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[プロローグ]始まるか、新しい“俺”

 

 何事もスタートが肝心だと僕は思う。それが人付き合いだろうと勉強だろうと、恐らく恋であろうと。出だしで失敗するということは、消し去り難い先入観と...そしてトラウマを植え付ける。要するに、良いスタートを切るということは良い今後に繋がるということだ。これは僕の経験由来の信条である。


 

 中学校生活も早3年。僕の青春は、良い意味で...とは言えないが何事もなく平凡に過ぎていき、そして...今高校生活が始まろうとしている。


「このまま何事もなく大人になって人生を過ごしていく...幸せではあるけれど、せめて恋くらいしてみたかったよなぁ...」


 まるで未来永劫その可能性がないみたいに最近よく更けてしまう。嫌気が差した僕は、デスクトップに置かれた新品のカレンダーを手に取る。


「いや、明日から...明日から自分を変えるんだ...!友だちが1人しかいなかった僕だけど変わるんだ...!」


 丸で印をつけた“明日”へ向かい、言い聞かせるように呟く。消極的な性格を直せばきっと、きっと良くなる。

 僕は横になり、決意の眼差しをそっと瞼で遮った。



「うっ、すみません...」


 新学期早々、鬱になるような混み具合。リュックを背負ったままで邪魔だったのか、誰かに舌打ちされ、周りから少し視線を浴びた。...やっぱり明日から鞄で行こう...


「あれ...おかしいな昨日5000円チャージしたのに...!」


 小一時間、満員電車に揺られ、やっとのことでたどり着いた駅でも待ち受けていた受難。なんでだろう。ICカードをタッチしても改札が開かない。

 手馴れた動作で横を通る人々に「なにやってんだ」と言わんばかりの目で見られ振り返るも、後ろには誰も並んでいない。もたもたしていたから横の改札を通ったのだろう。通勤通学の世界は競争でもしてるのか。これは気の弱い人にはなかなか辛いだろう“俺”含め。そしてこれまた手馴れた動作で改札を通ったスーツの女性に、「そこ故障中ですよ」と微笑まれた。よく見るとそんな貼り紙があった。...なるほど。後ろに待たせる人なんて、そもそもいなかったわけだ。


「くそぉ、高校初日からなにやってんだ、“俺”。昨日自分を変えるって恥ずかしくなりながらも言ったんだぞ」


 と、またひとり呟く。前々から指摘されるが、俺は独り言が多いらしい。


 俺、陽乃(はるの) 優真(ゆうま) は、名前の通り字の通り、みんなにはのんびりしていて優しい真面目なやつ、と思われていると俺自身は感じていた。が、しかしそんなのは俺の思い上がりで...本当の周囲の評価はというと、もたつく、無口、ノリが悪い...それはそれは悲惨であった。終いには「うちのクラスに The・陰キャって感じのやつがひとりいてさぁ」という女子の会話が聞こえてくるまでになっていた。

 そんな俺も、今日から高校デビューなのだ。今まで浪費してきた青春を謳歌しようと、一人称も変え、慣れない美容室にも行き、髪型も整えて、「The・陽キャ!」までとはいかなくとも明るい印象にしてきた。少なくともそんなつもりでこの「4月6日」という日に意気込んできたわけだが...


「朝からあの有様じゃあなぁ」

「うるさい!先が思いやられるとか言わないでくれよ...ていうか、いつから見てたんだ俺の事...」

「そこまでは言ってないって...あぁいつから見てたか、と言われると最寄り駅でお前が降りたところからだな」

「早くも俺の醜態を晒してしまったわけか...」

「あぁ、しばらくは話のネタにしてやるよ。それとさ、やっぱ『俺』って似合わねぇな!」


 ここまではっきりとした嘲笑はむしろ気持ちがいい。無論、良い意味ではない。


「もういいよ、朝からそのテンションはきつい。疲れる。...はぁ、それにしても、なんだかんだお前と一緒で良かったよ、波音」

「照れること言うなよ〜。ま、俺もお前と一緒で嬉しいぞ、優真」


 ...実に腹立たしい言い方なことだ。最寄り駅を降りて合流した「こいつ」波音(なみの) 叶芽(かなめ) は、女々しい名前の割に俺とは正反対なキャラであり、中学の頃からモテまくっていた上、必然的に友達も多かった。聞けば「彼女くらい今のところずっといるわ」などという「憎たらしい」、この言葉が似合う最高の人物だ。

 そんなヤツだが、俺が小学4年生の頃に彼がクラスに転校してきて以来、こんな口調で話せる唯一無二の友人だ。中学時代、何故こんな俺と仲良くしてくれるのかと聞いた時は、「みんな誤解してるけどお前って結構喋るし、明るいし、一緒にいて楽しいし、もっとお前のクラスでも自分を出せよ」なんて言われたことがある。そう、憎たらしいが憎めない、いいヤツなのだ。実際、高校も同じ所に行こうと決めて、2人で勉強を頑張った冬を、今でもつい最近の事のように覚えている。


 そんなこんなで話しているうちに、ちらほら同じ制服の同級生、先輩らしき人達が目立ち始めた。両親と来ている人も何人か見当たる。都会にしては少し小さめの駅を降り、住宅街に入り右に1回、真っ直ぐ行って左に1回曲がった先に、俺たちの通う学校がある。「都立 華日蘭はなひら高等学校」―――。これまた華々しい名前であるが、その字の通りつい3年前までここは女子校であった。男子の卒業生はまだいない。新3年生が初代になるようだ。


「でさ、お前は彼女作りたいと思ってるのか?」

「そりゃそうだ、それもあってわざわざ同じ中学のやつがいなさそうなところを選んだんだからな...!」

「そうかそうか。ん、ならお前あの子とか好みなんじゃないか」


 少しにやけて正門の前を指さした。

 さすが、波音はよくわかってらっしゃる。学校名が彫られた石碑を嬉しそうに見つめる、確かに俺の好みに近い大人しそうな子が立っていた。髪は少し長めで下ろしている。なかなかのスタイルで、それでいてあどけなさが抜けていない、「美しい」より「かわいらしい」が似合う見た目の女の子だ。と、我が物顔で考察している途端、偶然振り返った彼女と、ばっちり目が合う。


「あっ」


 ...そりゃそうだよな。女子は周囲の視線に敏感だと聞いた。男子2人が揃いも揃って凝視していることに気づかないわけもなく、彼女は逃げるように校舎のほうへ去って行った。


「邪魔しちゃったな...」

「まぁでも顔、覚えてもらえたんじゃないの」


 早々落ち込む俺に追い打ちをかけるのか。というかお前も共犯だぞ...!俺は皮肉混じりの言葉で波音に言い返す。


「...悪い意味でな」



 はじめまして。加郁です。こういった小説を書いてみるのは初めてです。プロローグはここで終わりですが、これから執筆していきます。本編もお楽しみ下さい!

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