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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

青髭王の三人のシンデレラ

作者: Ash

 青髭王は一人目の(シンデレラ)を不貞で処刑し、二人目の(シンデレラ)を病で亡くし、三人目に迎えた町娘だった(シンデレラ)とそれは幸せに暮らしたと記録に残されている。

 だが、二人目の妃が死ぬ数日前から許しを請い続けていたことは近年、ある家で見つかった日記にしか記述がない。




 青髭王の一人目の妃は男爵令嬢だった。この女性は不貞を理由に妃の地位を剥奪され、不貞相手たちと共に処刑されている。

 一国の世継ぎの王子が婚約者もいなかったとは考えられなかったので調べた過去の学者によると、元婚約者は他国の男に唆されて国の機密を渡していたらしい。彼女は修道院に送られる前に毒杯を賜って死んだそうだ。

 そして、寵愛していた男爵令嬢を妃に迎えたようだ。

 男爵令嬢ありきで元婚約者が死ぬことになったのか、本当に元婚約者が罪を犯したのかはわからない。

 しかし、婚約がなくなったとは言え、次の結婚相手が貴族とは名ばかりの男爵の娘になったことは不審である。通常なら他国の王女であったり、自国の伯爵以上の家の娘から選ぶはずだ。

 この不審な点は一人目の妃の不貞相手たちの素性から青髭王の元婚約者の罪はでっち上げだったのではないかと言われている。それどころか、青髭王が貴族たちの力を弱める為に元婚約者を嵌めたのだという説もある。

 事実、一人目の妃の不貞事件で多くの貴族たちが処罰された。不貞相手たちとその実家。そして、一人目の妃との結婚を後押しした貴族たち。

 身分の違う恋人にのぼせ上がっていた熱が冷めたというにはあまりにも凄惨な結末だった。この結末により、貴族たちの力は削がれ、絶対王政の世になったという。



 二人目の妃は青髭王に望まれて妃となった。この方も身分は高くなかった。見初められたのは元婚約者の取り巻きだったからだという。

 男爵令嬢を妃にしたことで、寝取られ夫と称された青髭王は貴族としてふさわしい品格のある女性を次の妃にと選んだそうだ。

 一人目の妃の手酷い裏切りでできた傷を癒そうとするかのように青髭王は妃だけではなく、多くの花を愛でた。二人目の妃はその心痛で亡くなったと言われている。

 後世に見つかった日記では何かを謝っていたというから、心痛は夫の浮気だけではなかったようだ。



 三人目の妃は町娘だった。商家の遠縁の娘だそうだが、両親は既に亡く、遠縁の世話になって生きていた。

 お忍びで出かけた青髭王に見初められた三人目の妃は、二人目の妃同様に前の妃が死ぬと妃に迎えられた。

 当初は二人目の妃と同じように数ヶ月で亡くなると思われたが、青髭王の浮気癖はピタリと止まり、三人目の妃は何人も青髭王の子どもを産んで、彼の人生に華を添えた。



 後世に伝わっている青髭王の肖像画は独身の時のものと、この三人目の妃がいた時代のものだけである。

 幸せそうな青髭王とその家族の肖像画にその当時の不穏な世情は窺えない。

 しかし、一人目の妃と二人目の妃の肖像画は伝わってはおらず、青髭王の命で破棄する記述すら残っている。その当時、何があったのか、今の我々では推測しかできない。

 だが、一人目の妃と二人目の妃のことを青髭王が嫌っていたことだけはわかる。


 それは近年見つかったこの肖像画がすべてを解く鍵となるだろう。


 青髭王の三人目の妃と思われる女性がまだデビュタントにもなっていないだろう年頃の肖像画。この国では取れない真珠で髪を飾り立てる少女は裕福な貴族としか思えない服装をしている。三人目の妃は商家の遠縁の娘だった。それでも、このような服装をすることまでは許されていない。


 見ているうちに私は既視感に襲われて、青髭王の肖像画を見に行った。

 家族の肖像画の三人目の妃の隣にあの少女の肖像画を持ってくると、まったく同じ笑顔がそこにある。


 青髭王の肖像画を管理している学芸員に声をかけ、少年時代の青髭王の肖像画を持って来てもらう。

 まだ少年である青髭王も家族の肖像画と同じ笑顔を浮かべている。


 家族の肖像画から青髭王と三人目の妃をこの少年少女の肖像画に置き換えても、何ら違和感はない。


 少女の肖像画の来歴を調べるうちに出て来たのは、青髭王の婚約者の家名。


 ああ、青髭王は婚約者を愛していたのだ。婚約者もまた青髭王を愛していた。

 しかし、二人はそのまま結婚することは許されなかった。

 それ故に、青髭王は婚約者を隠し、二人の妻を娶り、貴族の力を削ぐしかなかったのだろう。




 ◇◆




 国の重鎮たちの令息たちが一人の少女に熱を上げていることは彼女も知っていた。婚約者を蔑ろにし、少女に金品を貢ぎ、恋人気取りで付き纏っているのも知っていた。

 しかし、それは彼女には関係ないことだった。彼女と婚約者は愛し合っていたから。

 令息たちの婚約者に懇願され、彼女はようやく事態に対処した。

 本来なら、令息たちの愚行は令息たちの家がなんとかするもので、彼女がなんとかするようなことではなかった。令息たちの家でなければ、婚約している令嬢の家がどうにかするべき問題だった。

 だが、令嬢たちは歳の近い彼女に何とかするように言ってきた。

 自分では手に負えないからと、親に頼らず、格上の彼女に頼んでくる傲慢さ。それはこの国の貴族の姿そのものだと彼女が気付いたのは、彼女がすべてを失ってからだった。


 彼女の愛しい婚約者は険しい顔で令息たちの愛する少女の横に立つ。令息たちは出しゃばった彼女に対する罰として、彼女の婚約者を少女と結婚するように仕向けたのだ。

 重鎮たちの利害が一致しないことで保たれていた均衡は、自分たちの誰かの孫が王位を継ぐ話で破られた。 傀儡の王はいつ裏切るかわからない。しかし、王を弑して自分が王位に就けば簒奪者。王位に就いた人物が自分の孫なら祖父として好きにできる。王太子妃が誰の子を産もうが、誰の子かわからなければ自分の孫かもしれないと重鎮たちは考えたのだ。

 王太子だった彼女の婚約者は少女との結婚を押し付けられ、冤罪をかけられて排除された彼女は死ぬことを強いられる。すべては重鎮たちの孫が王位に就く為に。


 婚約者は令息たちに愛された少女を妃とし、彼女を死んだと匿いながら、妃とその愛人たちを処刑できる時を待った。

 だが、それで彼女はすぐに婚約者の下に戻れたわけではない。

 婚約者は彼女の取り巻きをしていた令嬢と再婚した。


 彼女は苦しんだ。

 一度目の婚姻は重鎮たちをはじめとした貴族たちに押し切られたものだった。

 しかし、二度目は違う。婚約者の意志だった。

 婚約者に忠誠を誓う家に預けられ、貴族たちの目に触れないように人目を避けて暮らしている生活で家事をするよりも、婚約者が他の女と自分の意志で結婚したことがつらかった。


 毎日のように彼女の下を訪れ、愛を囁かれたとしても、彼女の苦しみは和らがない。

 婚約者は必ずあの裏切り者の下に戻って行くのだ。彼女が他国の間者に入れあげて、便宜を図っていたと証言したあの嘘吐きな令嬢のところに。

 妃たちには人目がない場所では指も触れていないと婚約者が誓ってくれても、彼女の心は嫉妬に苦しめられた。


 あの取り巻きの令嬢が実家の利益の為に嘘を吐いたのはわかっている。

 それを婚約者が許せなかったことも。

 取り巻きの令嬢と再婚したのは婚約者の仕返しだった。望まれて結婚しながらも、他の女性たちを侍らす夫に捨て置かれる妻。夫からは決して得られることのない愛。そして、夫以外に愛を求めてはいけない立場。

 実家の為に自分が引き裂いたものがどのようなものだったのか、味合わされる地獄は彼女にも返って来た。


 婚約者が女遊びをしている時間は彼女と一緒にいる時間だというのに。遊び相手に選ばれた女性たちが名前を使われることを納得しているというのに。

 それなのに、彼女の苦しみは和らがない。


 取り巻きの令嬢を充分、苦しめて毒殺した婚約者は巷で噂されているように妻を殺す青髭なのだろう。

 それでも彼女は婚約者を愛しているから、三人目の妃になる。

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