初体験
「ところで、一つ訊いてもいいかな」
「はい」
「君はどうして最初、僕のことを誘ったの?」
「それは、一緒に見たい映画があったからだよ」
「そうじゃなくて、なぜ僕だったのか、ということ」
「顔が好みだったから」
「顔」と僕は反復した。
「あ、もちろんそれだけじゃなくって、優しいところとか…待って、うまく言えないけど。透さんは、私のこと好き?」
「もちろん好きだよ。だからこそ、こうやってデートを繰り返している」
「大好き?」
「うん、そうだな、大好きだ」
「じゃあ、行動で示してみて」
そう言うとのぞみは、僕に顔を近づけてきた。おまけに目も閉じている。どこまで、彼女は積極的なのだろう、と僕は驚いた。
僕は、彼女にそっとキスした。そして、抱きしめてやった。「嬉しい」と彼女は笑顔で言うと、僕を抱きしめ返してきた。彼女のポニー・テールの触覚が、僕の頬に触れた。僕は彼女がより愛おしく思えてきた。
彼女は続けて、
「いいよ」
と言ってきた。
「何が?」
「透さんなら、いい」
「だから、何が」
すると彼女は顔を真っ赤にして、
「だから、これ以上、進んでもいい」
「えっ…」
僕は、さすがにそこまでは心の準備ができていなかった。
「やれやれ」
と僕は久しぶりに口に出そうとして、やめておいた。
「そうだな、じゃあ、とりあえず、シャワーを浴びよう」
「そんなの、待てない。このままがいい」
「参ったな」
僕は思わず口に出してしまった。
「嫌なの?」
と彼女が訊いてきた。
「嫌じゃないけど…」
「じゃあ、して」
僕は、覚悟を決めた。女子を抱くのはこれが初めてではなかったが、久しぶりなのもあって、いささか緊張してしまった。
僕は、彼女に口付けて、それから、彼女を抱いた。
終わってから、僕は、のぞみから、実は初体験だったと聞かされた(キスはさすがに初めてではなかったが)。僕はそれを聞いてまた驚いた。それなのに何故、僕に対し、こんなに積極的になれるのだろう。僕は嬉しさや後ろめたさなどが混じり合った複雑な感情を覚えた。
「ねえ、これから、透くんって呼んでいい?」
と裸のままの彼女は訊いた。
「いいよ。もちろん」
と同じく裸のままの僕は頷いた。