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帝国少尉の冒険奇譚   作者: 八神 凪
FILE.3 ヒロガルセンカ

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56/132

55. 



 「新型だ、受け取れ!」

 「おうよ!」

 「助かる」

 

 ドグルとオートスがサイクロプスのスキンジャケットと”スコーピオン”を受け取り装着する。同じくアンドレイとヴィザージュという二人の隊長も受け取る。


 「軽いな、防護服か? これは」


 着心地を確かめているヴィザージュがカイルに問う。


 「ええ。ちょっと細工をしていますので、噛まれたくらいじゃダメージは通りません。下手な鎧よりも頑丈ですよ」

 「こりゃいいな! おし、反撃開始と行くぜ! ……って、どうしたんだこいつら……」


 アンドレイがアサルトライフル片手に飛び出すが、敵兵は微動だにしておらず、不気味さを醸し出していた。そこへガイラルと切り結んでいたニックがガイラルを弾き返して口を開く。


 「チッ」

 「ふん、流石はガイラルか。そこの隊長さんよ、こいつらはさっきガイラルに破壊された赤い珠で制御しているんだ。しばらくすりゃ正気に戻るから殺るなら今だ。こっちの兵は特殊な感染症を持っていてな。引っ掛かれたり噛まれれば感染する。そうするとどうだ、お前達帝国兵もこっちのお仲間にできるってえ寸法さ」

 

 「フィリュード島もお前がやったのか……!」


 カイルが赤い刃を構えてニックへ尋ねると、笑いながら白い剣を肩に担ぎカイルに向かって言う。


 「ああ、あんた村長とやりあったやつだな? あそこは実験場として魔獣を増やし、村長を基軸にして町を感染者だらけにして無症状保菌者を作って世界にばらまく……って計画があったんだが、邪魔してくれちゃったなあ。まあ感染者は帝国に入りこませることができたから良しとするが――」

 「そいつらは俺達が始末した。治す方法はあったのか?」

 


 帝国兵の保菌者は壊滅させたとカイルが言うと、ニックは目を細めて『ほう』と一言呟き続ける。


 「流石は帝国様か。優秀な人材が揃っているなガイラル? ならばここには用が無くなったし、帰ろうかね。赤い珠の生成を急がねばならないしな」


 そう言って踵を返そうとするニックに、カイルが激昂して赤い銃を発砲する。


 「治療法があるのかと聞いている!」

 「……お前……! ハッ! そんなもん知っていても教えるかよ! こいつらは使い捨て、治療法なんざないがな!」

 「な!?」

 「ひ、人をなんだと思ってるんですか……!」


 フルーレが怒鳴る、しかしニックは気にした様子もなく、


 「何とも。地上の人間は家畜と変わらんからな?」

 

 こんなことを言い放った。シュトレーンの兵が動かないならと、オートスやドグルも前に出て戦闘状態に入る。そこでガイラルが一歩前へ出てから口を開く。


 「こいつに我らの考えを言っても通らん。言うだけ無駄だ。逃げるか、相変わらず臆病だなニック」

 「……うるせえよ、裏切り者が。それじゃ逃げる手段を使いますかね、っと」

 「動くな……!」

 「当たるか」

 「兵を盾に……!?」


 オートスが発砲するが、近くにいたシュトレーンの兵を立てにして銃弾を防ぎ、カイル達は驚愕する。ニックにとって兵士は本当に使い捨てなのだと。そしてニックが青い珠を掲げると強烈な光を放ち――


 「む……うう……こ、ここは……?」

 「て、帝国兵!?」

 「ハッ!? ニ、ニック殿か? これはどういうことですか、どうして目の前に皇帝と兵士共がいるのです? それにいつの間にこんなところまで……」


 攻撃を仕掛けるより前に、疑問が沸き上がるシュトレーンの兵達。詰め寄る将。それにニックは面倒くさそうに答える。


 「あー、そういうのいいからさっさと行ってくれよ。皇帝を倒す絶好のチャンスよ? ほら」

 「確かに……」

 「でしょ? そんじゃ後は任せるか――」

 「と、簡単に言うとでも思いましたかな……? 我々は『どういうことか』と聞いているのですぞ?」


 その場から離脱しようとしたニックの首筋に剣を突きつけ睨みつける。


 「はあ……面倒くせぇえなあ。なら言ってやる。お前達はすでに生ける屍……ゾンビ―なんだよ。正気のオンオフが出来るやつでな、なかなか高性能だろう? 腹の中は――」

 「うぐ……!? な!? ば、馬鹿な……!?」

 「う……」


 ニックが別の兵士の腹を切り裂き、内部を見せる。そこには内臓がなく、村長と同じものが心臓の部位にあたるところにあっただけだった。


 「もう人間じゃねぇんだ。はは!」

 「ぜ、全員……か?」

 「もちろん」


 ニックがにやぁと嫌な笑いを浮かべ、はっきりと言った。瞬間、シュトレーンの兵はニックへ襲い掛かる!


 「逆賊め、国王陛下に害が及ぶ前にここで始末してくれる!」

 「いやいや、お前達の相手は帝国だろうが? お門違いだっての!」

 「ぐあ……?!」


 ニックの白い剣であっさり首を落とされ絶命。それを見たシュトレーンの兵はさらに激昂して襲い掛かる。


 だが――


 「あーあ、もう本当に面倒臭いねえ。もういい、止まってろよお前達」


 今度は黄色い珠を取り出して翳す。するとシュトレーンの兵は急に動きを止めた。


 「だからお前達はもう人間じゃないんだって。動けないだろ? 反逆された時のことも考えてるに決まってんだろ?」

 「ぎゃあああああ!」

  

 そう言って動けなくなった兵士の首を落とし、シュトレーンの兵は冷や汗をかく。声は出せるが体が全く動かせない状況に全員が戦慄した表情を浮かべる。


 「なんてやつだ……!」

 「気持ち悪い男ですねー……国ひとつ敵に回してどうするつもりなんでしょうか……!」


 エリオットとパシーが嫌悪感を丸出しにして口を開くと、ガイラルが言う。


 「『そういう生き物』だと認識しろ。こちらの常識は通用しない。通じるのは言葉だけだ」

 「父上……あの男を知っているのですか?」

 「まあ、そんなところだ。古い知り合いだな」


 ガイラルが口にすると、ニックはカイル達に目を向けて口を開く。


 「まあ確かに古いなあ。ガイラル、裏切るってことでいいんだな?」

 「仲間だと思ったことなど一度もないが?」

 「言うね。なら次は確実に殺すための準備をするさ、じゃあな」


 そう言って踵を返した直後、ガイラルは踏み込んでいた。交錯する白い剣と皇帝の大剣。火花が散るなか皇帝が静かに言う。


 「貴様を目の前にしてこの私が逃がすと思うか? お前はここで死ぬんだ”終末の子No,1”よ」

 「……! 俺を数字で呼ぶんじゃねぇぇぇぇ!』


 静かに言い放った皇帝とは真逆に、飄々とした物言いが消え激怒と言った様相で剣を返すニック。ギィンと鈍い金属音が響き渡る。そしてニックの髪色が茶色から白に変化し、肌も雪のような白になり、目は金色になった。


 「正体を現したな、それでこそ殺しがいがあると言うもの」

 『”上位種”だからって調子に乗るなよガイラル! 歳を食ったお前なんざわけがねぇんだよ! <フラガ**ハ>!」


 「っ……!? なんだあの剣フラガ……なんとかって聞こえたぞ……」

 『……フラガラッハです、お父さん。分かるのですか?』

 「イリス……? あ、ああ、お前もそういやあの武器を出すとき聞いたこともない言葉を口にするよな。ってことはあいつも『遺跡』から蘇った奴か……?」


 カイルが呟くとイリスが頷く。


 『恐らく。島で誰かが私を見ていたような気がしたのは恐らく彼でしょう。おじいちゃんの言う”終末の子”という言葉で思い出しました。私はその内の一体”No.4”だと』

 

 そう言って胸にあった『4』という数字を見せるイリス。カイルは目を見開き、再びニックへ目を向けた。


 「あいつがNo.1でお前が4……てことは他にも居る可能性が?」

 『はい。復元したデータによると全部で7人。世界のどこかに封印されています』

 

 そこへエリザがイリスと目線を合わせるため膝をつき尋ねる。


 「……目的はなんだ? なぜ封印されている?」

 『それは――』


 イリスが口にしかけたところでカイルが遮る。


 「今はいい。まずはあのいけ好かない野郎とぶっ飛ばすのが先だ。皇帝を殺すのは俺だ、あいつに先を越されちゃ面白くないからな」

 

 懐から三つの球を取り出してさらにカイルは続ける。


 「……こいつの効果があるといいが……。さっきのが本当なら青い珠で動けるようになるはずだ。動けるようになったら、兵たちに逃げるように働きかけてくれ」

 「お前はどうすんだよ?」

 「ニックとやらに聞きたいことがある。イリスの件を含めてな。だから皇帝に加勢するよ」


 そしてカイルは青い珠を掲げ、魔力を込めた――

次回、決着


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『なかなかのクソ野郎ね』


正体が面白いことになるかなあ?

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