1. 一話はいちごとの出会い
ある学校に置かれた、ひとつの自販機。
販売されているのはジュースじゃない。パン。
これは、一人の男の子と不思議な少女たちの
「出会い」のものがたり
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昼。鐘がなって解放された生徒たちが一斉に騒ぎ出す。
俺、青原荘士郎は空腹だった。
昨日家に帰るのが遅くなり、なぜか不機嫌な妹は晩飯を作ってくれず、そのまま朝飯も…
そんなこんなで4時限目が終わり、今に至る。
つまり俺は今現在、半日以上の間食物を摂取していないのだ。
し、死ぬ・・・
それだけじゃない。
つい先ほどから俺は嫌な予感がしていた。
つくえの横にかかっている、俺のバッグには・・・バッグには・・・
・・・弁当が、入っていないのではないか・・・
し、死んだ・・・
うちの学校にはあいにく学食はない。
どうしたら・・・?
屍のようにさまよう俺に、廊下中の生徒が好奇の視線を向ける。
この様子からわかるように、俺には友達と呼べる生命体が存在しない。
というかそんなものがいれば昼飯なんかとっくに分けてもらっている。
とにかく・・・食べ物・・・
失いかけた意識の中で俺の目に飛び込んできたのは、
「パンの自販機」だった。
「か、神しゃまあああああああああああああああ!!!」
獲物を見つけたハイエナのように駆け寄り、急いで小銭を出す。
こんな自販機今まであったか?
いやそんなことはどうでもいい!
はやくはやくはやくはやくはやくはやく!!!
飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯!!!!!!!!!!!!
あまりに朦朧とした意識と、動転した心境に、
自販機に書かれた
「今ならあなたに幸せが舞い降ります!」
といういやに大々的な宣伝と
その隅に書かれた
「幸せの内容については、一切の責任を負いかねます。」
という冷たい文章に、気付くことができなかった。
いや、たとえ気付いたとしても、思慮の片隅にも置かなかっただろう。
とにかく僕はその日、「自販機のパンを買う」という運命の選択を下したのだった。
『ありがとうございました!』
機械的な音声に礼を言われ、取り出し口に落ちたイチゴジャムパンをつかむ。
やっと・・・やっと飯が食える!!
感動と達成感に浸った後、いざ袋の端を切ろうとした瞬間
『おめでとうございます! 大当たりです!! あなたに幸せが舞い降ります!』
終わったとみなした購入というプロセスが、割り込んでくる。
「ほえ?」
機械的な音声は、それだけ告げて、さっきまでのにぎやかさが嘘のように静かになった。
廊下の騒がしさが、急に大きくなった。気がした。__________
朝。土曜日の朝。
なんて気持ちいいんだ。誰にも邪魔されないこの惰眠・・・
布団を頭までかぶり直し、眠りの世界へGO BACK!!
「おやすみなさ~い・・・ぐふぉ!!!!」
緩やかに落ちる眠りの途中、腹部への荷重によるダメージで目が覚める。
「だ、だれだ!!やめろおりろ!!」
力いっぱい叫んで目を開けると、そこにいたのは、
「おはよう!あなたのために舞い降りたの!」
そこにいたのは
今まで見たことのない、それくらい、美しい
桃色の少女だった。