共通Ⅰ 始まり
「おはようございます」
「おはようございますフランダール大尉」
年上だけど、彼女は私の部下。
(…やっぱり慣れない)
大尉などという肩書きは13歳には不相応だ。
――――――西暦2600年。
地球を侵略せんとする異星からの来訪者、幾多の奇妙な生命体。
それらが我々地球に生きる全ての人間の間で、公然と認知されるようになって約400年になる。
ここは‘ジャポナス宇宙惑星軍科機関本部’
私はここに所属している。
「あの、ディーツの支部に行かれるんだと聞いておりますが!」
「ええ」
「大尉はどうして、パイロットになられたのですか?」
「え…」
なぜパイロットになったのか、目を閉じて思い出す。
あれはたしかまだ3歳のときだった。
パイロットが宇宙へ監査に行った時、人だかりがあって―――――――
●
闘いを終えて宇宙から帰還したパイロット達が現れる。
『うわあかっこいいお兄さん!!』
パイロットの男性は、まるで絵に描いたように、端麗な顔立ち。
『王子様…』
それは若い女性だけでなく、幼い少女の心すら掴んで放さなかった。
『わたしもロボット操縦したい!』
『ははっ女の子は無理じゃないか~?』
『そんなことありませんよ』
『ほんとう!?』
『ええ、これから先、女性操縦士だって増えるわ』
『君は操縦士になりたいんだね?』
『うん!』
『よし、大きくなったらまたここに来るといい』
『うんわたし…パイロットになってお兄さんと闘いたい!』
■第一章:[仲間と新生命体]
あれからもう10年になるだろう。
私は出立の準備をして本部行きの機体に乗る。
本部は私達人類の済む蒼き星“テラネス”ではなく、中心となる大きな惑星ジュプスににある。
テラネスはかつてワコクと呼ばれた小さな国の人類が統治している。
さまざまな国の人が今もなおテラネスに住んでいるのは大昔から変わらないが、大きな力を持つ国は各自の惑星を持っているのだ。
「あれは……」
宇宙空間には無数にゴミがあるのだが、これはもう仕方がない。
だがさっきは見たことのない種類の機体が飛んでいた気がする。
――まあそれは後にして今はディーツに急ごう。
「ジャポナスから派遣されました。‘カレン・フランダール・矢崎’大尉です」
――周りに見られている。
珍しいなら仕方がないだろうが、それらは歓迎というより好奇の目だった。
私は士官学校に入学し、五年訓練を受けて、13才で最年少乗組員になった。
彼らも同じくらい若いしそこまで嫌な雰囲気ではない。
説明を兼ねて、一先ずはマシンのある部屋に案内された。
「君が操縦する機体は、【ラ・クラール・ウォートLY】」
‘ヌル’はディーツ語で零、つまるところ私が乗るものが最初に造られたということか。
これは先進国ディーツが開発した‘最新操縦型兵器【alan】
操縦できるのは各国の軍人から選び抜かれ、素質があるものだけ。
とても名誉あることだけど荷が重い。
「大変光栄です」
「その年で大尉になるほどの方が、ずいぶん謙遜なさる」
向こうにいる出世出来なそうな男が囃し立てた。
「…ありえねーよ』
今のはディーツともジャポナスとも違う他国の言語だった。
どうせ解らないと思って言ったのだろう。
{けっ まだガキじゃねーか リーダーがアイツなんてありえねえよ}
腕時計型パネルに表示され、耳に着けているイヤリング型の翻訳機からはジャポナス語で復音された。
私はディーツとジャポナスの混血だが、産まれも育ちもジャポナス。
ジャポナスは他国の言語を覚えることを不得手とする。
それからは年数をかけて異国の言葉を覚えるより翻訳機を使うほうが利便であるからそちらの技術的が進化した。
「君達、まずは仲間の交流もかねて自己紹介しよう」
大佐はにこやかに、打ち解けるように、私と彼等を取り持とうとした。
まだなんのための操縦機か、説明を受けていないのだが……。
「……クレト少尉です。よろしくするつもりはありません大尉殿」
高校生くらいの赤髪ショートカット。 余程私が気に入らないのか、彼は目線を合わせようとしない。
そのわりにまっさきに名乗るなんて変なの。
「アジェス中尉だよ~ヨロシクお願いしまーす」
20代くらいの若くて明るい青年だ。 少し長め黒髪でサイドを後ろで止めている。なんというか軍人らしくはない軽薄そうな男。
「はい」
随分とフレンドリーな人と言っておこう。彼の言葉は社交辞令だと考えればいいだろうか、 戦うだけなのに本気で仲間なんて言われても困るし。
「ネキトっす。准尉っすしくよろっす」
薄い茶の髪がところどころ跳ねていて、今時のチャラチャラとしている感じの人だ。
「フラット上等兵です!!」
この人の見た目は15才くらい。いかにもまじめそう。
階級が下でも年上なので、とにかくちゃんと挨拶しよう。
「皆さんよろしくお願いしますね」
「…オレは認めねーがな」
クレト少尉は部屋を出ていった。
他の皆も我が強くてやる気はなさそうだ。
大佐はやれやれと、息をついた。
「詳しい話は明日でいいか」
――――先が思いやられる。
●
翌日、ジャポナスから連絡があった。
単なる派遣かと思いきや、ディーツ支部に完全移動になったらしい。
宇宙軍人になってからずっとジャポナスに所属していた私は、大分寂しいような気もする。
「皆、揃っているかな?」
さあ、大佐がいよいよ任務の詳細を発表される。
わざわざ新兵器を導入するほどのだ、一体どんな案件だろう。
「我々人類はかつてより宇宙からの侵略者【キュラソー】や【ウォルター】と戦ってきた」
「たしか、西暦2200・2050年あたりでしたよね」
ネキトは手を上げて、発言した。
驚いた。今の彼は、昨日の自己紹介の時に感じた軽い印象がない。
「ああ、二種の驚異は消えたはずだが、2600年の現在…新たな生体反応を関知した」
生命体が発見されたのは、これで三度目だ。
つまり、また地球が脅かされる可能性がある。
それ等を倒すための戦闘機か。
「といってもまだ、攻撃をされたわけではない
本格的に戦うことになるかはわからないが…」
「それまで、我々が監査をする。ということですね?」
大佐はコクりと頷いて、私達は軽く、お互いの顔を見合わせた。
おそらく私も含めて皆、ここに来たときからすぐにロボットを操縦して、宇宙で戦闘をするものだと考えていただろう。
勢いが良すぎるのもいけないだろうが、少し拍子抜けした。
「まずは監査を…なんだ!?」
{大変です!!【エルタ・ノルタ】がこちらに接近しています!!}
“エルタノルタ”は聞きなれない単語だ。
もしかしなくても、先程話題に出ていた新たな生命体だろう。
「大佐!出撃したほうがいいですよね!?」
「やむをえん…皆、地球を頼む!」
「はっ」
「了解」
私達は、すぐに、マシンのある部屋に入った。
戦闘用スーツへの着替えはスイッチを押せば、その場ですぐに可能。
「クレト少尉には【ア・カーミン・アイン】です」
機体は全体的に濃い赤色。
「アジェス中尉には【ア・ネイビー・ツヴァイ】をどうぞ」
黒に近い紺色。
「ネキト准尉には【ア・ゲルプ・ドライ】」
発色の綺麗な黄色。
「フラット上等兵は【ア・ドゥンケル・フィア】を」
まるでカラメルのように色素が濃い茶色だ。
整備士の男女達が各パイロット専用機に指をさした。
こういうのはサイズを個人に合わせて作られている。
好きな色は選べないが、なんとなく彼らのイメージに合う気もする。
「ランダール大尉は…」
「これですね、昨日大尉からお聞きしました」
【ラ・クラール・ウォート・ヌル】
外装は白と透明の間、曇り硝子かのごとく、全体的にモヤがある。
「…実はこの色は、サラエイル准将からの要望なんですよ~」
私より背の低い少年整備士が、耳に顔を近づけ、呟く。
離れると、口元に手を当てながらニヤニヤしている。
「え!?」
“サラエイル”彼は私がパイロットになった切っ掛けの人。
出会ったとき、少佐だった彼が、そんなに出世していらっしゃるなんて、流石だと思った。
「詳しくは聞いていないんですけど、小さい頃に会ったからだそうで…」
何を考えて、磨りガラスのような色を選んだのか、私にはわからない。
だけど、あのサラエイルさんが私のことを憶えていたなんてうれしい。
機体に乗ろうとしながらついニヤけてしまう。
「なんかいいことでもあったのかな、ねえクレト」
「さあ…わからないです」
――――いざ、宇宙空間へ。
■第2章: [潜伏]
機体に乗ってから数時間、一つ一つの星々を、手分けしてまわる。
「こちらフラット、サタナス星、異常なしです!」
四号機<フィア>からの連絡が回ってきた。
「こちらクレト。マージン星は異常無しだ」
一号機<アイン>からも通信が入る。
「ネキトっす。アクアルドも異常なしっす」
三号機<ドライ>も無事のようだ。
アジェスは連絡が遅いが、大丈夫だろうか。
「こちらアジェス、プルテノ星とネプテュス星を調べたよ~」
異常なしのようだ。
私はテラネスとサニュ星を調べ終えた。
非確認エリアがないか、マップを確認する。
ヴィサナス星は誰も調べていないようだ。
危険な硫酸があるからだろう。
一応確認はするが、あまり近づかないでおこう。
それに、エルタノルタだって硫酸には近づかないはずだ。
「いない……」
エルタノルタ達はどこに潜伏しているのだろう。
「こちらジュプス本部、エルタノルタの発生エリアを特定した」
「え!?」
「惑星フッハイだ」
「あのフッハイ星ですか!?」
食物が腐りやすく、キノコやカビの生息する湿気の星だ。
「フッハイではエルタノルタの好物と思われるエタノールと同様の成分が検出されている」
なるほど。奴等はキュラソー同様にアルコゥルが好きな種族か。
「俺達人類だって酒は好きだけどね~
皆、今度飲みにいこうよ」
「……未成年しかいないんで」
任務中にくだらないことで通信を使わないでもらいたい。
「……皆さん、フッハイ星に集まってください」
重要な通信なので、強制的にジャックして聞かせる。
「了解です!」
「はいっす」
「オーケー」
「……」
クレトから返答はないが、一応指示通り来てくれるだろう。
「大佐からの通信によれば、エルタノルタが潜伏しているそうです」
「……なんであんたが仕切ってるんだ?」
「バカだなクレト。彼女が一番偉くて、リーダーだからだろ?」
「矢崎大尉、なんなりとご命令を!」
「これからフッハイ星を探しますが、敵が何体潜んでいるかわかりません
よって全員で固まって行動してください」
「了解しました!」
フッハイ星を歩き進む。
地に足はつけていないのに、機体で踏む音からぐちゃぐちゃした感触が伝わってきた。
「にしても……気色わりーキノコばっかで、最悪っす」
「……うまそうだ」
「趣味わるっ」
「あーあのキノコは毒か……」
皆の通信が一斉に入ってくる。それぞれキノコばかりに気をとられているようだ。
この星の毒々しいキノコを見ていると、まともな霜降りビラタケが食べたくなってくる。
「姿が見えない……」
「そろそろサンソタンクが切れる。帰還したほうがいい」
「では撤退しましょう」
皆数時間連続で稼働していたから、補給しないと。
私達は無事にジュプスへ帰還した。
「皆おかえり。エルタノルタの反応はつい先刻消えた」
「そうでしたか……すみませんでした」
これは私のミスだ。燃料不足が原因とはいえ、見回りに気をとられていた。
エルタノルタを見つけて対処するときのことを考えていなかった。
もしもエルタノルタが攻撃してきて、闘いになったら間違いなく無事に帰還できなかった。
「ところで、初めて扱うalan<アラン>はどうだったかな?」
大佐はそれについては、なにも言わず機体の操作具合について確認している。
「私の場合は操作は通常の機体と同様で、特に問題ありません。
戦闘武器等については使用していないため、判断ができません」
「問題ありません大佐」
「同じく」
他の皆も同様に、不具合はないようだ。
「よし、一応今日の任務は終わりで構わん。来るべき時にそなえてくれ」
私は自室に待機して、疲れをとる。
ただ機体に乗るだけで、通常の歩行より疲れるのはたしかだ。
緊急アラートが鳴るまで寝ていよう。
■第3章:[安息なき出撃!]
“ビー”“ビー”
アラートが鳴る。
―――仮眠をとって五分くらいだろうか、早すぎるとため息をついて、私は出撃準備に入る。
「もう呼び出しかよ……」
「少しは休ませてほしいな」
「五分もあれば余裕ッスよ」
「頑張るぞ~」
すでに全員揃っている。
「――エルタ・ノルタがこちらに接近している!見つけ次第すぐに撃破、一体の検体サンプルを確保するように!!」
「「了解!」」
私達は各機体に乗り込んだ。
――――――
「プリンス、あれが虚地球<テラネス>です。いかがでしょう」
「―――噂に違わぬ青……悪くないね」
――――――
奴等がどの方向からやってくるか、まだエルタ・ノルタ用のレーダーが開発されていないからわからない。
そのために奴等の遺伝子データを採取するのだが。
エルタ・ノルタを見つけて捕獲しなければ手に入らないわけで―――――
これは例えるならメレンパンを食べたくてもチェコクルネしか売っていないみたいな。
いや違うな、メレンパンが売りきれているとか?
あ、メレンパンを食べたくてもお金がないという感じ?
―――パンといえば発酵、発酵といえばフッハイ星。
これは勘だが、奴等はフッハイ星のある方角からやってくるに違いない。
「私は北東へいきます!」
{了解~!}
フッハイは地図でいうとジュプスから北東の方角にある。
私はそちらに向かった。
■第4章:[まるで王子様]
私はフッハイの近くへたどりつく。かなり彼等と離れてしまった。
しかし奴等の姿はなく、アテが外れてしまったのだろうか――――
引きかえして彼等と合流しようとしていると、何かが機体にぶつかる衝撃があった。
「……なっなに?」
ぷかぷか宇宙空間に浮かぶそれは、白髪の青年。
彼に意識はないようで、私は一旦冷静になり、青年を機内へ保護する。
「こちらカレン。身元不明人を保護しました」
私は本部へ連絡を入れて帰還せよという指令を得た。
彼等にも同様、帰還せよと通信が入る。




