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2. 上級国民にお仕置を!

 課金自慢の竜騎士は言う。

「キミ等は幸運だよ。ボク等みたいな一流パーティに負けても恥ずかしくないんだからね」


 竜騎士の隣で重歩兵が喚く。

「速攻で叩き潰してやるよ! 雑魚どもが!」


 その背後では召喚士と女魔導士がクスクス笑っている。

「レベル低っ! おまけに攻撃力3ケタとか」

「だっさ。あんなゴミ倒しても経験値の足しになんないじゃん」


 それを聞いて師匠のこめかみがピクっと動いた。

「やれやれ。困ったお馬鹿さん達ね」


 そう言って師匠は俺より前に出て剣を抜いた。師匠愛用の『レイピア』だ。攻撃力は840。あくまでも表示上は、だが……。


 竜騎士がヘラヘラしながら自慢のエクスカリバーを構える。

「そんな武器で攻撃力5000に対抗しようってか? どっちがおバカさんか教えてあげるよ。貧乏人のお嬢ちゃん達。凹られて泣くなよ?」


 竜騎士の言葉にビッチが「ワ~ コワ~イ」と、無表情の棒読みでリアクションする。


 師匠は深呼吸する。そして「ハアアア……」と、力を溜める仕草をみせる。すると『ゴゴゴ……』と、地鳴りがして師匠の全身に赤のオーラが現れた。


 それを目の当たりにして課金軍団が驚く。

「ちょ、何だそれ……」と、竜騎士が唖然とする。

「へ? 嘘だろ?」と、重歩兵が身構える。

 

 竜騎士が振り返って仲間の召喚士に尋ねる。

「おい! 戦闘力はどうなってる?」

 

 召喚士はオペラグラスを取り出して師匠の戦闘力を計る。

「4000、5000、6000……嘘!? 一万を超えた!? え? まだ上がるの!?」


 多分、戦闘力を計るオペラグラスも課金で手に入れたレア・アイテムなんだろう。だが、そんなものに頼っている時点でダメな連中だ。


 竜騎士は明らかに動揺している。

「マ、マジかよ! そのレベルで? 有り得ない!」

 

 恐らく、竜騎士の戦闘力は課金で底上げされた武器の攻撃力に本人のステータスを足したぐらいだろう。ということはせいぜい6000ぐらいか。

 

 召喚士のオペラグラスが警告音を発して『ボンッ!』と壊れた。

「きゃっ! 何コレ!?」

 

 それを見て竜騎士の顔が強張る。

「どこまで上がった!?」

「わかんない……10万までしか測れなかった」

 召喚士の言葉に竜騎士と重歩兵が信じられないと言った風に顔を見合わせる。

 

 師匠は余裕の笑みを浮かべて問いかける

「確かに武器は大事だけど『練度れんど』は足りてる? キャラのステータスは見た目だけじゃないこと分かってる?」


 戦闘力は武器固有の攻撃力がベースになる。しかし、使用者のパワー・スピード・テクニック、それからその武器をどれぐらい使い込んでいるかが大きく影響してくる。


 竜騎士がワナワナと身体を震わせて剣を構えた。

「ふざけるな! こ、これでも食らえ! ドラゴン・スラッシャー!!」


 早速、『剣技けんぎ』を使ってきたか。まあ、そうだろうな。

 予想通り敵はスタミナを消費して放つ必殺技を仕掛けてきた。竜騎士のそれは剣先にドラゴンのオーラを被せた大きな縦切りだ。


「死ねっ!」と、竜騎士の一撃が師匠の頭上を襲う。

 だが、俺達に緊張感はまったく無い。当の本人である師匠が一番、冷静だ。


 竜騎士の剣先が師匠の頭に触れる寸前『ガキン!』と、剣がぶつかり合う音が響いた。


「な、なにぃ!?」と、竜騎士が動きを止める。


 師匠はレイピアで攻撃を受け止めている。

 竜騎士は両手持ちの全力斬りを繰り出したのに師匠は片手。それも、バイバイする時みたいに軽く手を挙げた程度だ。


これがゲストと転移組の差だ。


 俺達のような転移組は非戦闘時のレベルとステータスが、なぜかカンストしている。なので、俺はいつまでたっても『レベル12』でステータス表示も低い。だが、いったん戦闘状態になると本当の力が発揮される。それも、チート並みに各ステータスの上限が振り切れるのだ。気の毒だけど相手が悪すぎだ。


 師匠は軽く息を吸い込むと「ハッ!」と、一気に吐き出した。と同時にレイピアを振って、竜騎士の剣を払いのけた。剣を跳ね上げられた竜騎士が「うひゃっ!」と、尻もちをつく。


 重歩兵が「野郎! ふざけんな!」と、槍を突き立ててくる。

 が、師匠はその矛先をレイピアで軽く弾く。


 重歩兵は突進をいなされ、勢い余って、つんのめって転んだ。


 師匠は、やれやれといった風に首を振ってからレイピアを構えた。そして一振り。

烈風斬れっぷうざん!」


 出たよ。明らかな手抜き。チュートリアル的な基本技だ。

 だが、その威力は防御自慢の重歩兵を吹っ飛ばしてHPを半分削った。


 信じられないといった顔つきで重歩兵が『2830』のダメージ表示をしげしげと眺める。

「な、何かの間違いじゃねえか?」

 唖然とする課金軍団。


 師匠はクルリと奴等に背を向けると俺の肩をポンと叩く。

「あとは片づけといて」

「え? 俺? やだよ。素人の相手なんて面倒くせえ」

「師匠命令よ」

「ちぇっ。分かったよ」

 仕方が無い。気が進まないが、とっとと片づけよう。


 俺のスキルは敵の防御力無視の会心攻撃。それが連続で発生する『会心連撃』だ。しかも普通の会心と違って与ダメージがえげつない。これをゲストにやってしまうのはイジメに近い。けど、師匠の命令だ。


「悪ぃ。てことで解散な」

 一応、先に謝っておく。なんて律儀な俺。


 竜騎士が激高する。

「ふざけるな! これでも食らえ! ドラゴン・スクリュー!」


 竜騎士ご自慢のエクスカリバーで脇腹を刺された。

 チクっとした。けどダメージ表示はたったの『2』だ。


 あまりのショボさに竜騎士が動揺する。

「ば、バカな! さてはその鎧! チートだな!」

「いや、純正品だよ? 買ったのは町の防具屋だけど」


 竜騎士はヤケ気味に「ふ、ふざけるなぁ!」と、突進してくる。

 それを会心連撃で迎え撃つ。

『ズババババ!』×3で会心9連発。

 ついでに後ろの重歩兵達にも会心を12連発でお見舞いしてやった。


 軽く斬ったつもり。だが、課金軍団を一掃するには十分すぎた。表示される与ダメージ『9999』が奴等の周りに纏わりつく。その合計数字は当然に奴等のHPを軽くオーバーしている。


 即死の判定を受けて竜騎士の身体が透けていく。

「畜生! なんでこんなにダメージ喰らうんだ!?」と、竜騎士は涙目でご臨終。


「有り得ねえ……こんなゴミ共に」と、重歩兵は天を仰ぎながら消えていく。こちらも即死でご苦労様。


 巻き添えを食った召喚士と女魔導士は「最悪」「信じらんない」と、ブーブー言いながらこちらもあっさりゲーム・オーバー。

 課金軍団が落としたアイテムには興味ないので全部換金を選択した。


 奴等が消えたところで師匠が吹き出す。

「ぷっ、どっちがゴミなんだか」


 俺が呆れて「ゲスト・プレイヤー相手に大人げないなぁ」と言うと、師匠はムキになって言い返す。

「いいでしょ! だってムカついたんだもん」


 気持ちは分かる。まあ、絡んできた方が悪いんだし、金持ち自慢も糞ウザかった。まあ、オーバーキルした分、奴等のレベルは引き剥がされるので、十分お仕置きになっただろう。 


 このゲームでは、HPがゼロになる時にそれ以上のダメージを負った場合、足りないHPを補填する分のレベルを消費してしまう。なので、俺の火力で死んだ彼等は、かなりレベルが下がったはずだ。


 魔法少女ビッチが師匠をなだめる。

「マァマァ。オレ君の『レベル剥ぎ』で罰は与えたんだし」

 武装幼女のミルクも「フゥィィ」と、頷く。


「そうよね」と、冷静になった師匠が計算する。

「あの様子じゃ30ぐらいレベルが下がったんじゃないかしら」


 超火力の『会心連撃』によるオーバーキル。表示上はマックスの『9999』ダメージだが、それ以上のダメージを与えているのは確実。なにしろ、何十倍もの倍率で威力が跳ねあがる会心攻撃が、相手の防御力や耐性に無関係で入るぶっ壊れ性能だ。それが九割以上の確率で発生する。


 チートと言われようと仕方が無い。転移したら勝手についてきたスキルなんだから。


 とにかく俺達、転移組は旅を続けるしかない。この先、何があるか分からないし、元の世界に戻れる保証は今のところ……無い。


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