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ココアファミリー

 次の日の夜、ミルクはいつもの場所に陣取っていた。

 看板は「占」に戻っていた。


 『ミルク、聞こえる?』

 「感度良好。バッチリよ」

 ミルクはスマホにイヤホンを付けてココアと通話をしていた。

 料金も二人なので倍の四千円にした。

 ココアは遠隔でも霊視が出来るので、家でのんびりとしながら会話をしていた。


 本当に大丈夫なのかと不安もあったが、取り敢えずやってみようと店を出した。


 「あれー、値段上がってる」

 通りかかった二人の若い女性が立ち止まった。

 「前二千円だったよね」

 「修行をして能力アップしたので値上げしてみました」

 若い女性相手なので、気軽に答えた。

 「能力アップ? じゃあ試しに見てもらおうかな」

 「何聞くのー?」

 「決まってるじゃん。アイツの事」

 二人のうちの一人が椅子に腰掛けた。


 さあ、ココア、頼むわよ。


 「じゃあ最初に生年月日教えて」

 ココアが生年月日だけは聞いといてと言っていたからだ。

 女性の生年月日を聞き終えると、ミルクは水晶玉に両手をかざし、静かに目を閉じた。

 

 『その子の今の彼氏、かなりバカ。その子頭良いから合わないし、付き合っても良い事無い。早く別れなきゃイイ人逃しちゃうよ。頭も良くて将来出世する人と結婚出来る。もう出会ってるけど、顔が残念過ぎて眼中にないみたい』


 ココアからの報告を占い師らしく話してみた。

 「貴女はとても頭の良い人ですね」

 「えー、そんな事分かるんですか?」

 「そうなのよ。私達こう見えて国立大学出身なのー。凄い、当たってる」

 二人の女性は驚いていた。

 「今の彼氏とは、学校や会社で知り合った人じゃ無いわね」

 「そうです! 実はバーの店員で、カッコ良くて一目惚れしちゃったんです」

 「あんまり話合わないんじゃないの?」

 「最初は知らない世界の話が面白くてのめり込んじゃったんだけど、確かに最近つまらなくなってきちゃった」

 「貴女には貴女にふさわしく、もっとレベルの高い男性が似合います。その方が幸せになれますよ」

 「えー、そうなんですか?」

 彼とは合わないと言われて少しショックを受けたらしいが、自分の学歴を誉められたような気がしてちょっと誇らしげにも見えた。

 「貴女には将来成功する男性との縁を感じます。もう出逢っています」

 「え? 誰だろう。どんな人ですか?」

 ミルクは再び目を閉じ、水晶玉からお告げを聞くふりをして、「相手はどんな人、どんな人……」と密かにココアに聞いた。

 『顔は残念、頭も寒い。でもスポーツやってたみたいで背は普通だけど筋肉質。その子より三つ歳上だな。取引先か何かの人だよ。近いうちに飲み会か何かで話す機会が来る』

 「了解」

 ミルクは目を開けて女性を見詰めた。

 「取引先の方だと思います。同じ会社ではないみたい。でも近いうちに一緒に食事をする機会がありそうです」

 「今年の忘年会は取引先とかのお世話になった人達も招待するって部長が言ってた……」

 「うそー、凄いじゃん。当たってるじゃん。ねえ、次私も占って下さい!」

 女性の友人もあまりに当たっている様子を見て自分も占ってくれと言い出した。

 その様子を見ていた通りすがりの女性も「当たるんですか? 私も見てもらいたい事があるから」と後ろに並んだ。


 そんな感じでその夜は八人のお客が来た。


 「ミルク、やったじゃん!」

 「うん、びっくり!」

 ミルクは店を閉め、ココアの家に寄った。ココアは両親と住んでいた。

 ミルクはココアの部屋で今日の稼ぎを分配していた。

 「一万六千円! 一晩でこれだけ稼げるなんてね」

 「週に四日だとしたら……月二十五万六千円! 毎日働いたら……四十八万円!!」

 ココアはスマホの電卓機能で一万六千円に色々な日数を掛けて計算をしつつ、驚愕の声を上げていた。

 「毎日はさすがに無理だけど、週に四日ならいけそうだよね」

 「そうだよね。平日でこの人数なら、週末だともっとお客が来るんじゃないの?」

 「かもねー」

 

 二人は興奮して話し込み、いつの間にか外が明るくなってきてしまった。

 「やばっ、朝だ。帰らなきゃ」

 「どうやって帰るの?」

 「タクシーかな。いつも行き帰りはタクシー使ってる」

 ココアは少し考えた。

 「確かにそのカッコと荷物じゃ電車って訳にはいかないな」

 いかにも占い師ですというファッションにテーブルと椅子、小物の荷物。

 恥ずかしいのと重いのとでミルクはタクシーを使わざるを得なかった。

 「ミルクの送り迎え、私がやるよ」

 「え?」

 「だってミルクはタクシー通勤で私だけ家でのんびりじゃ悪すぎるよ。ミルクだけお金かかり過ぎ」

 「有り難いけど……。でもお客が来るのはココアの能力のお陰で、私だけじゃお客なんて来ないから」

 「それは私も同じだよ。いくら当たったって私の性格じゃお客逃げちゃうよ。ミルクの話術があるからお客もちゃんと聞いてくれるんだし」

 ココアの提案はとても有り難かった。実際今までは毎日お客が来た訳じゃ無く、タクシー代がまるまる赤字だった。それに何と言っても先生に返さなくてはいけない借金があった。

 「いいの?」

 「勿論! それにこれから寒くなるのに私だけあったかい部屋にいるのも悪いし」

 うわ、そうだ。これから冬になって寒くなったらどうするんだろう。コート着て毛布でも膝に掛けて……。でもコートも占い師っぽいのじゃ無いとダメだよね。私そんなコート無いから買わなきゃいけないの?

 ミルクはこれからの事を考えて身震いした。

 「必要な物は稼ぎから買おうよ。あ、ガソリン代もね。それを引いてからお金は折半しよう。ゴメン、ミルクの考えてる事聞こえちゃった」

 ココアの能力を忘れていた。過去も未来も現在も、ココアには全てお見通しなのだった。

 「ついでに言うけどさ、先生の借金て多過ぎでしょ。そんなの払わなくても良いんじゃないの?」

 「え、でも借用書書いちゃったよ」

 「ちょっとおいで」

 「え……?」

 ミルクはココアに連れられてお茶の間に来た。

 「オヤジ、ちょっと起きてよ」

 ココアは両親の寝室のドアを開け、父親を起こし始めた。

 「何だ、こんな早くから……」

 寝ぼけまなこをこすりながらパジャマ姿の父親が出てきた。

 「ミルク、うちのオヤジ。法律に詳しいから聞いてみ」

 「ちょ、ちょっとココア……無理矢理起こさなくても……」

 「うわ、ココアの友達か? ちょ、ちょっと待ってて」

 ココアの父親は慌てて部屋へ着替えに戻った。

 

 「いや、改めまして、ココアの父です」

 「牛若ミルクです。朝早くからすみません」

 ミルクはかなり恐縮していた。

 「オヤジ、ミルクがバカみたいな借金して困ってるんだけどさ、ミルク話して」

 ミルクは悪いと思いながらも先生の借金について話した。

 「なるほど。確かにバカみたいな借金だね」

 お父さん、見かけは優しそうだが口の悪さはココアと一緒だ。

 「分かりました。先生から買ったという物全て預からせて下さい」

 「夜には使いたいんだけどさあ」

 「半日もあれば十分だ。夜には間に合う」

 「じゃ、ミルク。服も脱いで」

 「え、ここで?」

 「なわけ無いじゃん。オヤジに若い子の裸見せるなんてもったいない。私の服貸してあげるからおいで」

 ミルクはココアの部屋へ行き、ココアの服を借りて占い師衣装を脱いだ。

 着替えて再び茶の間へ行くと、今度はココアの母親が挨拶をしてきた。

 「いらっしゃい。ココアの母です。よろしくね」

 「突然すみません、ミルクです」

 「ココアが友達連れてくるなんて凄く久し振りで嬉しいわ。朝御飯食べてってね」

 「そんな、御構い無く……」

 ミルクはそう言ったが、お母さんはお勝手に消えて行った。


 「うわー、ホントに悪いわー」

 「気にしない気にしない」

 「ミルクさん、まあ折角だから食べてって。旨くないけど」

 「お父さん!」

 お勝手からお母さんの怒りの声が聞こえてきた。


 「私は司法書士をやってましてね。借金問題とかの相談を受ける仕事をしてるんですよ。しかしこれで二百万? ボッタクリもいいとこだよ」

 お父さんはミルクの着ていた服等を手に取って見ていた。

 「さあさ、出来たわよ。ココア、運ぶの手伝って」

 お母さんとココアがお勝手へ行き、朝食を運んできた。

 「いただきます」

 「母さん、味噌汁変な味だぞ」

 「今朝はヨーグルト入れてみたの。朝はヨーグルトがいいわよね」 

 「別々に食べたかったなー」

 「文句言わないの!」

 皆口は悪いけど、何か良い雰囲気だ。いかにもココアの両親という感じだ。

 「あらミルクちゃん、何かついてるわよ」

 そう言ってお母さんがミルクの肩を軽く叩いた。

 「あ、有り難うございます」

 糸くずか何かかなとミルクは軽く考えていると、

 「お母さんは視えるだけじゃなくてお祓いも出来るんだよ」

 とココアが教えてくれた。

 「え、えー?」

 じゃあお母さんが払ってくれたのって……。ミルクはちょっとパニックになった。

 「大丈夫。成仏したから」

 お母さんは笑顔で言っていたが、ミルクにはかなりの衝撃だった。


 食後の食器だけは運ばせて下さいとミルクもちょっとだけお手伝いをしてから帰る事にした。

 ココアが車で送ってくれると言ってくれた。

 ミルクは何度も何度もお礼を言って、ココアの家を後にした。


 「いいお父さんとお母さんだね」

 お父さんもお母さんも話しやすくて気を遣わずに過ごせて、良い家庭だと思った。

 「そお? 口の悪いオヤジとのんびりしてるわりに突然家族を恐怖におとしめるお母さんで、変な家だと思うけどな」

 でも皆仲良さそうだった。だからこんなに自由なココアが出来上がったんだろうなあと納得出来た。

 「ココアの口はお父さん似で、能力はお母さん似なんだね」

 「まあ、そうだね」


 ココアは家族を誉められて嬉しそうだった。

 しかしココアの運転は性格と一緒で乱暴だった。


 酔い止め薬買っとかなくちゃ……。

 眠気と車酔いで吐きそうなミルクだった。

 


 

 

 

 

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