二度目の冬(その4)
DXホールはJRのターミナル駅から歩いて10分ほどの、大きな公園の端っこにある。
周りには大きな広場があるが、ホールの入り口に通じる道は広いながらも一本しかなく、道を間違えることはない。
開演1時間前だが、すでにホールの前は大勢の客でごった返していた。
いわゆる「普通のファン」の他、パンクスたちの姿もちらほら見受けられる。
松下のおばちゃんは約束した広場の隅っこでみんなを待っていた。途中、何人も知り合いに会った。
みんな、今日という日を楽しみにしていた。
アイヴィーは、みんなの誇りだ。
「おばちゃん、お待たせ。」
ゴンちゃんとショージが向こうからやってきた。ゴンちゃんはギターケースを担いでいる。
「ゴンちゃん、ギターなんか中に持ち込めるの?」
「いや、ダメだ。でもこの近くに、絶対に見つからない隠し場所があるんだよ。ジャッキーが来たら、ちょっと行ってくる。」
「盗まれちゃったら大変でしょ?」
「大丈夫、前にも何回か隠したんだけど、絶対に分からないから。今日、オール(・ナイト)でイヴェントだからさ。楽器持ってこないと、仕方ないんだ。」
ベースを背負ったジャッキーが向こうから歩いてきた。だいぶ青い顔をしている。髪の色も青だった。
「ジャッキー、何だその顔。」
「眠れなかった…。」
「緊張しすぎだろ。お前、演奏する訳でもねえのに。」
「失敗したらどうしよう、って思うと…。」
「しょうがねえなあ。行くぞ、楽器置きに。」
ほどなくミッチも到着した。5人は適当な陰に身をひそめた。
「おばちゃん、カメラ出して。」
「はい、これとこれと…本体はかなり大きいわよ。」
「まあ、何とかするよ。」
「どこに隠すの?」
「それは、おばちゃん知らない方がいいぜ。使うとき、ちょっと生暖かいと思うけど気にすんな。」
「えーっ。ちょっと、今から計画中止…って、わけにはいかないわよね。」
「臭いはつけないようにするからさ。」
「もう、止めて。聞きたくない。」
どうにか全員がカメラの部品を隠し終わった。
「これで大丈夫なの?」
「金属探知機を使ってたら、どっちにしてもアウトだ。でもまあ、多分大丈夫だろ。」
「普通、カバンの中をチェックするだけだからな。」
「それに俺たち、金属は身体中にくっついてるから。」
確かに、3人とも鋲ジャン(鋲を打ち付けた革ジャン)、鋲ベルト、弾丸ベルト、鋲リストバンド…。
「見つかったら、運がなかったと諦めるさ。少なくとも本体だけあれば写真は撮れるだろ、ピンボケでも。」
「そうだな、本体を持ってるのは…ショージかよ。よりによって一番大事な本体を、一番不安なやつが…。」
「なに言ってんだ、この計画の発案者は俺だぞ。任せておけ。」
「とにかく行こう。バラバラに入場するぞ。一人でも見つかったら、周りも怪しまれる。」
「よし、俺が先頭だ。みんなついて来い!」
「だからバラバラに行くって言ったばっかだろ。やっぱりお前の本体、俺によこせ!」
松下のおばちゃんは、自分自身はカメラ機材を持っていないにもかかわらず、心臓が飛び出しそうだった。
しかしそんな心配をよそに、全員に疑いの目が向くことはなく、すんなりと入場することができた。
まずは第一の関門を突破。ここからが重要だ。
DXホールのエントランスは、グッズを買い求める人々でにぎわっていた。
「松下さん、いたいた。」
肩を叩かれたので振り返ると、タダシだった。フリちゃん、ケンジも一緒だ。
「タダシちゃん。みんなも来てたのね。」
「はい。すごく楽しみです。」
ゴンちゃんがタダシを横に引っ張って行って、何か耳打ちした。タダシは真剣な顔でうなずいている。
「俺たちが何をやるか話しておいた。いざというとき周りで盾になってくれるように、仲間連中に話を回してくれるってさ。」
「頼もしいわね。」
「ああ。本当は純粋にライヴ観させてやりてえけど…でも、シンのためだって言ったら、喜んで協力するって。」
「シンちゃん、トラブル・メーカーみたいに扱われてたけど、本当はみんな分かっているのね。」
「大事な仲間だからな。」
メイン・ホールは、既にギュウギュウ詰めだった。
こんな時パンクスは得をする。周りを威嚇しながら、人を押しのけて前へ前へ進んだ。悪気はないんだ、ごめんよ。
「良かったな、座席指定かと思ったぜ。」
ゴンちゃんがみんなを笑わせた。
ジャッキーは青い顔をしている。
ショージはキョロキョロしている。
ミッチはいつも通り冷静だ。
真ん中に、松下のおばちゃんが隠れるように歩いていた。
カメラはまだ取り出していなかった。
ライヴが始まってから、喧騒にまぎれて組み立てるつもりだ。
真ん中過ぎまで進んできたとき、客電が落ちた。
歓声が地鳴りのように下から湧きあがった。




