130.
「……行ったみたいだな」
「ええ」
『おじいちゃんと一緒じゃなくて良かったですか?』
「わふ」
ガイラルが転移装置を使って天上へ行ったのを陰で見ていたカイルが二人を呼び、装置の前で呟く。
シュナイダーの背に乗ったイリスは、祖父と一緒が良かったというような目で両親を見上げていた。
「いいんだイリス。お爺ちゃんに言うと来るなって言われるぞ?」
『うう……それは嫌です』
「くぅーん」
カイルが笑いながらイリスの頭に手を乗せると、彼女はシュナイダーの毛をぎゅっと握ってから体を震わせていた。
三人ともいつもの隊服や可愛い服ではなく、完全な隠密装備となっていた。全身黒で対弾、対刃性能の高い今の部隊装備と同じものだ。イリスはカイルが特注で作り、頭も特殊なヘルメットを被っている。
シュナイダーと同じがいいと言うので犬耳がついていたりする。
「先に行っても良かったんじゃない?」
「向こうの状況は恐らく皇帝の方が詳しいだろ? まあ様相が変わっているかもしれないが、あいつの後を追う方がツェザールに近づくのは早い。親父さんを囮にするみたいでお前には申し訳ないと思うけど……」
「ううん。それはお父様が決めたことだからいいの。そうね……向こうで敵が待ち構えていたら私達だけじゃキツイか」
「それもあるな。隠れている間に見失うってのも避けたかった」
そう口にしながらカイルは転送装置に手を伸ばす。操作方法はなんとなくだが頭にある。終末の子のプロトタイプとしてモルゲンが植え付けたものだろうと推測していた。
「……これでいけるな。しかしこれを大昔にか? モルゲンの奴どれだけ頭がいいんだあいつ」
「そんなに凄いの?」
「ああ。こりゃ天上との戦いは一筋縄ではいかないな。俺と同等かそれ以上の装備を持っていると思っていい」
カイルは最後のスイッチを押しながら渋い顔をする。転送板に乗るとエリザとイリスを呼んで並ぶ。そして予測が当たらないことを祈りつつその時は訪れた。
三人と一頭は程なくしてその場から姿を消し、天上へ移動。
そして――
「着いたようだな。エリザ、イリス、シュナイダー行くぞ」
『はいです!』
「準備はいいわ!」
転送装置があった場所は薄暗く、どこかの部屋だった。カイルは研究所の地下だろうと踏んでいたが扉を開けてから目を見開くことになる。
「……!? 森の中だと!?」
「父上たちが地上に降りた時は地下だったのに……」
「恐らく事前にモルゲンが変えたんだろう。とりあえず皇帝達を探さないといかんな」
「装置は壊さなかったのはどうしてかしら?」
「さあな。自分の手で倒したいとか思ってるんじゃないか? 行くぞ」
それほど時間は経っていないからすぐに追いつくと考えていたカイル達だが、意外と森は鬱蒼としており視界が悪かった。
しかし、逆にそれならそれですぐに追いつくはずだが声も戦闘をしている音も聞こえない。
おかしいと思い始めたころ、状況が動いた。
「チッ、どういうことだ。ガイラル様やブロウエル様はどこに? くそ、魔獣が!」
「……! 今のは!」
「わん!」
『お父さんこっちです!』
聞き覚えのある声が耳に入り、カイルが反応するとシュナイダーが一声鳴いた。イリスを乗せたままシュナイダーが前に出る。
そのまま追っていくと、目の赤い動物である魔獣に囲まれている男が居た。
「クリフさん!」
「……!? カイルか! それにエリザ様!? お前達どうして――」
『危ない!』
こっちに気を取られたクリフに熊のような魔獣が襲い掛かる。イリスが声を出した瞬間、その魔獣は眉間を貫かれていた。
「カイル、右から二体、正面は私がやる!」
「了解! クリフさんこっちだ!」
「サンキュー……!!」
『【レーヴァテイン】! シュー行です!』
「あおおおおん!」
イリスは武装を取り出してシュナイダーに合図をした。それに応えた相棒は両親がフォローできない場所へ切り込んでいく。
『ごめんなさい!』
「グルルル……!!」
パイルバンカーの一撃が大蛇の頭を捉えて炸裂する。一撃でバラバラになった大蛇をシュナイダーが咥えて放り捨てると魔獣の群れに威嚇をした。
「よし……!!」
「怯んだ! 今ね!」
魔獣が怯んだ瞬間、カイルはEW-524 アイビスというマシンガンを乱射し、エリザはEW-364 フェゼントというハンドガンでさらにもう一体の眉間を貫いた。
そこで魔獣は全部息絶えて戦いが終わった。周囲を警戒しながらカイルはアイビスを肩に担ぎながらクリフへ向き直る。
「クリフさんだけか? 他の連中は?」
「あ、ああ……助かったよ。俺以外は居ない。お前達は近くにあった転送装置で来たのか? 移動した後、あそこには俺だけだったんだ」
「マジか!? ……あると思ったが細工はされていたってことだな」
「みんな大丈夫かしら……」
カイルが周囲を見渡しながら毒づき、エリザが心配そうに言う。
正直なところ、カイルは安堵していた。エリザはクレーチェに似ているためツェザールが手元に置く可能性がある。そうなれば分断は危ないのだ。
「どちらにしてもここで立ち止まっている暇は無いな。一緒に行こうクリフさん。皇帝に合流しねえと」
「……分かった。ガイラル様が心配だ、急ごう。この森は知っているんだ、こっちから抜けられる」
「そっか、クリフさんもこっちの人間だったっけか。なら心強い。頼むよ」
「任せてくれ。最悪の場合、誰かがツェザールを討つと決めている。だからこのまま突き進むぞ」
「……」
『おじいちゃん……』
クレフはアサルトライフルを持ったまま片手を振り上げて移動を示唆して来た。エリザとイリスは歩きながら空を見上げ、どこにいるか分からないガイラルを心配していた。
「(俺達は三人同じところ、ということは第二陣は考えていなかったということか。俺達も含めて一気に上がると予測していたってことか。ツェザールはガイラルとケリをつけたいと思っていたが、違うのか? それともモルゲンか?)」
カイルは策が少し雑だと感じていた。もし細工をするならそもそも転送できないようにするべきだと。
ひとまず目指すところは一つなので、そこに行けば合流できるかと足を進めるのだった。