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8-1


 それからしばらくは大変だった。

 図書館から次々とまろび出てきた顧問の先生と図書委員たちは、口々に舞子たちの安否を気遣う声をかけ、それが一通り終わった後は、一体何があったんだと三人を質問攻めにした。

 心配と好奇心から皆が浴びせてくる質問に何度も同じ受け答えをさせられ、その間は軽傷とはいえ怪我人の舞子までその場に拘束されたことで、特に千夏はストレスが溜まったのだろう。後ほどつばさと病院に向かう道すがら、


「先輩が打ち切ってくれなかったら、もうちょっとでキレてましたよ」


 と、ぼやいていた。

 何があったのかについて曖昧な答えしか返せなかった自分たち三人にも問題はあると思う──手すりの老朽化か手抜き工事かといった事故の原因は知るはずもなく、つばさと千夏がどうやって舞子を助けたのかについても、三者三様の理由で『わからない』しか答えられないのでは仕方ない──が、早く解放してほしいのはつばさも同じだったので、


「先生、まずは豊橋さんを保健の先生に。病院への車の手配と学校への報告もお願いします。先輩方はすみませんがこの辺りを立ち入り禁止にしてください。あとはみんなで手分けして残った本を──」


 と、右往左往するだけだった顧問の先生に代わってつばさがその場を仕切ることで、何とか事態を収拾させたのだった。

 その後、自分たちも念のため診てもらいたいとの理由をつけたつばさと千夏は、歩いて十五分ほどの場所にある総合病院まで二人で向かうことになったのだが、


「ちょっと面白かったですよねー。あたしと先輩が一緒に行くって言った時」


 くすくすと笑った千夏は、病院内の階段を一歩遅れて下りてくるつばさに言った。


「委員の人たち、何人もわかりやすく表情変えちゃって。きっとあれ、高代先輩の件であたしと先輩を二人にしちゃマズいとか思ったんですよ? その件なら、あたしと先輩はちゃーんとお話してるってのにねー」

「その件なら、ね」


 つばさは無関心気味にそれだけを返した。その件以外については、これからの話だ。


「あたしも実はドキドキしちゃいましたけどね。先輩ったらこれからすぐ始めるのかなって、お腹痛くなりそうでした」


 トン、と最後の段を飛ばして階段を下りきったところで、千夏は足を止めた。

 夕方ということもあるのだろう。病院の半地下にある広い食堂は、患者や見舞い客が数人ほど腰を下ろしているだけでガランとしていた。


「なのに、ホントに病院に来ちゃいましたね」

「アリバイ作りは大事でしょ」


 遅れて階段を下りきると、つばさは千夏を促して壁際に並ぶドリンクの自販機の方に向かった。


「診察まで受ける気はないけど、変な場所で知り合いに見つかったら面倒だもの。ここなら静かでちょうどいいかなと思ったの」

「よく思いつきましたね、こんなトコ」

「たまたまよ」


 インハイの予選で怪我をした晃輝に付き添って何度か利用し、彼の診察を待つ間にここで中間試験の勉強をしたこともあったのだが、つばさは説明を省略した。


「病院ならその辺のお店よりはマシじゃない? 死ぬとか死にかけたとか、もし誰かに聴かれても聞き流してくれそうだし」

「『殺す』までいっちゃうと、さすがにギョッとされそうですけどねー」


 それこそ聴かれたらギョッとされそうな話をしながら飲み物を買うと、二人は近くに誰もいない一角を選んで二人掛けのテーブル席に腰を下ろした。つばさは紙コップの緑茶、千夏は缶のゼロカロリーコーラをテーブルに置く。


「それで、これからどうするんです?」


 プシュッ、とコーラの缶を開けながら千夏が尋ねた。


「今日はホントにお話するだけなんですか?」

「あなたが嫌じゃなければね。あなたにはいろいろ訊きたいし、私も答えられることなら教えてあげるわ」

「……ひょっとして、冥途の土産ってやつだったりします?」

「私は手掛かりが欲しいだけよ。こんな馬鹿げた境遇から抜け出す方法、そのヒントだけでもね」

「確かに馬鹿げてますよねー。まだ大好きな彼氏さんを振らなきゃいけない境遇なんて」


 つばさの眉が吊り上がった。千夏は何食わぬ顔でコーラを一口飲んでから、


「質問タイムはオッケーですけど、あたし情報とか持ってないですよ? あんまりお役に立てないっていうか」

「そうね。あなたはどうせ未経験ですものね」


 今度は千夏がムッとした。つばさはこちらも何食わぬ顔で紙コップを手に取る。


「それでも訊きたいことはあるから、なるべく嘘をつかないでくれれば充分よ。私もなるべくそうするわ。どう?」

「んー」


 千夏は斜め上、蛍光灯が並ぶだけの白い天井を眺め、数秒後にこくりと頷いた。


「わっかりましたー。あたし嘘つけないタイプだし、それでいいですよ。で、どっちからいきます?」


 どうぞ、とつばさが手で譲ると千夏は笑顔になった。一つ目の質問は既に決めていたようで、テーブルに軽く身を乗り出すとあっさりそれを口にした。


「先輩は、いつ死んじゃったんですか?」



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