ギガモスラッシャー
突如10年前、日本に怪物が上陸した。
その名は"ギガモンスター"。
それは各地で暴れ回り、沢山の人間を不幸に陥れた。
そんな最悪の災厄に立ち向かうべく結成された組織"ギガモ対策センター"。
世界中で"超人"と呼ばれる人々がそこに集まっていた。
そして、彼らの戦いは遂に最終局面を迎えようとしていた......
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「遂に追い詰めたぞ!"ギガモンスター"!」
"ギガモ対策センター"第一部隊長の"タケル"が、叫んだ。
タケル他4名の隊員達はタケルの少し後ろに立ち、陣形を組んでいた。
ここは、ある高層ビルの屋上。
全員が見つめる先には、"ギガモンスター"が瀕死の状態で、座り込んでいる。
「ぐぬぬ......我もここまでか......」
ギガモンスターが弱音を吐いている。
「皆!最後だからって気を抜くなよ!"ギガモスラッシャー"でいくぞ!」
"ギガモスラッシャー"とはギガモンスター攻撃用に開発された超人技の一つだ。
「おう!任せろ!」
そう言ったタケルの同僚のヤマシタはタケルの真後ろに立った。
そしてタケルの両足を持つと同時に、タケルは地面へとうつ伏せで寝転がった。
「よし!始めてくれ!」
タケルの合図と同時にヤマシタはタケルを持ちあげて自ら回転し始めた。
ヤマシタは"ハンマー投げ"でオリンピックの金メダルを取った男だった。
ヤマシタのジャイアントスイングは段々と速度を増していく。
タケルは腰のナイフを抜いた。
"ギガモスラッシャー"とは、
[ナイフを持ったタケルをヤマシタがハンマー投げみたいにして、敵に飛ばす]
という、大変斬新な技だった。
タケルは普段より速い回転に驚くと共に、喜びを覚えた。
(やはり最後とあって、ヤマシタも気合の入り方が違うや)
タケルはこれまでのヤマシタとの日々が走馬灯のように脳裏に浮かんだ。
--全然敵がいない方向へ投げ飛ばされ、大けがを負ったこと。
--回されている内に目が回って、途中でゲロを吐いてしまったこと。
--その日から"回転ゲロ隊長"と、センター内で陰口を叩かれていたこと。
あれ、おかしいな。目から水が。
タケルは首を横に振って、嫌な思い出を吹き飛ばすと、大きく息を吸った。
後はヤマシタに発射の合図をするだけだ。
「よし、ヤマシタ!い......」
その瞬間、頭に鋭い痛みが走った。何かにぶつかったらしい。
ヤマシタは衝撃に驚いたのか手を放してしまう。
タケルは屋上の鉄のフェンスに凄い勢いでぶつかった。
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「あの、ちょっと待っててね。今からお説教タイムだから。これ大事なのよ。」
タケルがギガモンスターの傍まで来てそう告げる。
ギガモンスターは、タケルの姿に引き気味で、素直に首を縦に振った。
タケルは右足を引きずりながら、仲間の元にゆっくりと歩を進めた。
後頭部には大きなたんこぶが出来ている。
タケルは仲間の元に辿り着くと、開口一番にこう言った。
「で、誰?」
仲間たちは皆一様に、下を向いている。
タケルは怒りに震えている。
「誰が俺の頭を殴ったんだって聞いてるんだよぉぉぉ!」
タケルがそう叫ぶと、ヤマシタが言いづらそうに呟いた。
「マキノが、やった」
タケルがマキノを睨みつけると、マキノはあからさまに目を逸らした。
「おい、マキノ」
タケルがドスの効いた声でそう言うと、マキノはビクッと体を震わせた。
「"ギガモスラッシャー"中は危ないから、離れておくように言ってるだろ!」
マキノは頬を膨らませる。
「ちゃんと離れてましたよー」
タケルは地団駄を踏んだ。
「離れてたなら、どうして俺の頭にこんなタンコブが出来てるんだよぉ!」
タケルが怒鳴ると、マキノは手に持ったバトミントンのラケットを見せつけた。
「これで狙い撃ちしました。強化ラケットと鉄のシャトルを使って」
そう自慢げに告げるマキノはバトミントン個人で世界ランク一位だった女だ。
強化ラケットは筋力がなくとも、100kgの物でも軽々打つことが出来る代物だ。
「なんでそういうことするの!危ないじゃん!」
「だって、ギガモンスターを倒した人って歴史に乗りそうじゃないですか....」
マキノは頬を赤らめて、もじもじしている。
「私じゃ、駄目ですか?隊長......」
マキノが上目づかいでタケルの方を見つめる。
タケルは少し頬を赤めて、気圧されたように、一歩後ろに下がった。
そんなタケルとマキノの間に、大男が割って入ってきた。
ヤマシタだ。
「おい、マキノ。あんまり隊長を困らせるんじゃない。それにな」
「隊長は俺と一緒にフィニッシュを決めることを既に決定したんだ」
「だから、お前が何て言おうと"ギガモスラッシャー"で決まりだ」
ヤマシタが腕を組んで、マキノを見下ろす。
マキノも負けじとヤマシタを睨みつけている。
「そんなことないよ!絶対私との連携技"タケルスマッシュ"の方がいいよ!」
"タケルスマッシュ"とは
[飛び上がったタケルをマキノが全力でスマッシュして敵にぶつける]
という大変シンプルな技だった、
マキノに誘発されたのか、残りの隊員であるタケウチとヨシダも口を出す。
「いや、違うだろ。最後は絶対俺との連携技"タケルシュート"がいいぜ!」
「おいおい、そんな下らないのより俺との"タケルブレード"をやるべきだ!」
"タケルシュート"とは
[強化シューズでタケウチがタケルをボールに見立てて敵に蹴り、敵にぶつける]
"タケルブレード"とは
[強化籠手でヨシダがタケルを剣の様に持ち上げ、そのままに敵に切りかかる]
という技だった。
「そもそもよぉ。いつも"ギガモスラッシャー"ばっかりじゃんかよぉ」
タケウチが不平を漏らす。
「だよなぁ。偶には俺らとの連携技も使って欲しいよな。折角考えたのに」
ヨシダもそれに乗っかる。マキノもうんうんと首を縦に振っている。
「どうして、隊長はヤマシタさんとばかり連携技をするんですか?あっ.....」
マキノは何かに気づいた様子で、ニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべた。
「ひょっとして、二人って付き合ってるんですか......?」
"えーっ"とタケウチとヨシダは顔を引きつらせる。
「ば、ばか。俺とた、隊長がそ、そんなわけないだろ!!」
明らかにそんな訳ある感じでヤマシタが動揺し、ちらちらとタケルの方を見る。
タケルはどっと疲れが肩にかかるのを感じた。
「ヤマシタと付き合ってる訳ねぇだろ。男同士だぞ。俺ら」
ヤマシタが"そ、そうだぞ..."と弱々しくタケルに同意した。
「それに君たちと連携技をやらないのにはちゃんと理由がある.....」
マキノが真剣な表情でタケルを見て尋ねる。
「り、理由って......?」
タケウチとヨシダもタケルの次の言葉を待っている。
タケルは何でこいつらは分からないんだと、ため息をついた。
「それはな......お前らの考えた技が.......」
タケルは大きく息を吸い込んだ。
「全部俺が痛ぇからだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
タケルは空に向かって吠えた。
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それから、10分後。
話し合いの結果、タケルが大変妥当な案を出し、それを実行する運びとなった。
"全員で一斉に個人の必殺技をギガモンスターに決める"
連携技とか言い出すから、争いが生まれるのだ。
人は生まれるときも、死すときも一人ぼっちなのだから -byタケル-
「よし、随分待たせたな!ギガモンスター!さあ、決着を.....」
全員がギガモンスターのいた方角を見ると、そこに彼はいなかった。
「あれ?ギガモンスターは......?」
マキノがキョロキョロと辺りを見渡すが、どこにも彼の姿が見えない。
彼は人間達が醜い諍いを起こしている隙を見て、逃げ出してしまったのだ。
こうしてまた、恐ろしい"ギガモンスター"は地上へと解き放たれた。
このことから分かるのは人間の"目立ちたい""傷つきたくない""誰かに愛されたい"という感情が得られるはずだった"成功"とり逃がしてしまう原因になるということだ......。今回は失敗に終わってしまったが、必ずやこのことを反省し、次回の成功に繋げていきたいと思う -byタケル-
-ギガモスラッシャー- -終-