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act.93 得体の知れない強者


「あぁ、もちろんそこの少年も、メイドの貴方も動かないでくださいね。君達のお仲間が大事ならね」


 気が動転してわからなかったが、どうやら影の正体は黒いローブを被った男らしい。声が中性的な上、ローブから見る体の線も細いため、推測の域を出ないが。


 短剣の切っ先がモニカの白い肌を裂き、鮮血が流れ出る。モニカの表情が微かな痛みに少し歪む。少しでもモニカが暴れれば男が手をくださずとも、その切っ先は容易に彼女の命を奪うだろう。


 モニカの首の肌を傷付ける程度の浅さで短剣の切っ先はビタリと止まっている。これだけでも短剣を持つ影の実力が高いことを示している。何よりも人の命を、指先の動き一つで奪える立場になって一切緊張の色が無いと言うところが、如何にその男が人の命を奪って来たかを物語っている。


 きっとモニカは奴らにとって大事な人質ではない。奴らはその気になれば軽々と彼女の命を奪うだろう。今の状況は、奴らにとって唯一ではなく、数ある選択の中から適当に選んだものに過ぎないように思う。


 何故なら、ヴィクトリアにとってのモニカが人質としての価値があるか疑問であること。そしてあまりにも刃が近い。モニカの抵抗を歯牙にもかけていないからだ。


「それで(わらわ)になんの用じゃ。お主らが盗賊の一味で、金品が欲しいなどと言うわけではなかろう。……誰かに雇われたのか?」

「ご推察の通り。さすがはクレヴァリー家の令嬢だ。私達の雇い主は貴方を生け捕りにしろなどと中々の無理難題を申しつけられました」

「ふん、まるで殺すならば簡単とでも言いたげじゃのう」

「いえいえ、貴方程の実力者を殺すなど簡単ではありません。不可能とも思いませんがね」


 頭から被ったローブの中で唯一見える口元が歪んでいく。どうやら嘲笑でも浮かべているようだ。


「ですが、生け捕りと言う契約ですので少し趣向を凝らしてみました。お楽しみ頂けたでしょうか?」


 彼らとヴィクトリアの間に何があるのかはわからない。唯一イグナールが分かっていることがあるとするならば、そのいざこざに巻き込まれ、モニカに危険が迫っていると言うことだ。


「つまり、モニカと妾を交換と言うことじゃな? それで妾が捕まった後、彼らが無事解放される保証は誰がしてくれるんじゃ?」

「全くもってありませんね。ただ、現場での裁量は私達に委ねられています。その場の人間を殺すも生かすも私達次第。そして私達は依頼で殺しをしても、無益で殺しをするような人間ではありません」

「妾が大人しくしておれば解放する。と考えてもいいんじゃな?」


 またもや男の口元が静かに歪んでいく。

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