95.
「さあて、そろそろお終いにしないとな? 終末の子がそれほど手に入らなかったのは残念だが……」
「全員置いていってくれて構わないんだぜ?」
カイルが半身で剣を構えてウォールを煽る。
お互い笑みを浮かべて会話をしているが、カイルの方にはあまり余裕が無い。
次の攻防で終わらせるつもりだという殺気を感じるからだ。すぐ後ろにはイリス。
確実に返さなければ彼女が確実に殺されるだろうと、冷や汗をかきながら挙動を見る。
「終末の子を起動して世界を……地上を制圧するつもりだったようだがアテが外れたな」
「フッ、まあ二体でも十分だろう。お前達が手に入れた個体は意識があるからリミッターが働いているが、無意識化にあればとてつもない戦力を誇るんだ」
「……」
確かに、とカイルはブロウエルが傷を負ったことを思い出して舌打ちをする。しかも彼一人ではなく終末の子と一緒に戦っているにも関わらずほぼ互角という状況だったからだ。
「……だけど封印を解いた時点で意識を覚醒させていたぞ?」
「そりゃあ、あのマッドサイエンティストのことだ。なにかしらトリガーがあるんだろう。それこそ、先に見つけられてしまった時のためにな」
「伝説の生物やそんなことをしているとは、随分と不確定な計画だったってことかね」
「さあな。それこそガイラルが裏切ることを想定していたのかもな? ……で、俺の弱点でも見えたか?」
そう言ってニヤリと口元に笑みを浮かべるウォール。それは察するだろうと考えていたのでこれは問題ないとカイルは唇を舐める。
隙は無い。
だが、負けるわけにはいかない。
そして――
「そんなものに期待はしちゃいねえな!!」
「策なしで俺に勝てると思うなよ」
――左手に持っていた銃からほぼ動作無しでウォールの眉間目掛けて弾丸を発射する。
先ほどまでと同じように悠々と避けるウォール。だが、カイルは撃ち出すと同時に踏み込んでいた。
「くらいな!!」
「遅すぎるんだよ……!!」
それでもカイルが突っ込んでくるとは思っておらず、反撃ではなく防御一辺倒になるウォール。そこでカイルは確証を得たとさらに攻撃を続ける。
「なるほど。ウォール、てめえは避けるのは上手いみたいだが。その能力は『避ける』ことだけに特化しているんだな?」
「ふん、なにを言っている? 喉ががら空きだ!」
『お父さん……!!』
カイルの踏み込んで来た剣を避け、それに合わせて喉へ長剣を薙ぎ払うように振るうウォール。イリスが慌てて声を上げる。しかしカイルは避けようとせず、銃をウォールへ向けて発射した。
「……! これならどうだ!」
「!?」
その瞬間、身を反らせて回避するウォール。長剣がピタリと薄皮一枚を切り裂く程度のところで止まっていた。
「うおおおお!」
「ぐっ……!?」
「浅いか! だがまだ!」
カイルは避けたウォールへ追撃を仕掛け、鳩尾へ柄を叩きつける。それを回避するが見越していたカイルは剣を縦に振り下ろしウォールのまぶたを切り裂いた。
そのまま身を低くして今度は足元からすくいあげるように顎を狙うカイル。
「舐めるなぁ!!」
「その距離ならそれしかねえよな、理解ってんだよ!」
刃が迫る中、ウォールは空いた左拳をカイルの脇腹へ繰り出す。カイルは『そうなるよう』仕向けたため、その拳を小さく避け、脇で挟み込んでから捻り上げる。
「うがっ!? てめえ!」
「うお!? ごほっ!?」
『だ、大丈夫お父さん!』
ウォールに蹴りを受けて吹き飛ばされたカイルが尻もちをつくとイリスが駆け寄ってくる。血を吐きながらイリスに笑いかけた。
「心配すんな、ヒビくらいは入ったかもしれんが、あいつよりマシだろ。いいかイリス――」
「クソ共が……!」
腕をだらりと下げたウォールは初めて激高し、長剣を掲げて一気に迫る。
『ダメです!』
「お前から死ぬかNo.4! うお!?」
「馬鹿が。さっき切り上げた時にてめえの靴を切っておいたんだよ」
ウォールは靴が切り裂かれて前のめりに倒れこむ。そんな彼へ赤い刃を手にカイルは口を開く。
「お前は動きが速いし、目もいい。が、それゆえに回避行動に全振りする傾向にある。カウンター狙いとも思ったが、俺の喉を切り裂けなかった時点でそれに気づいたよ」
「だとしたらなんだ? 俺がこのままタダでその刃に倒れこむと思っているのか?」
「そうだな……」
「身を捻ることくらいはでき――」
そう言って身をよじった瞬間、ウォールの腹から大きな杭が生えた。ごぼっと血を吐き、長剣を取り落としながら、ウォールは視線を下へ向ける。
「な、No.4……」
『です!』
「お前なら『そうするだろう』と思っていたよ。俺の剣はフェイクさ、お前が『避けてくれる』と信じていたからな」
「馬鹿な……俺がこんなことで、プロトタイプごときに手玉に……」
「自分が有利だと思っているからだ。俺は……自分を強いと思ったことなど一度もねえよ。5年前のあの時からな」
「く、そ……。モルゲン、これは予想外だぞ……」
イリスがレーヴァテインを消してカイルの足にしがみ付くと、ウォールは仰向けに倒れた。
「く、くく……だが、まあいい。どうせ博士が居れば蘇生はしてもらえる、しな……。それに、帝国に置き土産もしてきた……。ごほっ……」
「どういうことだ!」
「ふ、ん……帰ったら、面白いことが待っている……ぜ――」
「チッ、負け惜しみか?」
『お父さん、お爺ちゃんたちを助けましょう!』
「ああ、そうだな……!」
そこで息耐えたウォール。
真意を聞くことは出来なかったが、今はそれどころではないと、再びガイラルやブロウエルの援護に回ろうとするカイル。
するとガイラルと戦っていたモルゲンが――




