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冒険者のサンドイッチ編

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ルドルフとデルイ

本日二回目の投稿です

「この子が昨日言ってた異世界人のソラノちゃん?可愛い子じゃん」


 緑髪のルドルフは今日はミルドではなく同じ年ほどの二十代の青年と一緒だった。


「よろしくね、俺はデルイ。ルドと一緒で保安課の警備員。通報があったから来てみたら異世界人に会えるなんてラッキー」


 デルイは大分軽い感じの人柄だった。見た目も襟足まで伸ばした髪がピンクで耳にはピアスをいくつもつけていて、空港保安員とは思えない。制服なのだろう、ルドルフと同じ詰襟の白いジャケットに茶色いブーツを履いているのだが、なんだか着崩されていてだらしなかった。


「それでここで何してるの?こう言っちゃ悪いけど、その格好に魔素のないその体、ここだとかなり浮いてるよ」


「市場調査です」


「市場調査?」


「カウマン料理店のお手伝いをすることに決めたので、空港に来る人がどんな人たちなのか観察中です」


「あたしはやめろっていったんだけどねえ」


 マキロンはもう店に帰りたいといわんばかりの態度だ。


「へーっ、まあ、異世界から来た人たちは変わった事ばっかするからな。で、何かわかったの?」


「そうですね。でもちょうどいいので、空港マニアのルドルフさんにちょっと聞きたいことがあります」


「空港マニア!」


 ゲラゲラ笑うデルイにかまわず、ソラノはルドルフを見つめる。


「空港を使う人って、貴族みたいなお金持ちか高位ランクの冒険者って聞いたんですけど、

そうなんですか?」


「そうですね、飛行船は運賃も高いし、一番近くの国へ行くにも片道三日はかかるから時間もかかる。一般の人は気軽に乗れないんですよ」


「そうなんですか?ここから王都へ降りる船は千ギールで安めだなと思いましたけど」


「それはトクベツ。降りるだけだから片道一時間もかからないでしょ?旅の途中に王都へ気軽によってもらえるようにあえて安めにしてあんの」


 デルイがウインクをしながら教えてくれる。相当なイケメンなので免疫がなければクラっと来てしまいそうな笑顔だが、残念ながら店を再建するという使命に燃えるソラノには何の効果もなかった。こういう性格なので、今まで彼氏ができなかったのかもしれない。


「なるほどね。皆ここで食事を済ませてから飛行船に乗るんですか?」


「そういう人が多いですよ。飛行船で出る食事は一昔前に比べれば味が向上していますが、値段が結構高くて。お金持ちの人々は気にせず食事を楽しみますが、冒険者の中には節約したい方もいますからね。ここでたくさん食べて、船の中は携帯した保存食で済ませるという方だっています」


「ふむふむ」


 ソラノが観察している中で、明らかに装備が他の冒険者に比べて劣っている人が数名混じっていた。別にボロボロなわけではないが、盾がくすんでいたり装備品の一部が欠けていたりするのだ。装備にお金がかけられない人間が、食事で贅沢をするとは思えない。きっと思い切って大枚はたいて飛行船に乗り、新天地で一旗揚げるつもりなのだろう。


「空港って二十四時間やってるんですか?」


「やってるよ。俺たちもシフト制だから結構しんどいよ」

 デルイは親切なのかそれともおしゃべりなのか、積極的に教えてくれる。夜勤はともかく朝番がつらくてさぁ、なんて言ってため息をついていた。


「お店も二十四時間?」


「一部ですけどね。レストランや酒場は朝からやっていますよ」


「寝坊して食いっぱぐれたら、飛行船の中で朝食をとるしかない?」


「そうなりますね」


「なるほど」


 ソラノは腕組みをして大きくうなずいた。


「ちなみにカウマン料理店の営業時間は何時から何時ですか」


「十一時から二十一時だよ。十四時から十六時はあたしらの昼休憩と午後の仕込みで休みさね」


 マキロンがよどみなく答える。ちなみに休みは週に一度らしい。まさに昭和の料理店の営業形態だ。


「飛行船の中って、食べ物の持ち込みOKですか?」


「特にダメって規則はありませんね。まあ、劇物とかは勿論ダメですけど」


「テイクアウトしてるお店はあるんですか?」


「テイク・・・?何ですか?」


「料理の持ち帰りってことです」


 ルドルフとデルイが顔を見合わせる。


「そういう発想はないんじゃないかな。時間がたった料理を船に持ち込んで食あたりにでもなったら困るだろ?まあ、船には回復師(ヒーラー)がいるから状態異常ごときすぐ治してくれるだろうけど」


 デルイが眉を下げて困ったような顔を作った。


「まあ、確かに。ところでお二人みたいな職員さんはご飯どうしてるんですか?」


「職員向けの食堂が裏にあるよ」


 それだけ聞ければ十分だ。ソラノは満足して立ち上がった。


「お二人とも、ありがとうございます。マキロンさんお店に戻りましょ」


「あ、待ってください。もしカウマン料理店で働くなら、商業部門に申請をしていただければエア・グランドゥール(ここの)空港までの運賃が無料になりますよ」


「本当に!それは嬉しい」


「後で迎えを出しますから、書類を書いてくださいね」


「じゃ、ソラノちゃん、また会おうね」


 語尾にハートマークを付け、デルイはルドルフと連れ立って戻っていく。


「個性的な人でしたね」


「ま、でも空港の警備員やってるんだ。腕は王国の騎士並みに立つはずさ」


 やれやれやっと帰れると嬉しそうな様子でマキロンはソラノの隣を歩いていた。


「そんなに強いんですか?そうは見えない」


「空港は身分の高い人や要人ばっかが訪れる。そういう政治的に複雑な人たちや、高位の冒険者同士のもめ事が起こった際にすぐ鎮圧できるよう精鋭ばかりが揃っているさね」


 成程そういわれてみればそうだろう。ソラノのいた世界の空港でも警備は万全だったはずだ。強そうに見えなくとも、二人とも強いはずだ。ソラノからしてみれば二人ともただの気のいいお兄さんくらいな感覚だが。





「おかえり、で、何かわかったかい」


 カウマン料理店に戻ったソラノとマキロンをカウマンは暇そうに雑誌を読みながら出迎えてくれた。


「まあまあですね。でももうちょっと空港の事を知りたいから、明日は朝からここに来ます」


「熱心だな」


「おじさんももっと熱心になってくださいよ!もう、自分の店の事でしょっ!」


「いやぁ、俺は料理を作るしか能がねえから・・・」


 ソラノはため息をつき、椅子に座った。元の世界でもこういう人種はいた。如何にも流行らなさそうな店構えに、看板だけ出してぼーっと立っているだけのおじさん。これじゃダメなことはわかっていながらも、何をすれば客が入るのかわからず、ただただ時間を過ごして結局店がつぶれていく。

 料理ができるだけじゃダメなのだ。いくら人が良くておいしいご飯が作れても、人を呼び込む力がなければ店は衰退していくのは必然だ。

 ソラノは別にマーケティングプランナーでもなければ企業の再生請負人でもない。ついこの間まで一介の女子高生だった、ただの小娘だ。だが、女子高生を侮ってはいけない。彼女たちは流行に敏感で、常にアンテナを張り巡らせている。話題の店があれば行って写真を撮りSNSにアップし、評価し、友達に情報をシェアする。流行は彼女たちを中心に形成されているといってもいいほどだ。

 ソラノは本気だった。この店を本気で立て直すのだ。

 そしてこの日から、場違いな服を着た異世界人が一日中、中央エリアにいるという苦情が空港の事務所に寄せられるようになったのだが、それはソラノがあずかり知らぬことだった。



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