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帝国少尉の冒険奇譚   作者: 八神 凪
FILE5.キョウキノカガクシャ

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82/132

79. 

 

 「――以上です。カイルを追っていたのは正解でしたが、申し訳ございません」

 「気にするなブロウエル、ウォールの策に乗った私に責がある。それよりカイルはどうだ?」

 「……身体に問題はありません」

 「そうか」


 ――ヴィクセンツ領から火急で帝国まで戻ったブロウエルが、顛末の報告をガイラルへ終えたところだった。

 ガイラルはウォールがカイルを追うことは分かっていたのでブロウエルを向かわせたが、一歩及ばずにカイルが自身の正体を知ることになったことに責任を感じていた。

 

 「”終末の子”No.0のカイル、か」

 「そういえばカイルには専用の武器は無いのですか? イリスのように」

 「無い。あいつの能力は知識と創造。ブロウエルも見たはずだ、自身の血と魔力で生成した剣と銃を」

 「……ええ」

 「サイクロプスから手に入れた素材も元は天上にあったもので、カイルは幼少期に【改造】された直後から装備を作っていたよ、先日の遠征で作ったものはそれの延長だ」


 ガイラルが懐かしいといった感じで微笑むと、ブロウエルは帽子のつばに手をかけながら言葉を返す。


 「……カイルはどうして地上へ? 5千年前に『遺跡』へ封じられなかったのはなぜですか?」

 「あいつは……いや、これはどこで漏れるか分からんからお前にも話せないか。地上へ来た理由は簡単だ、私が派遣された時に一緒に連れてきたからな」

 「私が拾ったことにしたのは、終末の子だという記憶が無かったからですかな」

 「そうだ。エリザと夫婦になったのは予想外だが、それでもいいと思っていたが――」


 五年前の事件があった、とガイラルは口にする。

 本来であればそのままjカイルとエリザは結婚して戦いから退ける予定だったのだが、カイルの正体がばれてしまったのであえてカイルに殺させ、自分を仇に見せるように演出したと語った。


 「……難儀なものですな」

 「ああ、上手く行かないものだ、嫌になるよ」

 「お孫さんは?」

 「……」

 「失礼しました。では、私の報告は以上です」

 「ご苦労だった、下がってくれ。カイルの見舞いへは私が行こう」

 「左様ですか、また恨まれてしまいますかな」

 「はは、珍しく冗談を言うじゃないか、良してくれよ」


 そう返すと、ブロウエルは珍しく口元に笑みを浮かべると、敬礼をしてこの場を後にする。それを見送ったガイラルは椅子から立ち上がり、雨が降りしきる庭園を見て目を細める――


 「……ウォール、カイルへの仕打ち……高くつくぞ?」



 ――皇帝ガイラルが本気で怒りを見せた瞬間だった。




 ◆ ◇ ◆



 「……」


 カイルは自宅のベッドで上半身を起こした状態でじっと自分の手を眺めていた。もちろんウォールの話を覚えているからで、自身は終末の子……それも最初に作られたプロトタイプであることを聞かされ、目が覚めたのは帝国へ戻ってからだったが気持ちがずっと落ち着かないのだ。


 『おとーさん、大丈夫ですか?』

 「わふん」

 「ん……ああ、大丈夫だぞ? どうした、イリス」


 ベッドに身を乗り出し、足をパタパタとさせるイリスと、容赦なくベッドの上に乗って顔を舐めてくるシュナイダーの頭を撫でて力なく笑う。


 『むー、なんか元気がありません! お外にいきましょう!』

 「いや、俺はいいよ。お前達だけで行ってこい」

 『えー! 嫌です! お父さんと一緒がいいです!』

 「……やれやれ」


 ふくれっ面のイリスを見てカイルは苦笑しながらベッドから出ると、適当な服に着替えてから家から出る。戻ってから三日は経っているが、今日が戻って初めての外出だった。


 『公園がいいです! そのあとハンバーグを食べたいです』

 「真顔で言うな。……ま、爺さんには頼みごとをしているし、丁度いいか……」

 

 『シュナイダーとってこーい!』

 「わぉぉん♪」


 公園につくと、ボール遊びでイリスとシュナイダーが遊びだしたのでカイルはベンチに座ると、前かがみになって手を組むとぽつりと呟く。


 「……終末の子、そのプロトタイプ……それが俺、カイル=ディリンジャー……。一体どういうことなんだ? 俺は天上人だってのか? サラが俺に敵対しなかった理由がこれなら皇帝の前で話そうとしたのはこのことだろう。……となると、皇帝は俺の正体を知っている、ということになる、のか……?」


 そこで、何故知っているなら言わなかったのかという疑念と――


 「エリザと結婚させたのは何故だ? 俺が厄介な兵器と知っているなら結婚に行きつく前に分断するだろう……五年前のあの日まで知らなかったということはないはず……。ん?」

 「まあ、その通りだカイル。私はお前がプロトタイプであることを知っていたよ」

 「……!? 皇帝……」

 

 地面を見つめていたカイルの影に、別の影が重なったので顔を上げると、トレンチコートに革の手袋、中折れハットを被って微笑むガイラルの姿があった――

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