2. 約束と名前
「おはよう!あなたのために舞い降りたの!」
そこにいたのは、美しい、桃色の少女だった。
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「な、なんだおまえ!誰だよ!!」
突然目の前に現れた少女に驚きを隠せない。
当たり前だ。朝起きたら自分の上に知らない女の子が座ってるんだ。誰だって驚く。
「わたし?なまえ?・・・しらない」
その子は満面の笑みを少しだけ曇らせて悲しそうに笑った。
その顔を俺は、どこかで見たような気がした・・・
「なまえ、わからないのか?どういうことだそれ・・・
ってか、いい加減おりろーーーーーーーーーーーー!!!!」
俺の怒声が、静かな土曜の朝に響いた。
少女はきまり悪そうにカーペットの真ん中に座っている。
着ているのは雪のように真っ白なワンピースだ。
髪の毛は薄い桃色で、春らしい印象を受ける。
「さて、君はいった誰なんだ?」
あたたかいカフェオレを差し出しながら聞いた。
その子は髪と同じく薄桃に色づいたくちびるを開いて言った。
「私はあなたの幸せのために舞い降りたの。
あなたはあの日わたしを選んだの。」
その子の言葉はあまりに非現実的で、信じられない内容だったが、
どうしてか俺は、その子の瞳が嘘を言っているようには思えなかった。
「てことは、家・・・ないのか?」
俺の問いに少女は控えめに肯く。
「ど、どうしたら・・・」
『フッフッフ・・・話は聞かせてもらったよ!!
運命の出会いをした少年少女!身寄りなきままに少年を尋ねてくるけなげな美少女!感動だねえ!青春だねえ!!
お嬢ちゃん!居場所がないならここに住みな!
おっとお!心配無用!この家はもともと民宿だったから部屋ならバカみたいにあるのだ!!
え?親?ダイジョブダイジョブ!うちの親は海外で働いてるから!
遠慮せずに居候しちゃいな!青春しちゃいな!!』
・・・突然踊りこんできてベラベラしゃべってるうるさいツインテ娘は俺の
「・・・妹だ。」
こいつは青原暮葉、16歳。
俺と同じ高校に通う一年生だ。親が海外で働いてる代わりに家事全般をこなすできた妹だが、性格に難ありだ・・・。
「いいのか?暮葉」
うちの家計には割と余裕があるが、身寄りのない少女を住ませるのって大丈夫なのか・・・?
「ぜーんぜんおっけーだよ!おにいちゃん!」
なぜか嬉しそうにウインクする妹に、場の雰囲気が和む。
「ありがとう!暮葉ちゃん!
よろしくね!そうちゃん!!」
少女はそう言って、心から嬉しそうな笑みをうかべる。
その時、小さな疑問が俺の中に生まれる。
そうちゃん?あれ?おれ名前おしえたっけ?
目の前で嬉しそうに笑う少女
この娘は・・・一体何者なんだ?
一つの決意が生まれ俺は立ち上がる
「わかった!お前はどうやら記憶喪失らしい。
だから、おまえが自分のことを思い出して、
俺がおまえの謎を解き明かすまで、
この家で暮らすことを許そう!!」
声を大にする俺の目を、少女は不思議そうに覗く。
「やくそく・・・なの?」
少女の「約束」という言葉に、いやな重みを感じた
それでも
「ああ、約束だ。
俺はお前の真実がわかるその時まで、お前と一緒にいよう」
俺はその時選択、そして「約束」をした。
その言葉の意味を知らないままに。
そして俺は、桃色の少女を
土岐乙女
と呼ぶことにした。
(笑うな)