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帝国少尉の冒険奇譚   作者: 八神 凪
FILE.2 ワスレラレタムラ

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42/132

41. 


 「マーサさん!?」


 カイルにばっさりと斬られたマーサを見て、フルーレが悲鳴に近い声を上げる。マーサはわずかに微笑み、エスペヒスモは苦悶の表情を浮かべて重なるように地面へ倒れた。カイルは刃を肩に担ぎながら一息ついてからエスペヒスモに言う。


 「悪いな、勝負ありだ」


 「くっ……くく……ははははは! そうだな……私の負けだ……しかし悔しいわ、帝国兵にまたしてやられるとは」


 体から煙を噴き出しながら笑うエスペヒスモの傍で片膝をついてカイルが口を開く。フルーレはマーサを隣に寝かせていた。


 「あんたの気持ちはわかる。俺も辛酸を舐めた口だからな」

 

 「……お前が? まあ、いい。これで今度こそ消える。……マーサよ、すまんかった」


 エスペヒスモが首を動かしマーサへ謝罪をする。顔は……先ほどまでの鬼気迫る勢いは消え、とても穏やかな表情になっていた。


 「ううん……もっと早く……止めていれば、良かったのに……」


 「それで止まる私ではないからな……。あのままお前だけでも暮らしていってくれれば……いや、今更か……しかし悔しいものだ……」


 涙がスゥっと流れ目を瞑る。魔素の分解もすぐに終わり、彼はもう少しで息絶えると見つめるカイル。その口が自然と動いていた。


 「……言い残すことはないか?」


 「……そうだな……皇帝にいつか必ず報いがくる、と」


 「わかった伝え――」


 カイルが頷いて答えようとした瞬間、背後で聞きなれた声が聞こえてきた。


 「その必要はないぞカイル少尉。その言葉、確かに受け取った」


 「皇帝!?」


 「陛下!?」


 『おじいちゃんがどうしてここへ』


 「わぅん?」


 「たまには運動をせねばと思ってな? どれ、忘れられた村の村長の顔を見せてもらおうか」


 皇帝はカイルを押しのけて膝をつく。エスペヒスモが皇帝を見てぎょっと目を見開き、


 「こ、皇帝、か……!? そのすが――」


 「しーっ……それ以上はいけないぞエスペヒスモ。その姿は――のせいか?」


 「な……!? お前は……それを知っているのか――ああ……そうだ……」


 「そうか……――だ」


 「な……!?」


 エスペヒスモが返すと、皇帝が神妙な顔で頷き、手の中にあった赤い珠と青い珠を回収する。


 「(なんだ? 今皇帝はなんと言った……? 村長の驚きようもただごとじゃない……)」


 耳元で囁くように会話をしていたため、カイルには会話の内容は聞こえなかった。いぶかしんでいると、皇帝が珠をカイルに投げて渡す。


 「カイル少尉、お前が持っていろ。失くすなよ?」


 「おっと……と……。こりゃ『遺物』だぞ? 保管すべき道具じゃないか」


 「……こいつは、必要ないんだ。私や宝物庫へ置くには少々危険でな」


 「これの正体を知っているのか……?」


 カイルがそう言うと皇帝は珍しくハッとした表情になり、咳払いを一つして再びエスペヒスモへと語り掛ける。


 「……お前は使われたんだ。仇は私がとってやる」


 「そ、その言葉が真実かどうか、確かめるすべはないが……あなたも犠牲者というのであれば……最後に信じてやろうじゃないか」


 「必ず」


 「……なあ、どういうことなんだ?」


 「君に教えるにはまだ早いな。アレを作ってくれたら話してやろうじゃないか」


 「そいつはお断りだ」


 「フッ」


 皇帝が笑うと、マーサが最後の力を振り絞り父へと語り掛ける。


 「と、父さん……こんなことに……なったけど……わた、しは、幸せだった……よ?」


 「マーサ……うぐ……」


 エスペヒスモがマーサの手を握り涙を流す。その様子を見ていたフルーレも泣きながらマーサの手を握る。


 「ぐす……こんなのあんまりですよ……」


 「ふふ、も、もう死んでいる私に泣いてくれるの? ……来てくれたのがあなたたちで……よか、った……私達みたいなのをもう二度と出さない、で……」


 「マーサさん! マーサさん!」


 「……」


 『おふたりの機能停止を確認しました』


 「……機能、か。そう言ってやるな。生きてたんだよこのふたりは。……いや、村人全員な」


 『はい』


 エスペヒスモもまた息を引き取り、魔獣たちはいつしか森へと消えていった。静寂に包まれたところで、カイルは皇帝へと尋ねる。


 「ところで、あんたは何故ここにいるんだ?」


 「……エリザがこの島の資料を見ていてちょっと気になることがあってな。君を助けに行くというから一緒についてきたのだ」


 「皇帝自ら来る必要があるってのか? ……ここで殺してもいいんだぞ」


 「フフ、先ほどから殺気を感じていたぞ。いつ斬りかかってくるかと思っていたが、来なかったな」


 皇帝が試すように視線を向ける。次の瞬間、ポンと手を打って言う。


 「そういえば町にサイクロプスや魔獣が入り込んでいたな。戻らねば」


 「……!? そうだった! フルーレちゃん、ふたりの埋葬は後だ、町へ行くぞ!」


 「ぐす……は、はい……そうですね……。それにケガをしたまま救援に行ったクレイターさんの体調も気になります。隊長だけに……」


 「……カイルよ、久しぶりに一杯付き合わんか?」


 「お断りだ。俺はクレイターが行かなかった町へ行く。あんたはエリザの下へ戻ってくれ」


 「くっく、皇帝に指示を出すとは恐れ多いやつだな相変わらず。言われなくてもそうするつもりだ。……恐らく、もう終わっていると思うがな」


 「なに? あ!」


 カイルが聞き返す間もなく皇帝は走り去っていった。フルーレを立ち上がらせ。イリスと共に町へと走っていく。


 「……被害は大きいが収束しているようだな」


 「ですね。サイクロプス、でしたっけ? あれも倒しているみたいですよ」


 「さすがは帝国兵ってところか。弱点が分かっていたのも良かったのかもな。……イリス?」


 犠牲者も居るようだが、全滅するようなことは無かったと安堵するカイル達。しかし、イリスが森の方をじと見ていることに気づき声をかける。


 『……』


 「イリス、どうしたんだ?」


 カイルがもう一度声をかけると、イリスはハッとしカイルに抱き着く。


 「くぅん?」


 『……なんでもありません。多分、気のせいです』


 「? おかしなこと言うなあ。まあいい。それじゃ、救助と行こうぜ」


 「はい!」





 ◆ ◇ ◆



 ――イリスがじっと見つめていた森の、高い木の上に人影があった。町の方を見ていたそれがゆっくりと口を開く。


 「……なかなか面白い見世物だったな。実験としてはまずまず……だが、サイクロプス三体を失ったのもそれなりに痛手で”三つの珠”も奪われた、か。ふむ、代償は大きかったか。まあ、複製できないものでもないが。……それにしても皇帝め、ここへ来るとは何を考えている……?」


 人影はそう呟くと、一息吐いて木から木へ飛び移る。


 「まあ、いい。予定に変更はない。……気になるのは”終末の子”か。アレも回収せねばならんな」


はてさて謎の人影の正体は……?


いつも読んでいただきありがとうございます!


【あとがき劇場】


『黒幕ってところかしらね』


重要なのは正体、って感じでひとつ。

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― 新着の感想 ―
[一言] フルーレちゃんのダジャレを完全スルーは可愛そうだな。その後フルーレちゃんの反応がないのは自分でダジャレを言ったことに気付いてないから?でも三点リーダーがあるから狙っているような?反応があるか…
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