ミルクココア
「この男性とはあまり相性は良くないですね。あなたにはもっと合う人がいるはずです。自分を磨いて待っていれば必ず現れます」
ミルクはかなり暗そうな女性の「悩み相談」を受けていた。
いや、この子は無理でしょ。暗すぎて、会社の人気ナンバーワンの男性と付き合いたいなんて無理でしょ。もっと明るくならなきゃ恋愛自体無理でしょ。
ミルクは何とか希望を持って明るくなってもらおうと、説得を試みていた。
「自分を磨くって、何をすればいいんですか……?」
「お洒落に興味をもったり、恋愛ドラマを観たりして、恋人が出来た事を想像してイメージトレーニングしたりするのもいいと思うわよ」
「なるほど……。やってみます」
女性は何となく納得して帰って行った。ミルクは女性の後ろ姿に「頑張れ」とエールを送った。
大抵のお客さんは女性で、恋愛相談が多い。経験の少ないミルクは、今まで観てきたテレビドラマとか漫画とかを参考にして対応している。それで何とかなってきた。まあ値段が安いから気休め程度にしか思われてないかもしれないけど。
そんなミルクの様子を物陰から見ていた人物がいた。その人物は客が帰ったのを見届けるとミルクの前にやって来た。
「見てもらえますか?」
ミルクよりも年下らしく、笑顔だが何か意地悪そうな感じの女性だった。下心がありそうに見えた。
「どんなご相談でしょう」
「私、友達がいないんです。出来ますか?」
困った顔をしていたが、いまいち真剣には思って無さそうだ。何か嫌な感じがした。
「友達欲しいんですか?」
「欲しいから聞いてるんですけど」
やっぱりこいつ気に入らない。
「努力してますか?」
「友達って努力しないと出来ないの?」
「そりゃそうよ。相手の話を聞いたり相談に乗ったり、色々知りたいと思ったり、自分の事も知ってもらおうとしたり、結構大変よ」
「めんどくさー」
こいつ、腹立つなあ。そんなんじゃ一生友達なんて出来ねーよ。ミルクはかなりイライラして来た。
「もしかして、貴女の望む友達って、女子同士が仲良くしてる友達とかじゃ無くて、仲間と言うか、同士みたいなのが欲しいんじゃ無いの?」
「そうそう、それ。私トイレ一緒に行ったり恋ばなする友達なんて要らないの。同じ目標を持って協力してくれる仲間が欲しいの」
こいつ変わってるなあ。まあ自覚してるからいいか。そう思っていつも通りにやる気を出させて説得にもっていこうとしていると、
「貴女仲間にならない?」
女性は目を輝かせて言った。
「へ? 私?」
「うん、何か気が合いそう」
いや、絶対合わないから、とミルクは心の中で思いっきり否定した。
「貴女、占い師っぽくしてるけど本当は占いなんて出来ないんでしょ」
な、何故それを……。
「その水晶玉だって偽物じゃん」
えー、偽物? やっぱり先生は詐欺師だ。偽物売り付けられて、まるで霊感商法じゃん。ミルクはガックリした。
「知らなかったの? 騙されたんだ。貴女人良さそうだからね」
「貴女占い師?」
「違う違う。私は霊感があるだけ」
「霊感!?」
ミルクは霊感がある人を初めて見た。そこら辺にいたんだと驚いた。って言うか、私の事何か見えてるの?
「言っちゃ何だけど、貴女って人が良いって言うか単純なんだよね。子供みたいに単純で騙され易いし思い込みも激しいでしょ」
単純じゃ無くて純粋と言ってくれ……。ミルクは見事に言い当てられてお手上げ状態だ。
「私さあ、視る能力は有るんだけど口が悪いから商売には向かないのよ。だから口が上手い貴女と組めば儲かると思うんだ。ずっと貴女みたいな人を探してたの」
ミルクは何て答えていいか分からなかった。
確かにこいつと組めば儲かりそうだ。でもこいつがどんな人間かまだ分からない。たった今こいつの口から「騙され易い」と聞いたばかりだし、それで騙されたら馬鹿みたいだ。
「えっと、私は占い師っぽく見えちゃうかも知れないけど、やってる事はお悩み相談だし、占いの能力も段々磨いて行こうかなとは思ってます」
「警戒してるんでしょ。オーラを見れば分かるわよ」
「オーラも見えるの?」
「オーラもお化けも見えるよ」
「お化け……」
「貴女の後ろにもいるよ」
「えー!?」
「ああ、守護霊だった」
話が異次元過ぎて付いて行けなかった。でも興味が無いわけじゃ無かった。もっと色々聞きたくなった。
「お店仕舞うから、どっかでお茶しない?」
ミルクがそう提案し、二人は近くの二十四時間営業のファミレスへ行く事にした。
「私ココアっていうの。貴女は?」
「私はミルク」
「ふうん。ミルクココアか。相性ぴったりじゃん」
「そ、そうかな」
どうもミルクと言う名は適応範囲が広いらしい。
「ね、やろうよ。二人でやれば儲かるよ」
「でも私となんか組まなくたって、ココアさん一人でも稼げそうじゃないですか」
「普通の話し方でいいよ。私客じゃ無いし」
「あ、そう?」
「うん。私さあ、前は一人でやってたんだけどさ、視た事そのまんま言っちゃって客を怒らせたり、酷い時はケンカになっちゃったりして。私には向いてないって悟ったよ。だから言葉を選べて文句言われてもケンカ腰にならないお人好し、じゃ無くて心の広い人を探してたの」
お人好し……。ココアの言葉はいちいち人を傷つける。確かに客商売には向いてない。
「だからさ、一緒にやって」
ミルクは悩んだ。さてどうしたものか……。ココアの能力は魅力的だ。でも性格が悪い。いや、悪気は無いかもしれないけど態度が悪い。
「あのさ、一緒にやるかどうか決める前に会ってもらいたい人がいるの」
「何? テストするの?」
「テストっていうか、視てもらいたい人がいるんだ」
「やっぱテストじゃん。その人の事視て当たってたら採用、みたいな?」
「疑い深いなあ。そうじゃ無くて、その人は困ってて、藁をも掴みたいらしいの」
「私は藁なのね」
あれ、私もココアと同じ事してる、とミルクは気が付いた。もしかしてココアにイライラするのは自分と似てるからなのかな、と思った。だって親を見てイライラするのって、親の嫌な所に自分も似ちゃってるからだったりするから。
「いや、ゴメン。悪気は無いの、物の例えなだけなの。ココアさんの能力は認めるから、視てあげて欲しいの」
「やっぱりミルクって素直だね。私が見込んだだけあるよ。いいよ。視てあげる。いつにする?」
ミルクはイチゴに連絡を取った。明日先生の所が終わったらいいよとの事だった。ココアにそう言うとココアもいいと言ったので、明日三人で会うことになった。だとすると夕飯を兼ねようとココアが言った。場所は何処にしようかと考えた。
「あ、星茶屋!」
「何処それ?」
「そんなに遠く無いし、ちょっといい雰囲気の喫茶店。マスターが占星術師なんだ。食事もあるから行ってみようよ」
「面白そうだね」
ココアも乗り気なので星茶屋に決めた。二人は明日の待ち合わせの時間や場所を決め、別れた。
ココアはイチゴの所をどう視るのかな、と思うとワクワクしてしまうミルクだった。