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神様の使い

浪人生への使い

作者: rakia

今年で4回目のセンター試験だ。

周りの制服姿の学生達がとても若く、初々しく見える。

対照的に自分は私服で、髭も伸びてて、ちょっと運動不足を感じさせる体型で、いかにも長いこと浪人生やってますって感じだ。

気のせいだと思うが、席が前後の人からもなんだか距離を取られている気がする。

周りの友達はもう大学3回生で、SNSを見ている限りでは就活がどうのって忙しいらしい。

自分がどんどん周りから取り残されていっているのを感じて辛くなる。

だから、頼むからもし受験の神様がいるなら、今年で受験を終わらせてほしい。

心からそう思うばかりだ。

今のところ、手応えの悪い科目はない。

後は昼休憩後の数学Ⅱ・Bと理科の二科目、物理と化学で終わりだ。

油断はしていないが、苦手な文系科目で手応えが悪くないから少しメンタル的に余裕がある。

このまま、午後の試験も乗り切りたい。

そう思っていた矢先のことだった。

午後の一発目の試験で事件は起こった。

僕の鞄に入っているスマホが大音量で鳴り響いた。

普段は常にマナーモードのはずなのに、電源は切ったはずなのに、無慈悲にもスマホは静かな教室で大音量で鳴り響く。

ここからは地獄だった。

試験官は僕のことを睨みつけながら鞄を教室の外に持っていった。

スマホの音はどんどん小さくなるのを感じたが、僕の心臓の鼓動は一向に小さくならなかった。

もちろん試験に集中なんてできるはずがなかった。

その科目が終わってからも地獄は続いた。

周りからの冷ややかな視線に晒されているのはひしひしと伝わってきた。

また、スマホ鳴ったせいで集中出来なくて最後まで解けなかったんだよね〜といった話が嫌でも耳に入ってくる。

ただでさえ時間配分がシビアな数学Ⅱ・Bだ。

周りからの恨みはすごいものだっただろう。

自分のせいで迷惑をかけて申し訳ないという気持ちより、周りからの圧力で今にも押し潰されそうだった。

そこからはもうボロボロだった。

得意な物理・化学なのに思うように手が動かず、自己採点はしなくても自分の結果がひどいものであることは明白だった。

翌日、自己採点の結果を見せると親と喧嘩になった。

父親には「今年もダメなのか!一年間、いや、三年間も何やってたんだ!!」と怒鳴られ、母親はただただ泣くばかりだった。

僕はつい「父さんが家から通える国公立の医学部以外許さない!とか言わなかったら今頃どこかしらには行けてたのに!!」と言い返してしまった。

そこからはあまり記憶にない。

多分今までどれだけ自分の教育にお金をかけてきて、どれだけ環境を整えてやったかという話だったと思う。

そのありがたみは、今この時では実感できないということくらいはわからないものだろうか。

ちゃんと初詣も行ったのに、試験当日はお守りも持っていったのに。

僕はこの日、神様を信じることをやめた。

……

さて、僕の出番かな!

どうも、神様の使いです。

簡潔にまとめると、彼は三年間の浪人生活を経て人生に疲弊しているところでほぼ四年目の生活が確定しつつあるわけだ。

絶望度合いとしてはまぁ中の下くらいかな。

では、彼の思い上がりをただしておこう。

まず、今年がダメでもまだ来年、浪人生活四年目があると思っていることが間違っているんだよ。

人生はセーブポイントを設定して、いつでもそこに戻れるわけじゃない。

浪人という行為はそのセーブポイントでやり直すために貴重な若い時間を一年消費してそこに立ち止まる行為なんだ。

その本質を彼はきっと周りの友達のSNSから感じていたに違いないのに、愚かなものだね。

四回も同じポイントを通過したから感覚が麻痺してきているのかもしれないね。

それに、超大事な試験当日にスマホの電源を切り落とすような人間が医者になるのはちょっと怖いよね!

うっかり針とか体内に残したままにしそうだし。

さて、ここから彼がどんな選択を取るのか、これは見ものだ。

しっかり観察して、神様に報告することとしよう。

……

僕は神様を信じることをやめ、今後どうするかを考えた。

親に頼み込んで医学部以外の受験を認めてもらうか??

いやもし通ったとしても就職の時に白い目でまた見られるに違いない。

私立の医学部を受験する??

そんな財力、うちにはないことくらい僕にもわかる。

そうこう考えた結果…とりあえず勉強することにした。

今、親と口論しても時間の無駄だしお互い感情的になってしまうことくらいわかっていた。

それなら勉強していたほうがいい。

思っていたより自分は冷静になっていた。

自分よりも冷静でない人間がいたからかもしれない。

僕は昔のことを思い出していた。

中学受験で名門中学に合格した時、親はとても嬉しそうだった。

きっと僕にすごく期待していたのだろう。

でも、その期待に僕は答えられなかった。

与えられたことをこなすことが勉強になっていた僕は、中学から突然始まった予習復習型の勉強にいつまで経っても適用できなかった。

また、中学受験だからしばらくお休みしましょうね、しばらく手放しましょうねと親に規制されていたゲームやアニメ、音楽といった娯楽に再び手を出していった。

もちろん成績はだだ下がり。

親は荒れに荒れた。

家庭内は不穏な空気になり、父親と殴り合いの喧嘩にも度々なった。

正直、親が嫌いだった。

早くこんな家出て行ってやると常々思っていたのに、まだ親のスネをかじっている。

僕は、自分の頬を叩いた。

家から通えなくてもいい、どんな地方でもいいから出願できる医学部を探すんだ。

傾斜配点で有利に働くところを探して、足切りにとりあえずかからないようにするんだ。

そこから約二ヶ月間、僕は死ぬ気で頑張ることにした。

前期も後期も、結局どちらも医学部に出願しよう。

受かる保証なんてない。

無いどころか受かる可能性の方が低いだろう。

それでもやるんだ。

……

神様の使い的にはなかなかびっくりしているよ。

すごいメンタルリセットだね。

でも現実そううまくいくのかな…?

結局それで受からなくて神様なんて信じない状態になるのがいつもの定石って感じ。

それじゃ、結果発表といこうか!!

……

今日は後期の合格発表日、医学部後期なんて倍率50倍を超えることもあるスーパー狭き門だ。

正直、受かる確率は0にほぼ等しいだろう。

でも、これが最後のチャンスなのだ。

僕はじっとその時を待った。

ピンポーン

家のチャイムが鳴った。

「郵便でーす」

郵便屋さんのハキハキとした声が聞こえる。

モニターに映るその手の書類には確かな厚みがあった!

僕ははやる心をおさえがら玄関に向かった。

もう一度確認したが、受け取った書類には確かな厚みがあった。

中を開けるとそれは…入学手続きの書類だった!!

僕はこの時人生で一番大きなガッツポーズをしたと思う。

家から通える圏内ではない地方の国立だったが案外親はあっさりと許してくれた。

むしろ、医学部に通ったことで親は安心したようで、また鼻高々な様子だった。

「四浪もしてやっとよ〜」なんてご近所さんに言ってはいるが、自慢したい年頃なのであろう。

僕は神様を信じないと言ったけれど、その言葉を訂正するつもりはない。

たった二ヶ月、たった二ヶ月だ。でもこの二ヶ月、僕は二次試験対策を死ぬ気でした。

親も何かを察したのか、うるさく言わなかった。

その結果が、今、手元にある厚い封筒だ。

僕はもう、うまくいかないのを神様のせいにするのをやめた。

環境を神様のせいにするのをやめた。

実力が足りないのを、不注意を、神様のせいにするのをやめた。



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