかないっ!!


 運良くメルダから蜂蜜を融通されるようになった千尋が全力で駆け回るのも仕方がない事である。


 千尋はスイーツを充実させるために奔走していた。今回のは極めつけだ。

 顔に感無量と書かれた幼子を微笑ましく見つめ、厨房の人々も御相伴に与る。


 そして絶句した。


 何とも表現しようもない甘味だ。この栗とやらも、食べられるとは思わなかった。

 秋になれば、そこかしこに落ちているが、トゲトゲで危なくて邪魔な物だとしか思わず、焼くと爆発する危険な木の実と言われていた。

 もちろん手を伸ばす者など誰もいない。


 その中に、こんな甘い実が隠されているとは。


 恍惚とスプーンを動かす幼子を見つめる厨房の面々。その瞳には微かな猜疑心が宿っている。


 どうして知っているのか。誰も知らなかった材料、作り方、そして食べ方。

 小人さんは、何処で知ったのだろう?


 ありとあらゆる疑問が脳内を渦巻く。


 しかし...... まあ、どうでもいっか。


 厨房の面々は顔を見合わせて破顔した。


 美味しいなら何だって良いじゃない?


 だって、小人さんだもの。


 そんな暗黙の了解が厨房には芽生えていた。

 彼等は料理人だ。技術や質の向上に鎬を削っている。その戦場に現れた可愛い幼子。

 甘い御菓子を携え、てちてちと歩きながら、美味なる物を振る舞う小人さんに何の文句があろうものか。

 彼女の発想は新たな風を厨房に吹き込んでくれた。歓迎こそすれ、文句などつける輩はいない。


 にっと笑う彼等は、極上の甘味を逸早く味わえる特権に感謝した。


 だって小人さんだもの。


 もちろん、この合言葉が通じない御歴々もいる。




「これは何ですの?」

「モンブラン擬きだそうです」


 アナスタシアは出された御菓子に眼を丸くした。

 こんもり盛られた薄灰色っぽいクリーム。フォークでチョンチョンと突っつき、少しだけ掬って口に運ぶ。


 そして絶句。厨房の面々と同じリアクションだ。


 小鳥のように淑やかな動きだが、皿のモンブランはみるみる減っていく。

 食べ終えた彼女は恍惚とした眼差しで、フォークを置いた。


 なんという事でしょう。.....これだから、厨房から眼が離せないのよ。


 アナスタシアのメイドらが常に厨房を訪れ、なにを作っているのか監視しているのだ。

 今回も逸早くモンブランを手に入れたのは、そういう訳である。

 試作品だからと渋るドラゴから奪ってきたらしい。


 アナスタシアは空になった皿を見つめ、しょんぼりと俯いた。


 もっと食べたいわ。


 でも、もう無い。食べたら無くなった。当たり前である。


 厨房には干渉厳禁と国王より厳しく申し付けられているアナスタシアは、たまに手に入る新作の甘味か、王族用に作られた焼き菓子で我慢するしかなかった。

 人の欲望とは際限のないものである。

 以前ならば感激に身を震わせる一匙の蜂蜜も、今では単なる材料の一つにすぎない。

 焼き菓子に感激していた次は生菓子。さらに次はケーキ。

 どんどん新たな物が現れ、アナスタシアを魅了する。


 あーん、どうすれば良いの? もっと食べたいわっ!!


 あまりの美味しさに脚をばたつかせるアナスタシアを、生温い眼差しで侍女達が見守っていた。





「さってと、ここからが本番だよ、お父ちゃんっ!!」


「本番?」


 にっかり笑って小人さんが出したのは数種類のキノコ。舞茸、シメジ、マッシュルーム。

 どっさり出されたキノコに、ドラゴは眼を見張った。

 こちらでもキノコは食べるが、滅多に食べられるモノではない。何しろ森の中にしか生えていないのだから。

 食べようと思ったら、冒険者に依頼を出して、採取してきてもらうしかないのだ。

 冒険者ギルドのマージンを足すと、簡単に金貨を上回る出費になる。材料一つにそんな贅沢は、国王すらもやりはしない。

 だから森には沢山のキノコがのびのびと生えていた。それを小人さんが拉致ってきたのである。

 

「これを何処で??」

「森」

「........」


 聞くまでもない事だった。


「まあ良い。美味そうだな。焼くかソテーするか。腕が鳴るな」

「シチューが、いーっ」

「シチュー?」

「シチュー」


 無言で見つめ合う男爵親子。


 あ、察し。


 こうして小人さんは、いつものパターンを繰り返すのである。





「バターで小麦粉を炒めるの」

「こうか?」

「そうそう」


 フライパンをゆすりながら、ホワイトソースを作るドラゴ。

 千尋は高い踏み台にのり、それを覗き込んでいた。


「こっちの鶏肉は炒め終わりましたよ」

「こっちのキノコもです」

「じゃあ、スープの鍋に入れて。ひたひたになるまで煮込んでね」


 塩胡椒した鶏肉とキノコが寸胴鍋に入れられ、中のブイヨンと共にグツグツと煮込まれる。


「これだけでも美味そうですね。良い匂いだ」

「むふーん、これからだよ」


 フロンティアは豊かな国だ。香辛料の栽培も充実している。食材にはほぼ困らない。


 特定の場所にあるモノ以外は。


 森はホントに放置されてるのねー。まあ、おかげでたっぷり手に入るんだけどさ。


 千尋も獣や魔物に会った事はある。巨大蜜蜂に怯えて近寄って来ないので、遠目にしか見た事はないが。

 こうして拉致され、コトコトと鍋で煮込まれる涙目なキノコ達だった。




「おーっ、これもまた美味そうだ」


 出来上がったのはキノコのクリームシチュー。


 皿に分けて皆で実食する。


 もったりとした独特なスープ。キノコも良く煮込まれ、熱々だった。

 千尋はふうふうと息をかけ、はふはふしながらキノコを咀嚼する。


 んんんんまぁーいぃっっ!


 長らく味わえなかった現代の味覚に悶絶する小人さん。脚をばたつかせて御満悦だ。

 

 しかし、それは小人さんだけではなかった。


 周囲の面々もテーブルに突っ伏しながら、じたじたと脚をばたつかせている。ドルフェンまで。


 あー、わかるわかる。美味しいモノ食べると踊り出したくなるよねぇ。


 ほんわかと暖かい気持ちが千尋の胸に染み渡る。

 

 こうして皆で食卓を囲み、美味しい物を食べると、前世の懐かしい気持ちが甦ってきた。

 

 うっかり交通事故で死ぬなんて、親不孝しちゃったな。皆、元気かな?


 思わず遠い眼をして、千尋は窓の外を見た。


 秋も深まり、たまに木枯らしみたいに冷たい風が、彼女の胸の隙間にも吹き抜ける。

 

 アタシは元気だよ。


 誰に向かって呟いたのか、本人にも分からない。


 ちょっぴり切なくなったりもするけれど、小人さんは今日も元気です。


秋深し。ちょっぴりセンチになる季節ですね。

それを余所に書籍化で受かれたワニが、波にのってサーフィンをしております♪


お気に召されたら、お星様ください。

    ♪ヽ(´▽`)/

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― 新着の感想 ―
キノコは蜜蜂達が毒の有る無しを選別してくれそうだから良いけど、クリはなぁ…… ちゃんと水に入れて選別しないと、 中身かき出した時に住人と対面する可能性が在るからなぁ……(^_^;)
只今読み返し中なのですが何回読んでも楽しいです。 今日は昨日よりちょっと寒いので(また近所の桜が咲くまで遅れる)夕飯はクリームシチューにします。 私は市販のルーですが。 by小樽市在住
お家でお留守番している執事さんとメイドさんにも食べさせてあげて〜美味しいものにありつけないのは悲しすぎる 笑
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