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act.55 お困りモニカちゃん③


 彼女の心配事はイグナールが力に目覚めたことである。経緯はどうあれ、念願の属性が発現したのだ。元々持っていた常人離れした魔力量。勇者から学んだ剣術。それに未知数の紫電の属性。今はまだ魔法使いとして素人同然の未熟者ではあるが、これからの成長では……


 いずれイグナールを守る自分から、守られる自分になるのだろうか?


「ぐっ……」


 自分自身への問いに答えるように背中が痛む。先程の戦闘で負った傷である。イグナールのピンチを見て勝手に体が動いた。ただの幼馴染としてでも、二年間共に旅をした仲間としてでもない。


 単純に思い人が傷つくのが恐かった。一瞬、雷の直撃を受け生死の境をさまよっていた彼の姿が頭をよぎり、体が勝手に彼を庇っていた。


 今までの旅で剣術しか使えないイグナールが負傷することなど珍しいことではなかった。だがここまでの危機感を持つようになったのは、思い人が死に瀕した出来事の印象が強く頭に焼き付いていたからであろう。


 ディルクからの話――魔界行きへの件――を聞いたイグナールは酷く落ち込むだろうことは想定していた。だから彼を慰める――元気づけるために観察を続けていたのだが、泣きじゃくるほどの落ち込み具合に声を掛ける機会をなくしてしまっていた。


 そして、目の前で起こった奇跡的な悲劇。治る見込みも不明。そんな中、回復魔法を行使しつつ、自己強化を施して彼を宿屋まで運んだ。あの時は自分自身を酷く呪ったものだ。もっと早く声を掛けていれば、そもそもイグナールの魔界行きを素直に賛成していれば。


 自分の行動一つ一つに後悔しながら……戻らぬ時間を切望しながら……治る見込みも不明なまま必死で回復魔法を掛けた。


 朝起きた時、イグナールの変わらぬ姿が私を見ていたときは跳び上がるほどに嬉しかった。しかし、その喜びを抑制するかのように罪悪感が包み込んだ。結局残った安堵から出た素っ気ない言葉には今も後悔している。


 そして、何も知らないイグナールからでた「ありがとう。世話を掛けたな……」の言葉。純粋なお礼は私の心を(えぐ)るように突き刺さった。それでも、そのことを表に出さないように取り繕って彼と接した。


 それからは念願と言ってもいい彼と二人きりでの旅が始まると言うのに心が弾まなかった。イグナールの属性が発現したことにも、驚きと別の何かに遮られて素直に喜ぶことが出来なかった。


 その正体が分かったのは彼の力を目の当たりにしてからだ。


 イグナールはその力で、これからどんどん強くなる。きっと私の助けがいらないほど。いつか私の手が届かない存在になってしまうような気がして……


 別の何かとは……置いて行かれる恐怖だった。


 扉が開き、イグナールとマキナが姿を現す。モニカは笑顔を作って彼らを迎えた。



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