ショッピングと展望室
大きな川にかかっている橋を渡り、さらにしばらく歩いて古町に着くと、僕らは複合ビルにあるファッション・モールを見て回った。とりあえず二人とも目的の店があるわけではなかった。でもそれなりに店数があるためウィンドウ・ショッピングには適していた。
それでもレディースのショップに入った時、のぞみは気に入った服を見つけたようだった。
「この服いいなー。試着して良いですか?」
僕は「うん」と言って彼女を促した。
彼女は嬉々としてフィッティング・ルームに向かった。僕はその前辺りで適当にスマホをいじったりして待った。
しばらくしてフィッティング・ルームのカーテンが開いた。のぞみは白い肩出しトップスを着ていた。
「どうですかね?」
と彼女に訊かれ、
「よく似合ってるよ」
と僕は笑顔で返した。ここで「悪くない」と言わないくらいの扱い方は知っている。
のぞみはその反応に満足したようで、再びカーテンを閉めて着替え終わると、また嬉々としてレジにその服を持っていった。
「買ってあげるよ」
と僕が言うと、彼女は、
「大丈夫。バイト代持ってるんで♪」
と言った。
会計が終わると、彼女は僕のところにトテトテトテと走ってきて、
「お待たせ」
と告げた。その一連のしぐさを僕は「可愛い」と思った。
そのモールでのウィンドウ・ショッピングを一通り終えた僕らは、古町の商店街を歩いた。途中で、米麹を使ったドリンクを一緒に買って飲みながら歩いた。そして良い感じの雑貨屋を見つけると、二人で入ってみた。
「このカップ、可愛い♡」
などと、のぞみは商品を見るたびにはしゃいだ。そのたびに僕は「そうだね」と笑顔で頷いた。
この店は彼女のお気に入りとなったようだった。
日の入りが近い時間になったのを見て、僕は、
「メッセに夕暮れを見に行こうか」
と切り出した。一応、デートコースの一つとして考えておいたのだ。
のぞみは、
「うん♪」
と言ってくれた。
僕らは手をつなぎながら、メッセに若干急ぎ足で向かった。日が沈んでしまう前にメッセの展望室にたどり着きたかったからだ。メッセは、大きな川に挟まれるように立っている、コンベンション・センターとビルの複合施設。展望室は、ビルの最上階にある、日本海や新潟の街が一望できるスポットだ。
僕らが展望室に着くと、果たして、夕日は日本海に浮かぶ大きな島に沈み始めるところだった。
「綺麗」
とのぞみは呟いた。
「綺麗だね」
と僕も呟いた。
日が沈むと程なくして、眼下には新潟の夜景が現れた。
「そろそろ帰らないとな」
「うん、そうだね」
のぞみは頷いた。彼女の帰りをこれ以上遅くさせるわけにはいけなかった(のぞみは、家には「友達と夕方まで遊んで帰る」と言ってあるということだった)。
僕らは、家路に着いた。