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 少女が少し遅れて約束の場所に足を踏み入れた時、相手の子は薄暗い広場に立って手持ち無沙汰気味にスマホを眺めていた。

 こんばんは、と声を掛けようとして少女はためらった。今の自分たちの関係にはちょっと相応しくない挨拶な気がしたのだ。

 幸い、すぐに相手がこちらに気付いてくれた。初めて会った時と同じ、魅力的な笑顔が少女を迎えてくれる。

 顔もスタイルも良い美人さんで、一年年下なのに自分より遥かにしっかりしているところと合わせて、素直に羨ましいと思える相手だった。


 こんばんは。この場所、迷いました?

 いえ。実は早く来すぎちゃったの。コンビニで涼しもうと思ったら意外に遠くって。遅れてごめんなさいね。

 大丈夫です。今日は蒸し暑いですもんね。


 高校三年生と二年生。二人のたわいない会話がその後もしばらく続いた。

 会って話すのはこれがまだ二度目で、少女は結構な人見知りのはずなのに、波長が合うのか同じ境遇同士の気安さか、あるいはもう二度と会えないという意識の故なのか、相手の少女とは昔からの友達のように話すことができた。

 ふと思う。

 別の出会い方をしていれば、二人は友達になれたのだろうか。それとも、こういう出会い方をしたからこそ、友達のように話せているのだろうか。


 不思議よね。

 え?

 私たちこれから、──をするのに。

 そう……ですね。


 応えた少女の笑顔が翳る。それが合図になったのか、二人の間の空気が少しずつ張りつめていった。周囲を取り巻く闇も、その中から二人を見つめる影たちも、おそらくはまた。


 どうしてだろう、と思わなくもない。

 魅力的だと思えるのに。友達のようにも感じられるのに。なのにどうして、他のどの感情よりも強く、ひたすら狂おしいほどに、──てしまいたい、と思ってしまうのだろう。


 少女は手首から腕時計を外した。中学入学時に兄がくれたプレゼントは、携帯やスマホで時間がわかるようになっても変わらず身につけているものだ。

 片や、目の前の少女は丁寧な手つきで髪留めを外していた。彼女にとってはそれが、あの時切に願った想いを象徴するものなのだろう。自分にとっての腕時計と同じように。

 互いに触れて相手が『同類』だと認識する。その手続きはとうに済んでいる。あとはただ呼べばいいだけだった。自分の願いを受け止めてくれた、『彼』の名を。


 あの。一つだけ、お願いがあるんです。

 なあに?


 小首を傾げた少女に、年下の少女が何事かを告げる。聴き終えた少女は微笑みとともに頷いた。


 わかったわ。もし反対になったら、私の分もお願いできる?

 喜んで。


 最後まで残れたら──いや、違う。今からそんなことを考えてどうなるというのだろう。今はっきりしているのは、今日この場を切り抜けるのは自分の方でなければならないということだけだ。そして、そのためにも私はこの子を……。


 コール。お出でなさい、──。

 お願い。私のために戦って、──。


 月の明かりも星の瞬きも見えない。ただ一本の外灯だけが照らす図書館裏の広場に、二人の少女の澄んだ声が同時に流れた。



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