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14・あたしだけの星

「そんで、ずーっと、ひとりで、背中のファスナーと格闘してたんだ……」

「そうなのっ。後のこと全然考えてなかったから。ちえみ姉ちゃんは後夜祭に行っちゃっていないし。ほんと、ああいうドレスって、着るのも脱ぐのもたいへんなんだねー」

 帰りのバスで、一番うしろの席に、四人ならんで座って。あたしはみさきたちに、ぺらぺらぺらぺら、おしゃべりしまくっていた。

 三人とも、正門のところで、あたしが戻るのを待っててくれてたんだ。

「ハッパかけた手前、放置して帰るわけにもいかねーだろ」

 心平が無愛想に言い放つ。

「そうね。それに、傷心の野田くんにつけいるチャンスを、みすみす棒にふるわけにはいかないわ」

 と、あいりちゃん。

「あのさあ、あいりちゃん。野田くん、って呼び方、その……。前から聞こうと思ってたんだけど、その、どこまで本気なわけ?」

 おそるおそる聞いてみた。あいりちゃんは、にやりとあやしく笑った。

「どこまでも本気よ。実はずっと前から、あなたはカッコよく化けるはずって思ってたの。なのに、あなた自身にぜんっぜん自覚がないから、イライラしてた。いい? いつかぜったい野田くんに、あたしのエスコートさせてみせるから。覚悟なさい!」

 ぴしっ、とあたしに人差し指をつきつける。

 ひ、ひえ~。

「やばいね心平。超・強力なライバルだよ。せっかく沢口さんのこと、ケリがついたってのに……」

「ホントだよ。マジやってらんねー……って、みさき! ちがうってのちがうってのちがうっての!」

「真っ赤になっちゃって! かーわーいーいー」

「みさき! だまれ!」

 前の席にすわっているおじさんがふり返って、ごほん、とせきばらいした。

「……やば。しずかにしないと」

 みさきがちろっと舌を出した。思わず、くすっと笑う。

 バスから降りたとき、空はすっかり暗くなっていた。街並みのずっと上、空の高いところ。たくさんの星がきらめいている。

 つめたい風の吹く街を、歩く。

「ねーつむぎ、これからも時々男装して遊ぼうねっ。あたし、お姉ちゃんにコーデとかいろいろ教えてもらうからさ」

「そのときは、あたしも呼びなさいよ」

「おまえら、まだやる気か。こりねーな」

「あははっ」

 ジャケットのポッケに両手をつっこむ。蒼海高校の制服。男子、の。シャツにジャケットだけじゃ、ちょっと肌寒い。みさきとあいりちゃんは、理想の男装コーデの話でもりあがってる。

 前を歩くあたしに、心平が追いついて、横にならんだ。

「オレは見たいかも。……ドレス」

 ぼそっと、聞こえるか聞こえないかくらいの、つぶやき。

「え?」

「なんでもねえっ。早く帰るぞっ」

 だだだっと心平は駆けた。そして、派手にこけた。

「何してんの心平ー。ださっ」

「うっせえ! 笑うな、みさきっ」

 お姫様にはなれないあたし。

 だけど、ほかの何かには、なれるのかな。

 思いっきり、空のてっぺんに、手をのばす。つかめそうでつかめない。空にまたたくカシオペヤ。遠い遠い、星のひかり。

 

            *

 

 それから。

 あっという間に冬がきて、終業式が終わり、クリスマスにお正月に、ってやってるうちに、冬休みもすぎた。

 そして、三学期。ダンゴ虫の汚名は返上したはずのあたしだけど、どういうわけか、ますます猫背がひどくなっている。

「ガラでもないことにハマるからだろ。なんだっけ? ビーズ?」

 心平が言った。朝の通学路。最近は、昔みたいに、みさきと三人いっしょに登校している。

「アクセつくってるんだ。冬休みにテレビで作り方やってて、ためしにつくってみたら、すっごい上手にできたの!」

 そのときのあたしの作品第一号は、みさきにプレゼントした。クリスタルとチェコビーズのブレスレット。学校でつけるのは校則違反だから今はしていないけど、家に帰ったら、ソッコーでつけてくれてるらしい。これは、ちえみ姉ちゃん情報。

 手芸クラブにもはいった。週二回のゆるーいクラブ活動。家庭科の先生と、高学年の何人かがあつまって、だらだら、好きなことするんだ。みんなもくもくと自分の世界にはいって、ひたすら手先をうごかしてて、おもしろい。

「それってさあ、玲斗さんの彼女さんの影響―?」

 みさきがあたしの顔をのぞきこんだ。そうかもね、ってあたしは答えた。

 真っ白なウエディングドレスに散った、きらきらのビジュー。たしかにそれは、あたしの頭にやきついてるよ。

 でもあたしは、キレイなものをつくろうとか、オシャレなものをつくろうとかいう気持ちはあんまりなくって。ただひたすら、なにかの修行みたいに、テグスにビーズを通していくことがおもしろいんだ。で、気がついたら、すっごい長―いネックレスができあがってたりするの。

「根暗だなー、つむぎは。野田―、野田―。へたれ改め根暗の野田つむぎに、清き一票を!」

 心平が選挙の応援カーのまねをしてふざけたから、あたしは、思いっきり心平の頭をはたいてやった。

「いって! 何すんだよ! そんな巨体で張り手とか、オレ、ふっとんじゃうぜ?」

「ふん! だったらいっぺん、宇宙の果てまでふっとんでみたらいいじゃん!」

 まあまあ、と、みさきがなぜかにやけながらあたしたちをいさめた。

 そうそう。巨体といえば。あたしの身長は、いま、一七〇センチぴったり。十一月にはかってから、一ミリも伸びてない。いよいよ、止まったのかな。って、それでもじゅうぶんに大きいんだけどね。

 相変わらずの地味センス。おまけに運動音痴のでくのぼう。モデルにもバレーボール選手にもなれそうにない。『へたれ改め、根暗』なあたし。

 でもね。時々、こっそり、王子様に変身するんだ。案外、これも、悪くない。

 そしていつか。

 そっと、目をとじる。

 きらきら。きらきら。きらきら……。

 なれるのかな。なれるよね。まだ、あたしだけの星は見つからないけど。何かがはじまる気がしてる。

 きらきら。きらきら。きらきら……。

 かがやくあたしに、なりたいな。

 

お読み下さり、ありがとうございました!

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