僕の部屋にて
その次のデートは、のぞみは初めて、制服でなく私服を着てきていた。それは、先週のデートで買った、白い肩出しトップスだった。胸の谷間がごくわずかにチラリと見えている。それにデニムのショート・パンツと、白いスニーカーを合わせていた。季節は初夏を迎えていた。
「可愛いな」
と僕が褒めると、彼女はわずかに顔を赤くして笑顔になった。それは僕にとっては眩しかった。それを見ながら、僕は、最近のぞみといる時は僕の口癖である(自分でも自覚していた)、「やれやれ」を使わずに済んでいることに気がついた。僕は着実に彼女に惹かれていることがわかった。
デートと言っても、場所は僕の家だった。
僕らは、ドーナツ・チェーンでオールド・ファッションなどのドーナツを幾つか買って、僕の家に行った。
「わあ、良い部屋ですね」
「そんなことないよ、普通の1Kだよ」
「普通の1K」とのぞみは繰り返した。
「でも、綺麗な部屋」
「そうかな」
「そうですよ、私の部屋なんか、服や雑誌が散らかってて」
とのぞみは恥ずかしそうに言った。
僕は、好きなネオアコ・バンドの曲を、パソコンから適当に流した。ペイル・ファウンテンズのジャスト・ア・ガールが流れた。
「さ、適当に座って」
僕は促した。
僕とのぞみは、ソファに座った。ジャスト・ア・ガールがサビのところまでくると、のぞみは、
「あ、良い曲」
と呟いた。
僕らはドーナツを食べた。僕はオールド・ファッションを、のぞみは粉砂糖のかかったやつを食べた。彼女と食べるドーナツは格別なものに感じた。
「透さんは、大学で何を勉強してるの?」
「工学部情報工学科」
と僕は答えた。
「情報工学科」
とのぞみは繰り返した。
「分からないよね」
「何となく、コンピュータ関係とかと思った」
「そうなんだ、コンピュータ関係」
僕は頷いた。僕は続けて、
「プログラミングとか、暗号理論とか。ちょっと難しいかな」
「うん、とっても」
彼女はなぜか笑顔でそう言った。