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第零話 ウラク

2017/8/5 プロローグ追加。

 暗い。そして、キラキラと煌く点々とした光。

 宇宙のような壮大な空間。光を覗けば、大きな大地。一方別の光は青々とした空。片や人々が絶え間なく街を闊歩かっぽする。

 光が無数に散らばり、ふわふわと浮いている。光は決して重なる事無く、儚げに煌いている。



 ここは何処なのだろうか。

 意識が朦朧としている。ただふわふわとした光を見つめて、流れて行くのを観察している。

 単純に綺麗だな……と言う思いが私の中にある。いや、それだけしか無い。

 何も覚えていない……いや、違う。恐らく、まだ何もしていないのだろう。

 考える事は出来ても、記憶は無く知識は蒙昧もうまいだ。何もわからない。ここが何処かも、私が何なのかも。



「やぁ、こんにちわ」



 後ろから、声を掛けられた。青年の様な男の声。優しげで、何故か心が落ち着く。安心感を覚える声だ。

 そして、言葉も理解できた。私は乏しい知識から、会話を試みる。



「ん……今日こんにち……は」



 後ろを振り向いて、私は挨拶する。

 声の通り、そこには青年が立っていた。黒衣を纏った青年が、にっこりと笑って私に応えてくれる。



「うん、よくできたね。偉い偉い」



 頭を撫でられる。

 このなんとも言えない感覚はなんだろう。考えてもわからない。

 私は立ち上がる。少しふらついたが、問題なく青年と向き合えた。

 どうやら私は、彼よりも少し背が低いようだ。と言っても、誤差の範囲だろう。



「君、自分の事がわかるかい?」

「え…………いや、私……? えっと……その」



 覚えていない。何も知らない。自分の呼び方すら曖昧だ。

 何も応えられずに吃ってしまう私に、彼は優しく話してくれた。



「そうだよね、今の君は空っぽで、答えられないのは当然さ。少し意地悪だったかな……ごめんね。これから少しずつ覚えて行けばいい。いいかい? 僕の名前はウラクって言うんだ。よろしくね」

「ウラク……」

「そうそう! やっぱり人が元だと理解が早いね。今後が楽しみだ」


 

 青年は再度、私の頭を撫でた。その態度は宛ら父親だ。

 若い彼とは不釣り合いな表情に、私は思わず吹き出した。



「おや? ……フフ、どうしたんだい?」

「ん……、わかんない」



 自分でも、なんで笑ってしまったかがわからない。

 なんとなく、おかしかったのだ……と、彼に伝えた。

 そしたら、彼はまた優しく笑いかけて答えてくれた。



「そうだね。楽しくて笑う、腹が立って怒る。悲しむ。全部、なんとなくでいいのさ。考えたら疲れちゃうしね。君は特に……その感情から生まれたのだから」

「……?」




 感情から生まれた? 何を言ってるのかわからない。

 第一、私が何なのかすらわからない。さっき人がどうとか言っていた。という事は、私は人……なのだろうか。

 私が首を傾げていると、ウラクは更に問いかけてくる。



「今は何もわからなくていいさ。これから知っていくだろうからね。ところで……先程からそわそわして、何か気になる事でもあるのかい? 何か探しているようだけど」



 何のことだ? と、思ったがすぐに理解する。

 無意識に、腰の横辺りや、首の後ろなどを手で探っていた。

 私の頭の中に、一つの物が浮かび上がる。私と切っても切れない、大事な物だと心で、感覚でわかる。



「刀……」

「ん? どうしたのかな?」 

「刀……どこ……?」



 いつも肌身離さず持っていた。そんな記憶はないのに、いつも持っていたように感じる。無いと不安だ。不安で仕方がない。

 どこに行ってしまったの? 私は何度も身の回りを探る。

 私が只管にそれを探していると、ウラクは私の手を取って制止する。



「刀……か。うん、そうだね。君なら当然欲するだろう。でも、ごめんね。今は無いんだ」

「無い……そう。そうなのね」



 とても悲しくなった。何故だろうか。

 まるで、私の存在意義が無くなったかのような……そんな虚無感が私を襲う。

 だが、ウラクは私の手を取ったまま、横に並ぶ。そして、私にまたにっこりと笑いかけてくれた。



「付いておいで。君に色々と教えてあげよう。君はきっと特別で、とても偉大な……悪魔になれるよ」

「――うん」



 ウラクは歩き出した。私も、ウラクに合わせて歩き出す。

 私の大事な物は無いけれど……彼が私を導いてくれる。教えてくれる。

 悪魔……何を言っているのかわからないけれど、今はなんでもいい。

 妙な安心感を覚えながら、私はウラクに付いて行った。

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