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ホロスコープ

 さて、料金をいくらに設定しようか。

 ミルクは悩んでいた。

 それよりも私は占い師で生きていけるのだろうか。成功できるのだろうか。

 というか占い出来ない占い師ってどうなんだろう。

 悩みは尽きない。


 こういう時には、とミルクはスマホで近くの占い師を検索してみた。

 自分の住んでいる地域にも結構占い師がいる事を知った。占いの館的なものや占い喫茶なるものもあった。

 気軽に行けそうなのは占い喫茶かな、とミルクは行ってみる事にした。


 裏通りにある、よくある喫茶店に見えたが、店の名前が「喫茶 星茶屋」。これは絶対星占いだな、と思った。


 店に入ると外観との違いに驚いた。

 店内は薄暗く、天井には星が輝いていた。

 「ここ、デートにいいな……」

 そんな雰囲気だった。


 「いらっしゃいませ。喫茶ですか? 占いですか?」

 店のマスターらしき男性がにこやかに聞いてきた。

 「占いお願いします」

 「じゃあ、こちらへどうぞ」

 ミルクは奥のボックス席へ案内された。その席にはパソコンとプリンターが備えられていた。


 「私は占い師の黒井加賀男です。西洋占星術を使います」

 やっぱり星占いだった。

 「では貴女の生年月日と、わかれば生まれた時間と場所を教えて下さい」

 黒井は占い師らしからぬ喫茶店のマスターの衣装で、パソコンにミルクの生年月日を入力していった。

 プリンターから印刷されて出てきた一枚の紙を黒井はミルクに示した。

 「これが貴女のホロスコープです」

 丸を幾つかに分割した図に、様々な記号が散りばめられていた。

 「さて、何を聞きたいですか?」

 「あの、私独立する事になったんですが、上手くいくのか不安なんです」

 「貴女は思い立つと後先考えずに突き進む傾向がありますね」

 「その通りです……」

 自覚していなかったが、言われてみればその通りだ。

 「でも他人が困っていると助けようという優しい心を持っています」

 「優しいというより、ほっとけないんです。お節介なのかもしれません」 

 「その性格を活かして、人の相談に乗るお仕事をすれば成功すると思いますよ」

 「あの、相談に乗るだけでは無くて解決してあげられますか?」

 「解決しなくても、話を聞いてあげるだけでも相手は安心するものですよ。安心したら自分で解決する意欲も出ます」

 「いえ、解決しなければならないんです」

 「それは大変なお仕事ですね。そもそも何を持って解決としますか?」

 「え、例えば好きな人と付き合うようになるとか……」

 「では付き合ってみたら思っていたのと違っていてすぐに別れたとしても?」

 「そしたらまた悩みが出来てまた相談に来る……」

 「相談がお仕事なら商売繁盛になりますね。人間というものは生きている限り悩みは尽きませんからね」

 「なんか、変ですね」

 「はい」

 黒井はニッコリ笑って言った。

 「何のお仕事をされるんですか?」

 「あの……占い師です……」

 「偵察ですか?」

 「違います!私、本当に悩んでて。大体私に向いてるのかも分からなくて」

 「コーヒー入れてきますね」

 黒井は席を立った。


 芳ばしくてまろやかな香りがしてきた。

 マスターがお湯を注いでいた。

 

 「どうぞ」

 「ありがとうございます」

 一口飲むと、何か落ち着く感じがした。

 「マスターは占いを誰かに教わったんですか?」

 「いいえ、私は自分で勉強しました」

 「本とか読んでですか?」

 「はい、最初は星占い入門から始まって。でも星占いだと人間を十二にしか分けられなくて、それだけじゃ駄目だと思いホロスコープの勉強をしました」

 「十二じゃ大雑把過ぎますよね。まあ血液型占いよりはいいかもしれないけど」

 「はい。で、ホロスコープで占うともっと詳しい事までわかるようになり、夢中になりました」

 「確かによく当たってました」 

 「星占いにしろ、手相占いにしろ、結局は統計学ですよ」

 「統計学?」

 「はい。この日のこの時間に生まれた人はこう言う傾向があるとか、掌の線がこうだとこう言う傾向があるとか。長年の統計を元にして割り出した結論みたいなものですね。だから占いというより統計の結果を当てはめるみたいな物です」 

 「なるほど」

 「貴女はどんな占いをするんですか?」

 「一応水晶玉です」

 形だけで実際は飾りでしか無いのだが。

 「それは大変そうですね。かなりインスピレーションが必要でしょう」

 「そうですね……」

 真面目に占いをしている人に、実はインチキですとは言えなかった。

 「ホロスコープも統計学とはいえ、インスピレーションは必要なんですよ。同じホロスコープを見ても解釈は占い師によって違いますから。これはタロットや筮竹にもいえます」

 「解釈の違い?」

 「はい。例えば占いの結果に複数の異性が出たとします。もてると判断するか、風俗で働くと判断するかによって、全然違いますよね」

 「全然違いますね!」

 「どちらを相談者に伝えるかは占い師次第です」

 「難しいですね」

 「他の占いからみて風俗が正解だと判断したとしても、それを正直に伝えるのも辛いです」

 「そうですね。そんな時はどうするんですか?」

 「そうですね……。それは企業秘密です。経験を積んで、貴女なりの答を見つけて下さい」

 マスターはニッコリ笑って言った。

 「貴女は人に安心や癒しを与える事が出来る人です。占いの能力があれば占い師として成功しますよ」

 マスターはそう言ってくれたが、ミルクには肝心の占いの能力が無かった。

 「どうすれば占いの能力を磨く事が出来ますか?」

 「そればかりは確かな答はありませんよ。どの占い師も同じ悩みを持っています。今よりもっと能力を磨きたいってね」

 

 店のドアが開き、ウェイトレスが新たな占いの客が来たと告げに来た。

 ミルクは随分話し込んでしまった事に気が付いた。

 「すいません、長々と相談に乗ってもらっちゃって」

 「いえいえ、もっとアドバイスしてあげたかったんですが、すみませんでした」

 「あの、また来ても良いですか?」

 「どうぞ。お待ちしていますよ。あ、今度は私の事を占って下さい」

 「えー……。修業してきます……」

 「待ってますね」


 レジでウェイトレスさんにお会計をしてもらった。五千円だった。

 「これって占いの料金だけですよね。私コーヒーも飲んだのでコーヒー代もお願いします」

 「鑑定にはコーヒーも付いているので、五千円だけでいいんですよ」

 「そうなんですか?」

 「今後占い抜きでもコーヒーや食事に来てもらえればって言う事で、そうさせてもらっています」  

 「なるほどー」

 ミルクは五千円払い、店を出た。


 結局占い師としては能力があれば成功すると言う結果だったが、そんな事言われても解決にならない。

 でも、今日は色々な事を勉強出来た。統計学だとしても良く当たっていた。今度イチゴを連れて来ようと思った。

 それから商売でも教わる事はあった。占いと喫茶店を一緒にやる事によって集客を増やそうとしている。どっちか片方をやるよりは収入は多くなるはずだ。

 ミルクには真似の出来ない方法だが何かの参考にはなりそうだ。

 先生だって個人の鑑定だけでは無く、雑誌の仕事もしているし、詐欺の仕事(?)もして稼いでいる。

 占い師一本じゃ駄目なのかなあと不安になってくる。

 何か他の占い師とは違う個性が必要だと思う。


 私には何があるだろう。


 夜、ミルクはいつもの場所で店を出した。料金はとりあえず二千円にしてみた。黒井があれだけ当ててコーヒー付きで五千円なら、占いの出来ない自分はそんなに取れないと思ったからだ。

 看板も今まで「占」と出していたけれど「お悩み相談」に変えてみた。

 占いでは無くてお悩み相談なんだから外れようが苦情が来ようが言い訳は出来る。我ながらいい考えだ。

 でもやっぱり心苦しい。ずるをしている気がする。

 「占いの能力を磨けば」

 黒井の言葉が頭に浮かぶ。

 よし、占いの能力を磨こう。本当の師匠を探そう。

 ミルクはスマホで当たると評判の占い師を検索するのであった。


 

 

 


 

 

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