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冷静と混乱

 日によって忙しい日、暇な日、悪い結果ばかりの日、嬉しい結果の日と、色々な日があったが、ミルクとココアは忙しい日々を送っていた。

 新規、リピーター、口コミと、繁盛していた。


 今夜もミルクの占いコーナーには長い列が出来ていた。

 「この前みてもらったらさー、彼氏とは相性悪いって言われて、頭来てお金払わないで帰ったんだー。だけどその後彼氏に他の女がいた事わかってさー」

 「えー、凄いじゃん」

 「ここは当たるよ」

 「わー、楽しみ」

 列に並びながら女子達が話をしていた。

 その会話を静かに聞いていたのは中年の品の良さそうな、サングラスをかけた女性だった。


 順番が進み、その女性の番が来た。  女性は上品に椅子に座ると、

 「おひさしぶり。頑張ってるようね」

 女性がサングラスを取りニッコリと微笑んだ。

 「先生!!」


 その女性はマダムバタフライだった。


 「ちょっと様子を見に来たらたくさんの人が並んでいて驚いたわ。つい私も並んでしまったのよ」

 上品に笑ってみせてはいたが、目は笑っていなかった。

 「私もちょっとみてもらおうかしら」

 「は、はい。わかりました。では生年月日を教えて下さい」

 「年を聞いて、その年齢による悩みとか考え方とかを判断するのね」

 先生はミルクが精神分析を占いとしてやっているものだと思い込んでいた。

 「こんなにお客様がくるなんて、勉強したのね。あ、でも私は年齢は非公開なので、お誕生日だけでお願いね」

 「わかりました」

 

 ミルクは先生の誕生日をココアに伝え、水晶玉に手をかざした。

 「まあ、大分慣れてきたのね。もう一人前の占い師だわね」

 先生はわざと大袈裟にミルクをほめた。

 ミルクはココアからの鑑定結果を聞き、ちょっとビックリしたが、わざと威厳を持って先生を見つめた。


 「先生、昔は一重まぶたでしたね」

 「な……」

 先生は言葉を失った。

 ミルクはたたみ込むように続けた。

 「以前は苦労されて地味な生活をされてましたね。その生活から抜け出そうとして、手始めに美容外科に行き、顔を変えましたね」

 「わ、私が整形したって言いたいの?」

 先生はかなり動揺していた。

 「そして勉強を重ねて今の地位を築いたのですね。大丈夫ですよ、まだしばらくは先生は第一線で活躍出来ます」

 「そ、そう。それは良かったわ」

 

 先生が落ち着きを取り戻そうとしている時、ココアから新たな鑑定結果が告げられ、ミルクは思わず「えっ!?」と叫んでしまった。ミルクにも納得出来ない結果だったからだ。でもココアの鑑定が今まで外れた事は無いので、ミルクは再び口を開いた。


 「色々苦労されて今は娘さんと一緒に生活されているようで、良かったですね」

 「え!?」

 先生の顔が真っ青になった。

 「何でそんな事知ってるの? あの子も知ってるの?」

 先生はかなり取り乱して聞いてきた。

 「ずっと秘密にしていたのに。あの子も知らないと思っていたのに……」

 先生は涙を流し始めた。あまりに先生が取り乱してしまったので、ミルクはココアに助けを求めた。


 「かなり先生ショック受けてるみたいだけど……」

 「だって本当の事だもん。しょうがないなあ」

 ココアは先生が落ち着くような事を視てミルクに伝えた。

 

 ミルクは泣いている先生の手を握り、優しく話しかけた。

 「娘さんは先生が母親だとは気付いていません。ただ先生を慕って一緒にいます。でも、娘さんは母親を探しています。ずっと、心からまた会いたいと思っています。だから……時期をみて先生から話してあげて下さい。最初はきっと驚くでしょうが、娘さんは必ず許してくれます。だって大好きなお母さんなんだから」

 

 先生はなお一層激しく泣き出した。

 「最初に見た時はわからなかったの。だってまだあの子は小学生だったから、全然変わっちゃってて。わからなかったのよ。でも名前聞いて驚いたの。そしてよく見たら昔の面影が残っていて、私にそっくりな一重の目をしていて……。まだ私を探してくれているの? あの子は……。本当に許してくれるのかしら……」

 「大丈夫です。絶対」

 「そう……。そうよね。いつかは言わないといけないわよね。ありがとう」

 そう言って先生は一万円札をテーブルに置いて立ち上がった。

 「先生、こんなにいりません」

 「ご祝儀よ」

 先生はいつもと違って優しい母親の顔でそう言った。


 「今日も稼いだねー」

 帰りの車の中でココアが感心していた。

 「本当にね。毎日よくお客さん来てくれるよね」

 夜食のおにぎりにかじりつきながらミルクがこたえた。

 「でも先生が来たのにはビックリしたなあ」

 「偵察に来たんだよ。最近はネットとかでもミルクの事よく当たる占い師だって書き込まれてるから」

 「え、そうなの?」

 「知らなかったの? ノンキだなあ」

 「そうなんだ」

 自分の事がネットで話題になってるなんて、ミルクはかなり驚いた。

 「だから新規のお客さんも来るんだよ」

 「そうか、ありがたいねー」

 「だけど書き込みは怖いよ。悪い事書かれたら大変だよ。特にライバルの占い師とかが悪意の書き込みとかしてきたらお客さん来なくなりかねないよ」

 「そうだよね。当たってたのに当たってないって書かれたら評判落ちるよね」

 「たまに来てるよ。同業者」

 「え? そうなの?」

 「うん。まあ今んところ悪意を持った人は来なかったから言わなかったけどね。様子を見に来た人とか、自分の事占わない人とかが来てたよ」

 「自分の事占わない? 何で? 占い出来ない占い師?」

 「違うよ。占い師によっては自分の事や家族なんかは占わないっていう人多いよ。名前や生年月日で占う占いならいいけど、タロットとか、インスピレーション使う占いって、冷静で客観的な判断が必要じゃん? 自分や家族の事占う時に冷静に客観的になんて無理じゃん。絶対希望とか期待とか入っちゃうもんね」

 「なるほど、そうだよねー」

 「正直、今夜の先生、悪意満々だったよ」

 「え、そうなの?」

 「最初は様子見で来たのにお客の行列を見て何とかする気満々でミルクの前に座った」

 「そうなんだ」

 「適当に鑑定受けて、後で悪い噂流すつもりだったみたい」

 「うわー……」

 「どうせ自分が教えた延長でやってるんだろうくらいにしか思ってなかったんじゃない? なのに色々言い当てられてかなり驚いてたよね」

 「うん、かなり動揺してた」

 「かなり複雑な先生だね」

 「私もココアの鑑定聞いてビックリしたよ。まさかあんな過去があったなんてね。整形した上に隠し子がいたなんてね」

 「波乱万丈だね」

 「私もしばらく先生のところ通ってたけど娘いたなんて気が付かなかった。一緒に暮らしてないのかな。それとも昼間は仕事に行ってたのかな」

 「え?」

 「え?」

 「ココア、前!」

 ココアは赤信号なのに止まらずに通過してしまった。

 「ちょっとー、気を付けてよ。車来なくて良かったねー」

 夜中なので他に車が殆ど走っていなかった。

 「どうしたの?」

 「ちょっと一瞬気を失ってた」

 「え?」

 「え? じゃないよ。ミルク、気が付いてないの?」

 「何を?」

 「……また気を失いそうだ」

 「えー! ちょっと、ココア疲れてるの?」

 「あんたと話してると疲れる」

 「……」

 「ミルク鈍感すぎ」

 「何が?」

 「先生の娘ってイチゴでしょ」

 「えー!!」 

 今度はミルクが気を失った。


 「本当に気が付かなかったの?」

 「うん、全然。うーん、そう言われればそうだよね。うん、確かに……そうだよね。うん……」

 「まったく。まあわかっていたら冷静に先生に伝えられなかっただろうね」

 「無理だっただろうな。私が動揺しちゃって先生を落ち着けるどころじゃなかっただろうな」

 「占い師が自分や知り合いを占うと冷静でいられないって事だね」

 「実感したよ。いくら当たる占い師でも感情入っちゃってちゃんと判断出来ないよね……。ココアは自分の事視れるの?」

 「視れるよ。家族の事もね。いつどうなって死ぬのかもわかってる」

 「うわー、それも辛いね」

 「まあ、うちにとってはそれが当たり前だし、だからって悲しんで生きてくのはつまらないし、わかってる分それまでは楽しく仲良く出来る」

 「そんなもんなのかー」

 「霊視ってさ、事実が視えるんだよ。だから変えようがない。でも占いの結果って変えられるんだよ」

 「え、そうなの?」

 「じゃあミルクは占い師に言われたら何でも信じる?」

 「いい事は信じて悪い事は信じない」

 「占い師にメッチャ貧乏で不細工で乱暴な男と結婚しなさいって言われたら結婚する?」

 「絶対しない」

 「自分で選べるって事だよね。気に入らない結果には逆らって違う道へ行ける」

 「占いの結果が気に入らなかったら違う占い師のところへ行けばいいしね」

 「そういう事。自分の未来は自分で決められる。その結果が良くても悪くても自分の責任だからあきらめがつくよね」

 「占いは迷った時に参考程度に聞けばいいんだよね」

 「迷った時にアドバイスしてもらったり背中を押してもらえるだけでも嬉しいもんね。最低話を聞いてもらうだけでもスッキリする人もいるしね」

 「……ココア、勉強してるね」

 「勉強しなきゃ。私も命懸かってるからね」

 「そっか。ココアは悪霊とも戦わなくちゃいけないしね」

 「そうだよー」


 ココアの大変さに比べて私は何て気楽にしてるんだろう、とミルクは反省した。

 私ももっと勉強しなきゃ、と思ったミルクだった。

 

 


 


 

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