132.
「ふうん、いい装備だ。エリザ、こいつを装備しておけ」
「カイルは?」
「俺は大丈夫だ。お前はツェザールに狙われているが前線にいるとは気づいていないはず。別の兵がエリザを撃ってくることは十分にある」
「わかったわ」
強化兵から奪った防具をエリザに渡す。
身内だと思われるため攻撃をさせないのが一つ。それと一瞬だけなら味方にも見えるため、動揺を誘う意味でも効果があるため持っていかない理由がない。
「クレフ、あんたはこいつを持っていけ」
「お、いいのか?」
カイルは続けてクレフにアサルトライフルを投げて渡す。
クレフはカイルが使うものだと思っていたので、面喰った顔で受け取った。
「性能がかなりいい銃だ。専用の弾も持っていたし、他の奴も倒して回収していけば継戦能力は高いんじゃないか?」
「だな。一緒に行くか?」
「いや、俺達は単独で行かせてもらう。ガイラルより先にツェザールの下へ向かう。地図だけ見せてくれ」
「……!? カイル……」
カイルは助けたクレフに剣を向けて地図を見せろと言う。
命を取ることはないだろうが、少し痛い目を見てもらうぞと暗に示している。クレフは瞬時にそう判断した。
「俺にはその権利がある。実の親父に会う権利がな」
「……わかった」
「ここが恐らく現在地……ここを行けば――」
「タワーへ着いても陛下より先に奴を倒すのは勘弁してくれよ? あの人こそ復讐をすべきだと……俺は思っている」
「……」
『お父さん、待って』
クレフに地図を見せてもらった後、彼の言葉に返事はせずカイルは歩き出す。その後を慌ててイリスとエリザがついてきた。そのまま振り返ることなくタワーを目指す。
「……クレフさん、父上の心配をしてくれているのね」
「そうだな」
【わふ】
『おじいちゃんはどこにいるんでしょう……』
「どこでもいいさ。奴を殺すのは俺だ」
「……」
カイルが赤い刃の剣をぐっと握りなおしながらそう呟く。今度はエリザがカイルの言葉には返事をしなかった。
「地図は役に立ちそうだった?」
「そうだな。ここから北西に向かうと町がある。一度そこへ行って道なりにタワーを目指そう。車でもあると助かるんだけどなあ」
【うぉふ】
『シュナイダーが乗ってもいいって言ってます!』
「三人は無理だろ……とりあえずあっちだ」
「ええ」
そうして地図を覚えたカイルはひとまず町へ向かって歩き出す――
◆ ◇ ◆
「ふん、転送先の座標をランダムに設定していたかモルゲンの奴め、やってくれる」
「わしら以外に仲間はおらんようじゃ。どうする?」
カイル達が敵と接触する少し前。
転送に成功したガイラル達は周囲に仲間が居ないことに気づいていた。残ったのはゼルトナだけで、ダガーを抜きながらどうするか尋ねる。
「どうするもないだろう? 僕の目的は一つだ」
「ま、それもそうか。っと、場所の特定が出来たぜ。深淵の森の中層だな。まあまあ面倒な場所だ」
「懐かしいところに来たな」
場所の特定をゼルトナが口にした瞬間、ガイラルはマントを翻すと迷いなく歩いていく。
周囲を警戒しながらゼルトナもそのあとに続く。
「こっちじゃお前さんは普通の兄ちゃんだったからな。なんだっけ? 学者とかそういうのになりたかったとか」
「地上に居た時はそうだったな。天へ上がり、ツェザールの右腕として働くようになってからは頭の使い方を違う方向に使ってしまったけどね」
大昔の話さとガイラルは振り返らずに肩を竦めて答えた。
「この森には動植物を調査しに来たものだ。まあ、天上のために色々とコキ使われたからロクな調査はできなかったけど――」
「ガイラル!」
「――でも、役には立っているかな?」
ゼルトナが叫んだ瞬間、木の上から巨大な鳥型の魔獣が飛び掛かっていた。
だが、ガイラルは話しながら鳥魔獣を真っ二つにしていた。いつ抜いたのか分からないうえ、取り回しは決して良くない大剣とは思えない速度でだ。
「ふむ、地上では絶滅したコッカリア鳥だ。確かもも肉が美味かったかな? ゼルトナが料理すれば特に美味そうだ」
「……まあな。それにしてもお前は――」
「言わなくていい。僕はなりたいものにはなれなかった。けど手に入れたものはある。それを踏みにじるというツェザールを殺せる力と思えばこれはこれで良かったのさ」
「モルゲンも操り人形だしな。真面目な男だったがゆえに可哀想なこった」
「……全てツェザールのせいだ。奴を殺さなければ死に切れるもんじゃない」
再び歩き出すガイラルへゼルトナが話しかける。だが、言葉じゃを遮ってはツェザールを殺せばすべてが終わるというようなことを口にする。
「さて、この場所からなら隠れながらタワーへ向かった方が早いか」
「そうだな。事前に目的は伝えてある。どうせあそこへ向かうだろう……っと、どっかでおっぱじまったか」
「そのようだな。ただ、思ったより対応が早い」
少し歩いたところで銃声が聞こえてきた。
ゼルトナが視線を空に上げてから肩を竦めると、ガイラルは対応が早いことを気にしていた。
「助けには……行かないだろうな」
「……ああ。行こう」
集まって進むなら助け合っていくつもりだったがこうなっては各々がやれることをやるしかない
初めに決めておいたことを遂行すると速足になり進んでいく。
「(まったく……本当なら一番に助けに行きたいだろうにな。仲間想いのガイラルの気を散らすためバラバラにしたのだろうが逆効果だ。ツェザールよ、お前にとっての死神が今そっちへ行くぞ)」
ゼルトナはこの戦いにガイラルがどこまでの覚悟を持ってきたのかを知っている。昔の優しいガイラルしか知らないツェザールはこれで不安をあおろうとしていた。
しかしそのことで決着を早くつけるためにツェザールの居るタワーへ急ぎ始めた。
頭を潰せば他も倒れる。
皇帝の地位に長く座っているガイラルはそう舵を切ったのだ。
「……」
「あとはカイル達が地上を抑えてくれている間にさっさとケリをつけねえとな」
「……どうかな? 案外、こっちへ来ているかもしれん。ヤツとケリをつけたいのはカイルとて同じことだからな」
「ふん、確かに大人しくしているタマでもねえか。おっと、お客さんか?」
『なんだ? 老いぼれがいる……? その恰好、地上から来た者か』
カイルの話をしていると木の陰から武装した者と遭遇するガイラル達。こちらを観察して尋ねてくる。
だが、その口が二度と動くことは無かった。
「悪いな。しばらく凍っていてもらおう」
なぜならガイラルが剣を振り、その場に居た敵五人は凍り付いたからだ。
そのまま何ごとも無かったように二人は歩いていくのだった。




